「就職」ではなく「起業」――学生起業家たちの実態特集:学生起業家たちの肖像(1)

学生時代に起業する人は決して多くはない。成功する者は、ほんの一握りだ。それでも、自らの能力やアイデアを武器に起業する学生は存在する。学生起業の実態とはどんなものなのか、学生起業には何が必要なのかを解説する。

» 2010年03月15日 00時00分 公開
[福島慎二アントレ・スクウェア]

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 あなたは「起業」について、どのようなイメージを抱いていますか。とても困難なもの? そんなことはありません。現在は法整備が進み、以前に比べてかなり起業しやすい環境が整っています。

 アントレ・スクウェアは学生起業家支援団体として、数多くの学生起業家(候補)たちや、ベンチャー企業の社長と話をしてきました。今回は、それらの経験から、「学生起業」について解説したいと思います。

学生起業の実態

 政府資料「平成19年就業構造基本調査」に、下記のようなデータがあります(統計母数6600万人)。

雇用形態 在学者 全体
自営業主 8600人 420万人
会社起業 1100人 160万人
表1 学生起業家の人数

※出典:平成19年就業構造基本調査「年齢、教育、男女、従業上の地位、雇用形態、起業の有無別有業者数」

 学生のときに起業した有名な経営者の例としては、中央大学在学中に月刊『ぴあ』を創刊した、ぴあ代表取締役社長の矢内廣氏や、東京大学在学中に「オン・ザ・エッヂ」を起業した堀江貴文氏がいます。厳密にいうと学生起業ではありませんが、ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏も、カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、すぐに最初の会社「ユニソン・ワールド」を起業しています。

 海外の有名IT企業にも目を向けてみましょう。ビル・ゲイツ氏はハーバード大学を休学し、ポール・アレン氏と共同でマイクロソフトを設立しました。ヤフーはジェリー・ヤン氏とデビッド・ファイロ氏がスタンフォード大学に在籍していたころに作ったWebサイトからスタートしています(後に2人とも大学を休学し、ヤフーを共同設立)。グーグルも、ラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏がスタンフォード大学の博士課程に在籍していたときの研究プロジェクトが始まりです(後に2人とも大学を休学し、グーグルを共同設立)。

起業する学生はどのようなタイプが多いのか

 学生起業家の統計データはほとんどないため、正確なデータは分かりません。あくまで感覚値ではありますが、起業する学生のタイプを紹介します。

文系or理系

 文系と理系とでは、特別どちらが多いという偏りはないように思います。

学部・専攻

 文系の場合は、経営学部や商学系の学生が目立ちます。一方、理系の場合は、電子・情報処理・工学系の学部が多いようです。

学生が起業する際の業種

 「IT」「広告」「人材」「企画関連」の業種が多い傾向にあります。

学生起業のメリットとデメリット

 学生起業には、メリットとデメリットがあります。それぞれ頭に入れておきましょう。

メリット

  1. 生活費に困らない
  2. 習得能力が高い
  3. 仲間が作りやすい
  4. 支援者を得やすい
  5. 元気と体力があり、長時間労働が可能
  6. 背負うものが少ない(家族を持ってからの起業は、さまざまな課題がある)
  7. 学生ならではの観点・発想(大人になると、常識にとらわれる)
  8. 学生の立場を利用できる(学校との交渉や、ほかの学生との交流)

デメリット

  1. 実務経験がない
  2. お金がない
  3. 能力が発展途上
  4. 研修費やノウハウの習得費は、すべて自費
  5. 会社で先輩に教わることができない
  6. 視野が狭くなりやすい
  7. 学業との両立が大変
  8. リソースに余裕がないため、リスクヘッジまで対応が行き届かない(倒産確率が高まる)

学生起業に必要なものは?

 起業をする場合、必要なものとはなんでしょうか。行いたい事業にもよりますが、特に重要なものは以下の8つです。

1. 実務経験・ノウハウの習得

 企業で働いたことがない学生が起業する場合、実務経験がないことは不利になります。ほかの企業では当たり前に行うことが、学生にとってはすべて未知の世界だからです。ビジネスマナーからビジネススキルまで、習得しなければならないことは多岐にわたります。

 最低限のことは、企業でのインターンなどを通して、先輩から学んでおいた方が効率的でしょう。インターンを行う場合は、自分の興味のある業界から選びましょう。小規模な事業者の方が幅広く仕事を任せてくれます。起業するとあらゆる業務を自ら行うことになりますので、可能であれば社長のすぐ近くで仕事をすることをお勧めします。学べるものは多いでしょう。

2. 習慣

 「学生起業のメリット」でも触れましたが、学生の非常に優れた点として「習得能力の高さ」が挙げられます。

 若いうちに良い習慣を身に付けておけば、生涯の財産になります。スポンジのようにどんどん良い習慣を取り込んでください。経営の成否は社長の能力で決まります。

3. 仲間

 多くの学生起業家は、趣味やサークルの延長で仲間と一緒に協力しながら起業しています。利害関係のない友人同士での起業は人一倍、強いきずなで結ばれるため、メンバー全員で思い切り業務に打ち込めるという強みにつながります。

