伝統的に、リーダーは「チームを引っ張る単一責任者」として語られてきました。チームを率いる責任と義務を負い、チームを導き、時には叱咤激励し、時には喜びを分かち合い……。人によっては、プロジェクト進捗管理、予算管理、部署間折衝、人事評価や採用面接といった、大量の仕事に忙殺されているかもしれません。
このような伝統的なリーダー像をこなしてくれるリーダーがいると、上司から見ても、部下から見ても便利で、大変助かります。しかし残念ながら、リーダーの作業量が多いため、リーダー自身がチームのボトルネックになってしまい、チームの生産性の足を引っ張ってしまったり、変化への反応速度を低下させてしまう、ということも起こりがちです。
スクラムでは、「伝統的なリーダーが行ってきたことを、できる限りチーム自身が行うこと」というスタイルです。リーダーが事細かにチームに指示するのではなく、チームが自ら責任をもって、最善を尽くして仕事を進めます。自分たちで考えるチームが主役になるのです。
スクラムによってチーム改善を進めていくと、それまで見えなかったさまざまな課題が顕在化していきます。例えば、プロダクト・オーナーや顧客側の要件定義が不十分で、プロダクト・バックログの項目に具体性がないとか、バックログにない「なる早」仕事をたくさん頼まれていることに気付くとか……。
この気付きこそ、スクラム最大の価値です。スクラムの価値は、「自らの課題を発見していく」ことにあるからです。
チーム単体が努力しても解決しがたい、組織的な問題もあるでしょう。しかし、発見できれば、いつか解決できる可能性が出てきます。
組織的な問題を解決していくには、チームの課題を聞き、マネージャや経営層がそれの課題に取り組む必要があります。部下は自律的に努力をし、上司はそれをサポートする。「サーバント・リーダーシップ」へのマインドシフトが必要になります。
もしあなたの属する組織をサーバント・リーダーシップ型のマネジメントに変えるなら、まずチーム自身が実績を上げ、信頼を高めていく必要があります。
また、情報共有の方法を変えたり、部署間の仕事の受け渡し方法を改善するなど、多くの努力と時間がかかる可能性もあります。しかし、誰かが始めなければいつまでたっても改善しない、ということも事実です。1つ1つ相談し、できるところから解決していきましょう。
解決に向けて、組織の文化を変えていく必要があるようなときは、下記の本も参考にしていただければ幸いです。
本連載は2011年の夏頃から始動しました。スクラムのエッセンスの中から、皆さんの仕事上で実際に起こりそうな課題解決に使えそうなものを、Tipsとして紹介していく、というコンセプトで書いてきました。
各回の記事のアイデアは、勉強会やFacebook上の友人の皆さんのアドバイスを受けてまとめていきました。期間中に始めて出会った方も多くいます。多くの方々とのつながりがあって、記事を書くことができました。本当にありがとうございました。
かわぐちやすのぶ
スクラムのトレーニングや、認定トレーニングのオーガナイザーを務める。2011年7月より現職。
金融向けプロダクト企業にて、14年間勤務。社内向けの新規ツールや、新企画のパイロットプロジェクトを中心に、少人数でユーザー調査から製品開発、運用まで行うプロセスを探求。企業向けの新規プロジェクトのコンサルティングも手掛けた。
イノベーションスプリント2011 実行委員長、スクラムギャザリンング東京2011 実行委員、デベロッパーズサミット2011アドバイザー、AgileUCD研究会 共同発起人。
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