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» 2011年03月24日 00時00分 公開

第1回 省電力時代に求められる高効率電源ユニットPCハードウェア強化ラボ(2/2 ページ)

[打越浩幸,デジタルアドバンテージ]
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力率とは

 電源ユニットの性能を表す指標として、もう1つ「力率(りきりつ)」がある。実は80PLUSプログラムを取得するためには、効率80%以上であるとともに、力率が0.9以上であることも求められている。ここではその力率について、理論的な説明はいっさい抜きにして簡単にまとめておく。

 力率とは、電気工学的に言うと「有効電力」を「皮相電力」で割った値であり(それぞれの意味は後述)、0〜1の値を取る。効率は、入力された交流電力から、どれだけ直流電力を取り出せたかを表す値だが、力率は、入力された交流の電力を、どれだけ無駄なく使用しているかを表す指標といえる。

 ここに100Wの白熱電球があるとする。これを100V(100ボルト)の交流電源に接続すると、1A(1アンペア)の電流が流れ、100W(100ワット)の電力を消費する。この関係は、

  • 電圧[V] × 電流[A] = 電力[W]

という式で表せる。これは直流電源の場合は常に成り立つ。

 だが交流電源の場合は少し事情が異なる。まず電圧や電流(の向き)が周期的に変わるし(1秒につき50回もしくは60回変わる)、電気回路では電圧と電流がそれぞれ増えたり減ったりするタイミング(位相)がずれることがあるからである(交流の場合は、本来ならば「実効電圧」、「実効電流」とすべきであるが、ここでは単に電圧と電流と呼ぶことにする)。

 そこで交流の場合はこれらを考慮し、

  • 電圧[V] × 電流[A] = 皮相電力[VA]
  • 有効電力[W] ÷ 皮相電力[VA] = 力率
    (もしくは 皮相電力[VA] × 力率 = 有効電力[W]

としている。電圧と電流をかけたものを交流では「皮相電力(apparent power)」と呼ぶ。皮相(ひそう)とは「仮の」とか「見かけの」という意味がある。VAは「ボルトアンペア」と読み、皮相電力を表す単位である。

 負荷で消費される電力を交流では「有効電力(active power)」というが、これが一般的にいう消費電力に相当する。単位はW(ワット)である。

 「力率(power factor。略してPFとも)」は、皮相電力に対する有効電力の割合である。白熱電球やニクロム線のような負荷の場合には、皮相電力と有効電力が一致するので力率は1となるが、コンピュータのような電子回路を持つ機器が負荷の場合、この2つは一致せず、0〜1の値をとる。

 まとめると、交流では「電圧×電流を皮相電力」と呼び、さらに「皮相電力に力率をかけたものが有効電力(いわゆる消費電力)」ということである。

電源ユニットにおける力率とは?

 交流における電力には皮相電力と有効電力の2つがあることが分かったが、これを実際の電源ユニットに当てはめると、次のようになる。

力率の異なる電源ユニットの例
力率のよくない電源ユニットは、同じ出力を得るために、より多くの電流を必要とする。これは、より太い電源ケーブルや、より大きな電力契約を必要とすることを意味する。

力率のよい電源ユニットの場合
  まず上側の例から見てみる。力率が1という、非常に優れた電源ユニットがあるとする。この電源ユニットの効率はここでは問題にしない(問題にならない)。電源ユニットとPCコンポーネントの両方を足して250W消費しているものとするからだ。すると有効電力は250Wとなる。そして力率が1なので、皮相電力も250VAとなる。交流の電圧を100Vとすると、電流=皮相電力÷電圧なので、この場合に流れる交流電流は2.5Aである。

力率のよくない電源ユニットの場合
  次は下側の例である。この電源の力率は0.6しかない。このため有効電力が250Wならば、皮相電力は250÷0.6≒420[VA]である。交流の電圧を100Vとすると、この場合に流れる交流電流は4.2Aとなる。

 以上の結果を見ると分かるように、最終的なPCの消費電力(有効電力)はどちらも同じ250Wなのに、流れる電流は2.5Aと4.2Aというふうに大きく違う。これが力率の違いによる電流や電力(皮相電力)の違いである。力率の悪い電源ユニットの方が、より多くの電流を必要とすることが分かるだろう。