4. アドバイザー

 学生は若さゆえに、どうしても知識が不足し、視野が狭くなってしまいます。通常の企業では定石として行っているものが抜けてしまうことは多々あります。

 これを避けるため、支援サービスや学校の教授、インターン先の企業などから、さまざまな支援やアドバイスを受けられるようにしましょう。アドバイス1つで、成否を分けるような大きな判断をうまく乗り越えられるでしょう。

5. 熱意と志

 学生の資本は、社会人に比べてほとんどありません。ただし、「熱意」と「志」があると、さまざまな人が協力してくれるようになります。これは、社会人になってからでは得られにくいもので、学生の特権といえます。

 ただ「もうけたい」というだけでは、共感は得られません。社会的な課題に対して熱意をもって解決していきたい、という志が重要です。

 もちろん、「もうけたい」という欲求が事業を推進する面もありますので、決して「なくていい」というわけではありません。

6. 強みを生かす

 学生である強みを最大限に生かす方が、勝算は高まります。

 企業に勤める大人には分からないけれども、学生にはよく分かる、という分野があります。例えば、就職、学習、企画、広告、携帯分野などがそれに当たります。BtoBよりは、BtoCの商品の方が分かりやすいかもしれません。

 とはいえ、そこは起業家の興味分野を優先した方がよいでしょう。未知の業界を選ぶ場合は、相応の調査や経験が必要になることを覚悟してください。

7. 集中戦略(ランチェスター戦略)

 ベンチャー企業の最も重要な戦略の1つです。特に学生起業家にとって重要です。

 ランチェスター戦略とは、局地戦(ニッチ市場)に勝つ戦略です。特定の顧客に最適な商品を提供する戦略です。逆に、大手の戦略はマスの顧客を対象に、汎用性のある商品を提供します。もしベンチャー企業がマスの顧客を対象とした場合、スケールメリットで不利になります。

 少ない資本のベンチャー企業でも、局地戦であれば勝つことができます。逆に、大手はニッチ市場では費用対効果が合わず、参入しづらくなります。

 この局地戦で勝つと、ほかの市場で横展開をできるようになります。磨き抜いた商品には、大手でも勝てないのです。

 中には、興味が多岐にわたって、いろいろと手を出したくなる人がいると思います。しかし、一度に多くのことをしても、結局どれもうまくいきません。いろいろと試すのはいいですが、これと決めたら集中することが重要です。

8. 夢に日付を

 ワタミ代表取締役会長・CEOの渡邉美樹氏の言葉にもありますが、「夢に日付を入れる」ことが大切です。

 「いつか起業」「なんとなく事業を継続」では、いつになっても夢や目標には到達しません。自分をマネジメントしてくれる人などいないのです。自分で期日を設定し、そこから逆算して、日々なにをすべきか決めなくてはなりません。

そのほか、あればなおいいもの

 「資金」は、あればなおいいですが、必須ではありません。Webが発達した今日では、ほとんど資金がなくてもビジネスは始められます。特に、IT分野での起業は、自分の技術とPCで多くのことができます。

 学生起業家のほとんどは自宅を事務所にして自営業で始めます。まずは基本となるビジネスモデルを確立してから、資金をためていけばいいでしょう。

 「ビジネスモデルと商品」については、起業するまでに仮説を立てて、トライアルを実行しておきましょう。

 ただし、想定していたプランがそのままメインの事業になることは少ないかもしれません。というのも、市場に商品を投入してユーザーの声を聞くことで、初めて真のニーズが定まってくるからです。

 業務を展開していくと、さまざまなパートナーが現れるでしょう。競合から学ぶことも多いはずです。そこから、新たなビジネスモデルや商品が生まれるのはよくあることです。これは、事業を進めなければ生まれません。

 ビジネスモデルと商品を真剣に練っておくのは当然ですが、アイデアが画期的でないことを悲観する必要はありません。頭でっかちになって行動できないことの方が問題です。

 重要なのは、商品を市場に迅速に提供し、トライ&エラーを繰り返して良い商品を作っていくことです。

学生起業のパターン

 実は、学生起業は手放しで推奨できるものではありません。なぜなら、学生起業をして長期間にわたって成功・存続できる企業はごく一部だからです。

 学生時代に起業した会社がそのまま存続するケースも、まれに存在します。一方で、第二起業するパターンもあります。

  1. インターン(ベンチャービジネスを学ぶ)
  2. 学生起業(起業を経験し、課題が浮き彫りになる)
  3. 就職(自分に足りないものを習得し、資金をためる)
  4. 再度起業(確度を高くして起業する)

 景気の波は10年サイクルで訪れます。商品がヒットして一気に上昇できる場合もありますが、必ず逆境も訪れます。

 学生起業を目指す方は、長年存続し、社会に貢献できる企業を運営されることを願っています。

著者紹介

福島慎二

学生起業家支援「アントレ・スクウェア」、国際協力NGO「ボランティアプラットフォーム」を運営している。ソーシャルビジネスを推進するプラットフォーム事業を展開しており、プログラマ/Web制作者/デザイナーを募集中



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