「スクラム」は、アジャイル開発の手法群の中でも、「チームとしての仕事の進め方」に特化したフレームワークだ。スクラムの知識を応用して、開発チームの日常をちょっとリファクタリングしてみよう。
●課題:
●スクラムのプラクティス
「スクラム」は、ソフトウェア開発のマネジメント・フレームワークの1つで、アジャイル開発の手法群の中でも、「チームとしての仕事の進め方」に特化した枠組みです。
本連載は「まずはちょっとしたスクラム」をモットーに、チームとしての仕事の進め方を改善するスクラムの知識を簡潔にお伝えします。「開発現場でスクラムやアジャイル開発を使ったことがないんだけど……」というエンジニアでも大丈夫。多くの現場で使えるような、汎用性の高い「スクラムのプラクティス」を紹介していきます。
上司:「○○さん、悪いけど、急ぎでこの仕事をお願いできるかな」
部下:「あ、はい。ちょっと今バタバタしているのですが、急ぎですか?」
上司:「そうなんだ。いつぐらいならできそう?」
部下:「まだ分かりません。予定が見えないので」
上司:「その仕事よりもこっちを優先してくれるかな。明日までにやってほしい」
部下:モヤモヤ(忙しいって言ってるのに。今日も終電か……)
上司:モヤモヤ(こっちの方が優先だと言っているのに、融通が利かないな……)
忙しいときに緊急の仕事が入って来ると、混乱するのは当然です。人は混乱や不安を感じると、強めに要求を出したり、過剰に防衛的になったりするようです。期限内に終えられるか不安なので曖昧に答える→上司にも不安が伝染して厳しい期限設定をしてくる……といった悪循環にはまりがちです。
こうした不安を取り除くには、上司と部下がお互いの状況をしっかり認識して、信頼関係を作り上げることが重要です。「慌てて自分の忙しさを主張しても、言いわけにしか聞こえない」場合があるので、普段から自分の状況を伝えられる準備をしておきたいものです。
とはいえ、ただでさえ仕事が多いのに、いつ必要になるか分からない説明のために時間をかけて準備するだなんて、ちょっと馬鹿馬鹿しいですね。何かいい方法はないでしょうか。
あります。「バックログ」を書くのです。
バックログ(backlog)という英語の意味は、「積み残した仕事」という意味です。スクラムでは、あなたが取り掛かる予定の仕事を「取り掛かる順」に並べたリストを、バックログと定義しています。
作り方は簡単です。これから取り掛かる仕事(頭の中に入っているだけで文章化していないもの)を、 一定の書式で書き出すだけです。一週間の仕事であれば5〜10分もあれば終わるでしょう。 ログ作成に、完ぺきさを求める必要はありません。 制限時間を決めて、書き出してみましょう。
各項目は、以下の属性を意識して書きましょう。
下記は、Excelなどの表計算ソフトで作るサンプルです。
ポストイットに書き出すのもおすすめです。壁などに貼る場合には「強粘着」と表示されたタイプのポストイットを選びましょう(はがれにくくておすすめです!)。1つ1つの仕事をそれぞれ紙に書いておくことで、カードの配置をいつでも柔軟に組み変えることができます。
さて、作ったリストを眺めてみてください。ちょうど1週間でこなせそうでしょうか?
今すぐに答えられなくても大丈夫。計画どおりにいったかどうかは、週末には嫌でも身に染みて分かりますので、焦ることはありません。今週は予測どおりにいかなくても、何週かやっていくうちに自分の適切な仕事量が分かってくるはずです。
バックログのポイントは、「こなさなければいけない量(推測)」ではなく「過去に実際にこなせた量(実測)」をベースに今後の計画を立てられるようになることです。ぼんやりとした「できるかどうか分からない」という不安ではなく「これはできる/できない」という見積もりができるようになるため、自分も周りの人も円滑に仕事を進められるようになるでしょう。
出席が義務付けられたミーティングや時間の決まっている作業については、優先順位を上げておきます(もし、つまらないミーティングの優先度が高いとすれば、仕事そのものを見直してみる機会になるかもしれないですね)。
サイズや完了条件が見えていないものは、いつまでたっても終わらないので、このリストには含めない方がよいでしょう。長期的な仕事についても考えなければならないでしょうが、その場合は「長期の仕事を考える時間を取る」という仕事として、考えるための時間サイズを見積もります。
スクラムではこのリストのことを「スプリントバックログ」と呼びます。自分たち自身が、一定の期間内に終わらせられると信じる、作業項目のリストです。
これを個人的に使うだけでも、これだけのメリットがあります。
次回は、このスプリントバックログを使って、自分以外の人にも自分の仕事を理解してもらう方法と、そのメリットについて考えてみたいと思います。一緒に、「上司の突然の要求」問題も解決しましょう。それではまた次回。
かわぐちやすのぶ
スクラムのトレーニングや、認定トレーニングのオーガナイザーを務める。2011年7月より現職。
金融向けプロダクト企業にて、14年間勤務。社内向けの新規ツールや、新企画のパイロットプロジェクトを中心に、少人数でユーザー調査から製品開発、運用まで行うプロセスを探求。企業向けの新規プロジェクトのコンサルティングも手掛けた。
イノベーションスプリント2011 実行委員長、スクラムギャザリンング東京2011 実行委員、デベロッパーズサミット2011アドバイザー、AgileUCD研究会 共同発起人。
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