 実際の電源ユニットでは、昔はこのような0.6とか0.7といった低い力率のものが多かった。だが最近では「力率改善回路(PFC:Power Factor Correction)」を搭載した電源ユニットが多く販売されている。もうお分かりだと思うが、電源ユニットのカタログなどに書かれている力率改善回路PFCや「アクティブ力率改善回路APFC(Active Power Factor Correction。PFCの進化したもの)」という単語は、この機能のことを指している。また80PLUSプログラムでは力率0.9以上を条件にしているので、今後は力率0.9以上(実際には0.98とか0.99など、ほとんど1に近いものが多い)の電源が主流になるであろう。ただし機能よりも低価格を重視する製品では、80PLUSロゴを取得せず、PFCを搭載しないものも少なくない。

電力料金の課金について

 交流には皮相電力と有効電力という2つの電力量があるが、電気料金はいったいどちらにかかるのであろうか? もし電気料金が皮相電力に比例しているのなら、なるべく力率のよい電源ユニットに変えたいところだろう。

 結論から言うと、電力料金は有効電力に基づいて決められている。つまり皮相電力がいくら多くても、実際に有効電力として消費した分に基づいて電気料金は決められているのである。

 ならば、少々力率が悪くても何も問題がないように思われるかもしれないが、それは正しくない。その理由を次に述べる。

なぜ高い力率が求められるのか

 昔の電源ユニットは力率が低いものが多かったが、最近ではPFCを搭載しているものが少なくない。現在ではPFC用のICが数多く作られているので安価に搭載できるようになったこともあるが、無駄な電力の消費を防ぐ効果があるし、電子機器から発生するノイズを抑えるため(EMC対策)に有効な手段だからでもある。またコンピュータ・システムで利用する電力設備の設計などにも影響を与える。以下、順に見ていこう。

無効電力消費の抑制
  交流には皮相電力と有効電力という2つの電力量があると記述したが、実際にはさらにもう1つ「無効電力(reactive power)」というものもある。これらには次の関係がある( ^2 は自乗を表す)。

  • 皮相電力[VA]^2 = 有効電力[W]^2 + 無効電力[var]^2

 無効電力とは、最終的な電気回路で消費されることのない、無駄な電力である。単位varはバールと読む。力率の式から分かるように、力率が1未満の場合は(皮相電力≠有効電力の場合)、必ずこの無効電力が発生している。無効電力とは、電力会社から見ると、電流は流れるが何も消費せず(仕事をせず)、そのまま戻ってくるといった電気である。無効電力が増えれば、電力会社はそれだけ発電機の出力(電流)を多くしなければならず、余計な投資が必要になる。力率を改善する装置もあるが、無効電力が多くなりすぎると吸収しきれなくなって、予期しない大停電などが引き起こされる可能性がある(1987年の首都圏大停電は、無効電力の増大によって引き起こされたとされている。ウィキペディアの記事参照。ただしこれは電動機などの過負荷によって発生したものであり、PCのような電子機器が原因ではないが)。電力会社では、力率の悪いユーザーには割高な料金を設定しているぐらいである(東京電力の例についてはこちらを参照。ただしこれは家庭用電力などは対象外)。80PLUSプログラムでは、このような問題を防ぎ、社会的な電力網の安定運用のために、力率を改善することも目標にしている。

EMC対策としての力率改善
  PCで使われている電源ユニットの場合、力率が悪いものでは、電流の流れるパターンがパルス波的な形状になる。交流の電圧は正弦波(sinカーブ)のようになっているが、電流は正弦波ではなく、例えば電圧の一番高い期間(下図の波の頂点付近)だけ流れ、それ以外の低い電圧の期間(下図の波の傾斜部分)ではまったく流れない、というパターンになる。これは、内部の整流回路(ダイオード・ブリッジ+コンデンサ)の構成に起因する。

PFCの原理
ルネサスエレクトロニクスのPFC電源用ICの「総合プレゼンテーション(2012年10月現在閲覧不可)」ドキュメントにある「1.1 PFC (力率改善)」より引用。これは同社の販売するPFC用制御ICの解説資料の一部。現在では多くのメーカーでPFC電源用ICを作っているので、簡単にPFC機能を持つ電源ユニットを作ることができる。PFCがない場合は電流がパルス波的なパターンになり、多くの高調波()が発生する。PFCでは電流波形を正弦波にし、高調波を抑えるほか、電流のピーク値も下げる。
高調波とは、基本波(50Hzまたは60Hz)の整数倍の周波数成分を持つ信号。正弦波以外の信号はすべてこのような信号を持ち、ノイズの元となっている。

