あなたはエンジニアの仕事を楽しんでいますか? この連載では、仕事を「つらいもの」から「楽しいもの」に変えるためのヒントを考えていきます。
先日、久しぶりに腹の立つ出来事がありました。
とある知人から、「ITコンサルタントが集まる勉強会があるので、話をしてくれないか」と、講演依頼が来ました。筆者はこれまで、Web上で情報発信することでさまざまな機会を得てきました。そのため、講演では「どのように情報発信すれば人々の目に留まり、チャンスにつながるのか」「心に響く文章を書くにはどうしたらいいのか」など、情報発信によってコンサルタントがチャンスをつかむ方法についてお話ししました。
講演の後、受講者の1人がそばに来て言いました。「いやあ、とても面白く、興味深いお話でした。竹内さんがおっしゃっている方法って、○○さん(著名な経営コンサルタント)もおっしゃっている方法ですよね」
「○○さんもおっしゃっている方法ですよね」――この言葉を聞いたときに腹が立ちました。著名な経営コンサルタントを引き合いに出されたからではありません。
「知っているなら、なぜ実践しない! 実践しないなら、勉強会にどれだけ出たって意味がないよ!」
初対面の人に失礼な態度を取れないので、湧き上がった感情をとっさに抑え、どうにか平常心を装いました。
IT業界では、たくさんの勉強会が開かれています。さまざまなエンジニアの体験やノウハウを知ることができ、新たな出会いもあるため、勉強会に参加することを楽しみにしているエンジニアは多いことでしょう。
ですが、勉強会は参加するだけではあまり意味がありません。今回は「分かる」と「できる」の差は大きいというテーマで、勉強会で学んだことを生かすために必要なことを紹介します。
「分かる」「できる」「動ける」――これは、筆者が学生時代に通っていた学校で掲げられていたスローガンです。
言葉の意味ぐらいは理解していました。しかし、当時はまだ若かったので、「ふうん、そうなんだ」というぐらいの認識でした。この言葉の本当の意味が分かるようになったのはつい最近のことです。
「そんなこと、もう知っているよ」――これほど怖い言葉はないと、最近つくづく思います。なぜなら、「知っている(分かる)」と「できる」の差はとても大きいからです。
例えば、あなたが水泳を学びたいと思ったとしましょう。世の中にはたくさんの水泳の書籍があり、泳ぎ方のポイントや正しいフォームを解説してくれます。DVDなどの映像教材もあります。また、Webでキーワードを検索するだけで、多くのテキスト情報や映像が無料で手に入ります。
教材を何度も繰り返し見れば、水泳に関する知識は得られます。専門書を読めば、ひょっとしたら解説ができるぐらいの知識は身に付くかもしれません。しかし、いくら専門的な情報を知識として身に付けても、それは机上の知識でしかなく、実際には泳げません。下手すると、知識だけで評論家のように振る舞ってしまうかもしれません。
知識を得ることは、とても大切です。しかし、知識を得るだけでは、何もできないのにできるようなつもりになってしまい、「もう十分知識はあるから、これ以上必要ない」と思考停止状態に陥ってしまう可能性があります。エンジニアとしては「分かるだけの評論家」にはなりたくありません。エンジニアなら「実際に手を動かすことができる実践者」でありたいものです。
ここで、なぜ「分かる」だけでは「できない」のかについて考えてみましょう。結論から言えば、「できる」ようになるためには、実際の体験や行動から得られる情報が必須だからです。
どんなに専門的かつ詳細な情報だろうと、それらから得られるものは「できる」までに必要な情報のごく一部です。
テキスト情報や映像の中には、泳いでいる時の水の抵抗感もなければ、水が鼻に入ったときのつらさもありません。筋肉の動きを体験する余地もありません。どんなに 詳しい情報でも、水泳全体のほんの一部でしかないのです。
人は無意識に行動していることがままあります。自転車で曲がり角を曲がる瞬間を思い浮かべてください。バランスを取り、体重移動する瞬間の感覚を、言葉や映像ですべて表現することは不可能です。
また、プロフェッショナルほど、徹底的に繰り返して体に覚え込ませ、無意識レベルで実践できるまで技術を高めます。熟練しているからこそ、言葉にするのが難しい技術はたくさんあります。
このように、「分かる」だけでは情報としては不十分です。言葉になっていない部分を実際に体験することで、初めて「できる」ようになるのです。
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