「冬季うつ」を防ぐ――賢い冬の過ごし方心の健康を保つために(17)(1/2 ページ)

ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。

» 2010年01月20日 00時00分 公開
[石川賀奈美ピースマインド]

 冬になり、すっかり日が短くなりました。どんよりとうす曇りの日など、気分が晴れないこともありますね。いつも冬にだけ「うつ的な症状」が表れる方は、もしかしたら「冬季うつ」かもしれません。

「冬だけ」体調が優れないWさん

 夏ごろは元気な笑顔を見せていたWさん。冬になったら何だかけだるそうです。

 「秋から冬への季節の変わり目ぐらいから3月初めまで、日中すごく眠くなって集中力が落ちてしまうんですよね」とのこと。念のため、最近仕事量や人間関係で変わったことがないか聞いてみましたが、特に変化はないそうです。

 「春になると、何となく元に戻っていることが多いんですけれど」とWさんはおっしゃいましたが、一応心療内科に相談してみるよう勧めました。

 その結果、「季節性感情障害」ではないか、と医師からいわれたそうです。季節性感情障害(季節性うつ病ともいい、冬のみの場合を冬季うつといいます)とは、うつ病とは違うものなのでしょうか?

「冬季うつ」と「うつ病」の違い

 米国精神医学会が発行している『DSM―IV―TR 精神疾患の分類と診断の手引き』*1では、季節性感情障害は「気分障害」に分類されているため、うつ病の一種といえます。アメリカのノーマン E.ローゼンタールが、1984年に「季節性うつ病」として発表しました。

*1(The American Psychiatric Association編/高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳:医学書院、2003年)


 冬季うつは、「集中力の低下や仕事の処理がうまくいかなくなる」「気分が沈みがちになる」など、いわゆるうつ病と似た症状が見られます。しかし、具体的な症状において以下の違いがあります。

(1)冬だけに症状が出る

(2)過眠(睡眠時間が長い)

(3)食べ物の嗜好(しこう)が炭水化物(パンやごはん)や甘いものに偏る


 うつ病の場合はどちらかといえば不眠傾向になりますし、食欲が落ちることも多いようです。また、発症のきっかけは「特にない」場合が多いといわれていますが、日照時間が大きく違う土地へ転居した場合に起きることがある、ともいわれています。

※うつ状態そのものは比較的軽いといわれる場合がありますが、うつ病の初期症状である可能性があるので、自分で判断せずに専門医に相談することをお勧めします。


いますぐ始められる、日常生活の工夫

 Wさんの場合はうつ症状が比較的軽く、仕事に大きな支障があるほどではありません。少し服薬しながらしばらく様子を見ることになりました。Wさんには、日常生活で工夫できることをお話ししました。

(1)日光を浴びる

 冬季うつには「高照度光療法」が有効な治療法であるといわれています。この療法は、早朝から午前中の間に2時間ほど2500?1万ルクスの照度で蛍光灯の光を浴びるというものです。

 日常生活では、朝日に当たるように心掛けるといいようです。必ずしも晴れの日光である必要はありません。自然光で朝日を浴びる場合、曇り空は約1万ルクス、雨空でも約5000ルクスと、光療法には十分の照度があります。明るい光が目に入ることによって、脳内神経伝達物質であるセロトニンが増加し、症状を改善するという仮説によります。

(2)早起きをする

 「人間の体内時計が約25時間でセットされている」ことは、ご存じの方も多いと思います。朝に光を浴びることで、体は体内時計を24時間のリズムにセットし直しているといわれています。

 これには「メラトニン」というホルモンがかかわっています。冬季うつの患者さんの場合、メラトニン分泌のタイミングが遅れがちであり、そのためにうつ状態が引き起こされているのではないかと考えられています。

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