 このようなパルス的な電流パターンには高調波が多く含まれる。その結果、電源ユニットから電磁ノイズが多く放射され、周りの電子機器などに悪影響を与えることがある(インバーター方式の蛍光灯がちらついたり、ノイズで誤動作したりする)。

 力率改善回路ではこのようなパルス状の電流パターンを修正し、電圧のパターンと同相、相似形になるように補正して、高調波を含まないようにする。その結果、外部へ放射される高調波電磁ノイズが抑制できる。このようなEMC対策(外部へノイズを出さず、外部からのノイズの影響も受けないようにする耐性)としてもPFCは有効である。

電力設備に対する力率の影響
 力率が悪くても、電気料金には影響しないことはすでに述べたが、だからといって力率の悪い電子機器を利用しても問題はないとはいえない。最初に述べたように、力率の悪い電源ユニットを使っていると、消費電力は同じだが、流れる電流の量は多くなる(電圧は同じ)。力率0.6のシステムでは、力率1.0のシステムの1.67倍もピーク電流が多くなる。直感的には、1サイクルのうち、一部分しか使わないから、より高いピーク電流値が要求されると考えればよいだろう。

 この結果、同じ電源容量ならば利用できる機器の台数が制限されることになる。例えば15Aまで利用可能な電源ブレーカーやテーブルタップがあった場合、ここに接続可能な機器の台数は次のようになる。

システム 1台あたりの電流値 15A(1500VA)で収容可能な台数
力率1.0、250Wのシステム 2.5A 6台
力率0.6、250Wのシステム 4.2A 3台
力率の異なる消費電力量250Wのシステムの導入例(理論値)

 同じ消費電力250Wのシステムなのに、15A(1500VA)の容量のタップやブレーカーでは接続可能なシステムの台数はこのように大きく異なる。料金を決めるための電力量計は有効電力で動作しているが、屋内に設置されているブレーカーなどでは電流値で制限しているので、このような結果になる。力率の悪いシステムだとより多くの電源設備を用意する必要があるなど、コスト的にも不利である。安いからといって、力率の悪い電源ユニット(が搭載されたシステム)を多く導入するのは、このように問題が多い。

PFCの有無を見分ける

 現在利用しているシステムの電源ユニットにPFCが搭載されているかどうかを調べるにはワット・チェッカーなどの機器を使えばよい。だが持っていない場合は、簡易的な方法として、電源ユニットの背面(ACプラグを差し込む面。PCの外から見える部分)を確認するという方法がある。

■PFC回路が搭載されていない電源ユニットの例

■PFC回路が搭載されている電源ユニットの例

PFCを搭載した電源ユニットには、100Vと200Vの電圧切り替えの赤いスイッチがない。0Vに近い非常に低い電圧から、交流電源の最高レベルの電圧まで、どのレンジでも電流を取り出すようにできているからだ。PFCがない従来の電源ユニットの場合は、作動する電圧レンジがごく狭い範囲に限られているため、100Vの場合は内部的に200Vまで昇圧させたりしている。背面の赤いスイッチはそれを手動でオン/オフするためのものだ。ただし電圧切り替えスイッチがなくてもPFCがない電源ユニットもあるので、この判定法方法は確実ではない。


 この電源プラグの周囲に、100Vと200Vを切り替える赤いスイッチが付いている場合は、PFC回路を搭載していない電源ユニットである(ことが多い)。逆に、この切り替えスイッチがない場合は、PFC回路を搭載している(可能性が高い)。とはいえ、逆の場合もあるので(ワールドワイド電圧対応だけれどPFCが付いていないなど)、参考程度にしていただきたい。正確にはやはり測定器で判定する必要がある。

UPSにおける有効電力と皮相電力

 力率の高い電源ユニット(を搭載した機器)を導入すると、UPS(無停電電源)の容量についても注意を払う必要があるので、簡単に説明しよう。

 UPSは、予期しない停電などでシステムが不意に電源断になるのを防ぐ装置である(計画停電時に、商用電源の代わりをするものではない。あくまでも数分〜十数分、停電を遅らせる効果しかない)。UPSの機種を選定する場合は、使用する機器に必要な電力をよく考え、何分ぐらいバッテリ・バックアップできればよいかを考慮して選定する。だがこのとき、UPSのバッテリ・バックアップ能力が皮相電力と有効電力のいずれで規定されているかに注意する必要がある。

