――武笠さんのアイデアはどのように生まれてきますか?
武笠 僕は「頑張って作る」とか「時間をかけて人より優れたモノを作る」という正攻法から逃げる癖があります(笑)。「何か近道がないか」と考えてみるんです。自爆ボタン(アプリではなく壁に貼れるタイプ)なら、きっと正攻法は基盤を作ってリアルな爆発音をサンプリングして押すと鳴るというものですよね。でも、押しても音は鳴らないし、インテリア・アクセサリとしてただ緊張感だけが部屋に漂うという商品にしたらよく売れました。
坂本 「押すまでが遊び」って言い切っちゃう感じですね。
武笠 そうやって近道を探ることが、実は面白さにつながると思ってるんです。自分の中での笑いがそれなんですね。
――ザリガニワークスさんならではの発想の転換ですね
布目 僕が思い込んでいた、企画の完成のイメージを2人に相談すると、「いや、もっと前のこの時点で、すでに面白いじゃないですか」とアドバイスしてくれます。さっきのムシを作るイベントの話だと、僕はムシの足は何かしっかりした素材にしなきゃと思い込んでいたんですが、「そんなの紙っすよ」の一言でした。その方が面白くなるということを説明してくれるんです。
武笠 エンドユーザーがどう感じるかが一番大事なので、必ずしも作り込むことが唯一の方法ではないと思うんですよね。
坂本 こういう面白さを伝えたいとか、この面白さが肝だとか、具体的なイメージが強いので、それが成立しさえすれば、どんなアウトプットでも構わないという考え方です。
――2人はどのように出会ったんですか
坂本 大学時代に、延々と続く僕たちの極端な妄想の話を聞いてくれる相手が他にいなかったよね(笑)。気付くと、周りに人がいなくなっていた。
武笠 当時は実際に製品を作らなくても、妄想を語るだけで満足していましたね。
坂本 周りから「お互い出会えてよかったね?」って言われていましたね。「あなたは僕の親か!」という(笑)。
――坂本さんのモノゴトを分解する習慣はどう養ってきたんですか
坂本 僕は年の離れた末っ子だったので、人間というよりも、もはや猫を可愛がるみたいに愛されて育てられました。親に考えを伝えようとしても、僕が何を言っても、「可愛いね」で片付けられてしまうんです。でも、考えを届けたいし、理解してもらいたいので、どうしたらいいか方法を考えていたら、いつのまにか言葉やモノの筋道をよく考えるようになっていました。
武笠 あんまりこのこと記事で書くと、これから出版する本と内容が重複しちゃうので、詳しく坂本のことが知りたい方は本が発売したら読んでいただきたいと思います(笑)。
――日大藝術学部の広告の授業ではどのようなことを教えていますか
武笠 ガチャガチャの企画のワークショップをやっています。メーカーさんから、ガチャガチャの本体を、40人の学生の数に合わせて40台借りています。
まず学生に「中身の商品は作らなくていいからポップのデザインを作ってきてください」とお願いします。ポップはそこを見て、お客さんが遊ぶかどうか決めるガチャガチャの重要な部分です。ナマモノはダメとか、200円程度で買えそうなモノ、当たりやハズレがあってもいいなど、最低限の決まりを伝えておきます。
そして翌週、みんな自腹で300円持ってきて、せーので自分が買いたいガチャガチャに100円を入れます。つまり3回投票できます。ある学生のガチャガチャは2000円近く稼ぐかもしれないし、0円の学生もいます。
――それはショックが大きいですね(笑)
布目 そうですね。すごく実践的です。企画やデザイン、ネーミングによって100円の価値がどうなるかを身をもって体験できます。
武笠 自分自身もユーザーとしてガチャガチャに投票することで、何かを感じてくれているはずです。この商品が欲しいと思った理由や、自分が欲しいと思った商品と、自分が作った商品の違いを比較できます
布目 他にも、ザリガニワークスさんから「モバイル○○」とか「○○専用○○」といったテーマを学生に与えて、A4の紙に企画を書いてもらい、壁に貼って、みんなで「これおもろいねー」とか「これ付き合いきれないわぁ(笑)」と大喜利のような講評会もします。それを踏まえた上で、ガチャガチャのワークショップに入っていきます。
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