デキる人研究家が語る「非効率な仕事」のススメ特集:生き残れるITエンジニアの「仕事術」(5)(1/2 ページ)

「無駄だから」と省略することで、失うものについて考える。新しいアイデアや視点、面白い人との出会いなど、無駄からしか生まれないものはたくさんある。「非効率的なことをする」「人間関係は公私混同」など、逆転の発想から「これからを生き延びる能力」について考える。

» 2010年01月29日 00時00分 公開
[夏川賀央@IT]

 「仕事を効率化して、時間を有効に使おう」。ビジネス書や雑誌、勉強会などで誰もが口を揃えていいます。でも今回、わたしはあえて「非効率」のメリットを提唱したいと思います。

そもそも「デキる人」って何だ?

 「非効率」について考える前に、まずは「仕事がデキる人」について考えてみます。

 例えば、あなたがITエンジニアで、Aというプログラムを書けるとしましょう。隣の人はAだけでなくBというプログラムも書けるとします。だったら、自分より隣の人のほうが「デキる」ということになるのでしょうか?

 もちろん、そんなことはありません。別にあなたの能力が劣っているわけではありませんし、勉強すれば知識の習得は可能だからです。いままで必要がなかったから、その知識を持っていなかっただけ。

 けれども、会社で「いまのプログラムでは対応できない」ということになったとき「いつものAではなく、Bでやりましょう」と、知識をもって問題解決を図れる人がいたら「アイツはデキるな!」ということになります。

 同じように、「あの会社っていまどうなっている?」ということが話題になったときに「こういう状況です」と、すぐに情報を提示している人は「デキる人」と呼ばれます。突然会社にお客さんが訪れたとき、さっと機転を利かせて「ここではこんなことをやっています」などと分かりやすく丁寧に説明することができれば、こういう人も「デキる人」といわれるでしょう。

 「そんなことは、いままでやったことがなかった」

 「それは自分の仕事で必要なことではなかった」

 そんなことをいっていては、いつまでも「デキる人」にはなれません。

 要は「引き出し」をたくさん持ち、“いざ”というときに臨機応変に活用できる人が「デキる人」なのです。そうなるためには「効率」なんていっていられない。むしろ「非効率」が重要になります。

逆転の発想から考える「非効率」のススメ

 読者の方の多くが、ITエンジニアだと思います。ITといえば「いかに効率的に情報のやりとりを可能にするか」というコンセプトで発展してきたもの。「非効率」なんて、最も似つかわしくないものに見えますよね。でも、少し考えてみてください。

 例えば「『マイクロソフト』という会社についてレポートを書いてきなさい」と命じられたとします。

 最も効率的なのは、ウィキペディアなどのWebサイトを一通り参照すること。少なくともレポートを書くのに必要な情報はずらっと並んでいます。コピー&ペーストを駆使して文章にしていけば、模範解答はすぐにできあがってしまいます。

 一方で、マイクロソフトやビル・ゲイツに関する本、あるいはコンピュータ業界に関する本を片っ端から買ってきて読破したとします。その中には、この会社を持ち上げる意見もあれば、批判する意見もある。ゲイツ本人の考え方だけに触れた本もある。レポートを書こうとしても、あなたの思考はかえってドツボにはまってしまうかもしれません。

 では、どちらの作業が「得」なのでしょうか?

 「期限内に模範的なレポートを出す」目的からすれば、Webサイトの情報収集だけで終了させた方が、圧倒的に得をしています。ただし、受験勉強と同じで調べた情報はほとんど身に付いていません。

 一方で、本を読んで「こっちは評価しているけど、こっちは批判している……どちらが正しいんだろう?」と考えることや「ビル・ゲイツはこんな発想でビジネスに成功したんだ」と知ることは、この先の仕事で十分に役立つ余地があります。“いざ”というときに対応できる、「引き出し」にしまえる知識にもなるのです。

 こういうケースはたくさんあります。仕事上の課題やクライアントとの打合せ、日々の学習において“必要十分”な力でこなしてきた人と、一見「ムダ」と思えることまでに手を広げていろいろなことを考えてきた人との間には、どんな差が出るか?

 「効率」ばかりを求めて仕事を進めてきた人は、その場その場の結果を出すだけで、広い目でみれば多くの学習経験を喪失しています。一方で、「非効率」を重んじてきた人は一見ムダが多いように見えますが、自分自身の思考の幅、仕事を広げるオプション的な知識やスキルを蓄えています。わたしがいいたいのは、そういうことなのです。

必要なスキルは移り変わる

 外山滋比古さんが書いた本『思考の整理学』(筑摩書房 、1986年)に「グライダー能力」と「飛行機能力」という話が出てきます。「グライダー能力」とは、受動的に知識を得るだけで、ただ真っすぐ目的地に到達する力のこと。「飛行機能力」とは、自分で動力をもって、好き勝手にあらゆる目的地へ飛んでいく力のことです。「効率に徹する」というのは、飛行機の能力を無視してひたすらグライダーの滑空をやり続けることと同義です。

 学校でならともかく、いまのビジネス社会で「グライダー」型の人は圧倒的に損だとわたしは思います。

 ITエンジニアは、自分自身の専門的な能力によって成果を出せる職業です。つまり、“専門的な部分”をどんどん強化していけば、より効果的に自分を磨きあげることができる職業ということです。

 では、「専門」とはどういうことでしょうか?

 例えば会社の売上が悪くなって「これからは積極的にクライアントさんの話を聞いて、相手の要望に合わせて新規開発をしていく」ということになったとします。そうなると、「専門分野」には、新しくコミュニケーション・スキルが入ってきます。技術スキルばかり磨いていた人より、セミナーで交友関係を広げてきた人や「昔、営業をやっていました」なんていう人が、圧倒的に“専門スキルが上”ということになりますね。

 あるいは「システム開発だけでは会社が成り立たないから、新しい事業を立ち上げなければ」ということになったとしましょう。そのときには「あっ、オレ実はケータイにも詳しいんですよ」と名乗り出られる人とか「こういうアイデアを持っています」と提案できる人の方が活躍できることは間違いありません。

 テクノロジが発達し、新しい技術やアイデアが求められる時代であることは、最先端にいる皆さんの方がよく感じていることでしょう。実際、企業や事業の形、売れるやり方は日々変化しています。

 そうなると、専門だけではなく、「人と違うこと」をいくつか持っている人の方が、いまの時代を生き残るためには圧倒的に優位です。

 そんな例はいくらでもあります。「iPod」を生み出したのは、アップルにいながら、本業と関係なくステレオフォンを勝手に作っていたエンジニアです。任天堂「wii」のヒットソフトを作ったのは、「健康とゲームソフト」という勉強会を行っていた人たちです。

 要するに、「いままでと違った新しいこと」が求められる時代には、目の前の仕事に集中しているだけでは、逆に他が見えなくなるだけです。仕事にとらわれすぎず、「ムダ」の中から新しい何かを探していくことをおすすめします。

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