 例えば、以下はエーピーシー・ジャパンの販売しているUPSの仕様表の例である。

UPSのバックアップ時間の仕様書の例
これはエーピーシー・ジャパンのUPSの仕様書の例(このページ内容はこちら)。UPSのバックアップ可能時間を算出する場合は、接続する機器の皮相電力(VA)と有効電力(W)を求め、両方を満たすような機種を選択する。詳しい製品選択の方法については「UPS Selector」のページを参照のこと。
  (1)機種ごとの最大出力がVAとWで表記されている。
  (2)力率1で有効電力500W(皮相電力500VA)のシステムを接続する場合はこれが必要。
  (3)560VAは十分であるが、400Wでは不足。
  (4)力率1で有効電力500W(皮相電力500VA)のシステムを接続する場合はこの行を見る。

 機種ごとに、使用する皮相電力(VA)および有効電力(W)によって、何分バックアップ可能かが示されている。このUPSでバックアップ時間の仕様書を見る場合は、有効電力と皮相電力の両方を満たすように製品を選択する。力率0.6〜0.7程度を想定して記述されているため、力率が1とか0.5といったシステムを接続すると、表中の数値とは計算が合わなくなることがある。

 例えば力率1で有効電力500W(皮相電力500VA)のシステムを接続する場合は、SUA750RMJ1UB(最大出力750VA/480W)では不足するので、1つ上のSUA1000JB(最大出力1000VA/670W)が必要である。その場合のバックアップ可能な時間は、VA=700VA、W=500Wとなっている行から10分となる。より長いバックアップ時間が必要なら、もう1つ上の製品にする。

 このように、各機器の消費電力を調べたり、電源容量を見積もったりする場合は、WとVAのどちらを扱っているかを常に注意する。

 なおPFCを搭載した電源ユニットでは、入力された電源が正弦波であることを前提にしているものが多い(入力電圧の正弦波波形に合わせて出力電流を正弦波になるように加工しているため)。もし矩形波出力のUPSに接続すると、PFC回路が誤動作を起こし、正常に動作しない可能性が非常に高いので、注意していただきたい。

力率を測定する

 それでは実際に力率や有効電力、皮相電力を測定してみよう。測定に使用するのは、先ほどのワット・チェッカーである。以下にPF値(力率)と電圧、電流、皮相電力、有効電力を示しておく。電圧値×電流値=皮相電力値、皮相電力値×力率=有効電力値がほぼ成り立っていることが分かるだろう。

 まずは力率が低い値(0.7)の例である。

■PF(力率)

■電圧[V]

■電流[A]

■皮相電力[VA]

■有効電力[W]

力率が低い場合の例
電圧×電流が皮相電力に(98.4V×3.51A=345VA)、皮相電力×力率が有効電力とほぼ一致している(345VA×0.7=241.5W)。


 次は、力率がほぼ1の例である。

■PF(力率)

■電圧[V]

■電流[A]

■皮相電力[VA]

■有効電力[W]

力率が高い場合の例
電圧×電流がほぼ皮相電力および有効電力と一致している(98.1V×3.18A=312VA=312W)。



 今回は、電源ユニットについて取り上げた。電源関係の機能は地味で、あまり革新的な技術が使われているようには思われないかもしれないが、安定したシステムの運用には安定した電源ユニットが欠かせない。出力電力の大きさや系統分けの柔軟性、プラグ式コネクタ、静穏性、価格などが注視されがちであるが、信頼性や力率、長期保証などにも注意して電源ユニットを選んでいただきたい。またシステムを管理する立場ならば、今後は有効電力や皮相電力、力率などといった項目にも注目して、システムやUPS、周辺機器などを選ぶとよいだろう。

【更新履歴】

【2011/03/25】公開当初、UPSのバックアップ時間の見積もり方の説明において、「皮相電力による計算が必要」としておりましたが、正しくは、「皮相電力と有効電力の両方」の定格を満たす必要がありました。お詫びして訂正させていただきます。



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