では、なぜ文章が原因ですれ違いや誤解が生じるのでしょうか。
基本的な文章技術が不足している――これは根本的な原因の1つでしょう(文章技術・文章力を向上させるためのポイントについては、『SEのための誰にでも伝わる文章術』、特に第5回〜第10回を中心に参照してください)。
加えて、フォーマットや定型の表現に沿わなかったことも理由の1つとして考えられます。
事務的な文章・文書には、種類や目的、テーマによって、フォーマットや表現方法があります。しかし、そのようなフォーマットを知らないために自己流で書き、コミュニケーション不全となってしまうことはよくあります。
このような場合は、フォーマットや定型表現を知るだけで、コミュニケーションが大きく改善されるはずです。
思い当たる方が多いのではないでしょうか。メールは、その手軽さのためか、ついつい使い過ぎてしまいがちです。何でもかんでもメールで済ませてしまうことが、コミュニケーション不全を生み出します。
例えば、対面しての対話によるコミュニケーションが必要な場面であるにもかかわらず、メールを使ってしまったとき、問題はややこしくなります。その典型例が、「問題が発生したとき、顧客へのおわびをするとき」です。
ひどい場合には、簡単な、数行程度のおわびメールを送るだけで済ませてしまうケースもあります。
また、プロジェクト内やチーム内に指示や通達を行う場面でもトラブルは頻発します。
上記のような対応では、まず間違いなく指示は伝わりません。このようなプロジェクトマネージャがいるプロジェクトは往々にして大混乱に陥ります。
ところで、コミュニケーション不全を生まない文章を書くには、文章技術うんぬん以前に、押さえておかなければならないポイントがあります。
それは、「文章は、相手に読んで理解してもらって、初めてコミュニケーションが成立する」という意識を持つことです。
このような意識を持たない限り、あなたが書く文章は自分本位の文章、思いついたままに書き散らした文章、単に頭の中の情報や知識を書き出しているだけの文章でしかありません。
ディスコミュニケーションを生まない文章を記述するには、「文章によるコミュニケーションは相手に読んで理解してもらって初めて成立する」という認識があって初めてスタートラインに立った、と言えるのです。
今回の連載では、上記のような原因を解消し、コミュニケーション不全を防ぐためのポイント(文章記述の技術や文章の使い方)を説明します。
まず、メールについて、きちんとしたビジネスメールにするためのフォーマットや文章表現の仕方のポイントを説明します。また、どのような場面でメールを使うのが有効で、どのような場面ではメールではなく対話によるコミュニケーションが有効なのかを説明します。
さらに、さまざまな報告書やビジネス文書(依頼、通知・連絡、おわび、提案の文書)について、フォーマットや文章表現の仕方のポイントを説明します。お楽しみに。
谷口 功 (たにぐち いさお)
フリーランスのライター、翻訳家。企業にて、ファクシミリ通信網を使ったデータ通信システム、人工知能、日本語処理関連のソフトウェア開発、マニュアルの執筆などに関わる。退職後、コンピュータ、情報処理、通信関連の書籍の執筆、翻訳、各種マニュアルや各種教材の執筆に携わる。また、通信、コンピュータ関連のメールマガジンの記事、各種雑誌においてインターネット、パソコン関連の記事やコラムなども執筆。コンピュータや通信に関連する漫画の原作を執筆することもある。
主な著作は、『SEのための 図解の技術、文章の技術』(技術評論社)、『ソフト契約と見積りの基本がよ〜くわかる本』『よくわかる最新 通信の基本と仕組み』(秀和システム)、『図解 通信プロトコルのことがわかる本』『入門ビジュアルテクノロジー 通信プロトコルのしくみ』(日本実業出版社)、『図解 ネットワークセキュリティ』『マスタリングTCP/IP IPsec編』[共著](オーム社)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.