Hyper-V 2.0のライブ・マイグレーションの構築ノウハウを紹介。性能と可用性を意識したシステム設計のポイントとは。
第1回では、ライブ・マイグレーションの仕組みについて背景も含めて解説した。今回からは、前回の内容を踏まえつつ、「パフォーマンス」や「可用性」など、実運用環境への導入を意識したライブ・マイグレーションの設計ポイントについて解説していく。
最初にライブ・マイグレーションを実現するための要件について解説しよう。下表は、ライブ・マイグレーションを利用するための理論的な最低システム要件と、実際に実運用環境へ導入する際の現実的な要件をまとめたものである。
Hyper-V 2.0の最低要件 | Hyper-V 2.0+ライブ・マイグレーション | |||
最低要件 | 現実的な要件 | |||
サーバ台数 | 1台 | 2〜16台 | ← | |
プロセッサ (Intelプロセッサの場合) |
下記のすべてを満たすこと ・Intel VT-x(VT) ・Intel XD-bit ・Intel 64(EM64T) |
← | ←に加えて ・Intel VT-x2(EPT) ・移動元と移動先は同じものを用意する |
|
プロセッサ (AMDプロセッサの場合) |
下記のすべてを満たすこと ・AMD-V ・AMD NX-bit ・AMD64 |
← | ←に加えて ・AMD RVI ・移動元と移動先は同じものを用意する |
|
外部接続用ポート (ネットワーク用) |
1ポート | 2ポート | 6ポート(冗長化を考慮) | |
外部接続用ポート (ストレージ接続用) |
不要 | 1ポート | 2ポート(冗長化を考慮) | |
共有ストレージ | 不要(サーバ内蔵ディスク) | SCSI-3 SPC-3コマンドに対応した下記接続形式の共有ストレージ ・FibreChannel ・Shared SAS ・iSCSI |
←(iSCSIを選択する場合は、帯域不足による性能劣化に注意) | |
仮想ディスクの種類 | ・VHD(容量固定) ・VHD(容量可変) ・VHD(差分ディスク) ・パススルー・ディスク |
・VHD(容量固定) ・VHD(容量可変) |
・VHD(容量固定) | |
ホストOS (親パーティション) |
・Windows Server 2008 R2 Standard ・Windows Server 2008 R2 Enterprise ・Windows Server 2008 R2 Datacenter ・Hyper-V Server 2008 R2 |
・Windows Server 2008 R2 Enterprise ・Windows Server 2008 R2 Datacenter ・Hyper-V Server 2008 R2 |
← | |
ゲストOS (子パーティション) |
Hyper-V 2.0に対応し、統合コンポーネントがインストールされたOS | ← | ← | |
そのほか | 特になし | ・Active Directory環境 ・動的更新に対応したDNS |
← | |
ライブ・マイグレーションのシステム要件 ライブ・マイグレーションは、Windows Server 2008 R2のフェイルオーバー・クラスタ機能を利用するため、Enterprise以上のエディションやActive Directory環境が必須となる。実運用環境へ導入する場合は、性能維持や経路冗長なども検討していかなければならない。 |
この表の内容について詳しく解説する前に、ライブ・マイグレーションの構成設計の核となるポイントを2点説明しておこう。
1つは、第1回で解説したとおり、ライブ・マイグレーションがWindows Server 2008 R2のフェイルオーバー・クラスタ機能(WSFC)を利用しているということである。つまり、Hyper-V 2.0単体の要件に加えてWSFCの要件も考慮するということだ。Hyper-V 2.0の要件については、次の記事も参考にしてほしい。
もう1つのポイントは、常に可用性を意識して設計するということである。ライブ・マイグレーション導入の最大の理由は、業務サービスが滞りなく稼働するためであるはずだ。したがって実運用環境では、何らかのトラブルが発生しても業務サービスが可能な限り継続するように性能維持や冗長性を考慮した設計を行わなければならない。
■サーバ
ライブ・マイグレーションは、ホスト間を仮想マシンが移動するため、当然ながら2台以上のサーバ・マシンが必要となる。最大数は16台だ。また、仮想マシンが移動するに当たり、移動先ホストはプロセッサ・パワーやメモリ容量などに余裕を残しておくことを忘れないようにしたい。
サーバ・マシンの台数が多めの環境でコストを抑えるテクニックとして、仮想化で一般的に利用される2ソケット・サーバではなく、あえて4ソケット・サーバのような集約率の高いマルチプロセッサ・サーバを選ぶという方法がある。「2プロセッサ、32Gbytesメモリ」のサーバ・マシンを6台用意するよりは、「4プロセッサ、64Gbytesメモリ」のサーバ・マシンを3台用意した方がコストを大幅に抑えられることがあるためだ。
このカラクリは、サード・パーティ製ソフトウェアのライセンスにある。サーバ・マシン単位で課金されるソフトウェアは、2ソケット・サーバでも、より多く集約できる4ソケット・サーバでも、必要なライセンス数は1個であり価格は変わらない。この特徴をうまく利用すると、下図のようにライセンス・コストが単純計算で半分になる。もちろん、2台を1台にしてしまうと冗長性が満たせず、ライブ・マイグレーションもできなくなってしまうが、それなりの台数規模であれば大幅なコスト効果が期待できることが分かるだろう。このようなソフトウェアの例としては、シマンテックのHyper-V対応バックアップ製品「Backup Exec」の「Agent for Microsoft Virtual Servers(AMVS)」などが挙げられる。
■プロセッサ
プロセッサについては、Hyper-V 2.0単体の要件どおりである。Intel VTやAMD-Vなどは必須要件であり、SLAT(Second Level Address Translation)と呼ばれるIntel EPTやAMD RVIに対応したプロセッサを選択することが推奨される。
なお移動元と移動先の各サーバのプロセッサは、同じものを用意しよう。しかし、運用開始後にサーバを追加増強しようとする場合、ある程度経過すると同じプロセッサは販売終了で購入できない。Hyper-V 2.0にはこういった場合の救済機能「プロセッサ互換性モード」も用意されているが、デメリットもあるためできる限り利用すべきではない(プロセッサ互換性モードについては、次回以降で詳しく解説する)。
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