要するに、2つの作品が「似ている」といっても、それが「アイデアが共通する」「創作的でない部分が似ている」というだけでは著作権侵害にはなりません。「創作性がある表現」について似ていて初めて「著作権侵害」となります。
そうなると、どこからどこまでが「表現」で、どこからどこまでが「アイデア」なのか、という区別が非常に重要です。
これは、著作権事件でしばしば生ずる問題ですが、区別の手法は確立していません。
現職の知財高裁判事である高部裁判官も、「アイデアと表現の境界」は明確ではなく、事案ごとに判断するしかないと述べており(高部眞規子『実務解説 著作権訴訟』p.105)、まさに、本件でも、東京地裁は、三重の同心円を書くことは「具体的な表現だ」としたのに対し、知財高裁は「アイデアにすぎない」としていて、判断が分かれています。
私個人の意見としては、今回の事件では、知財高裁の判断が妥当だと思います。携帯電話向けのゲームにおいては、表現方法には一定の制約もありますし、釣りゲームに限らず、シューティングゲームにおいても「的」をイメージしたゲームは多数存在しており、両者の共通部分というのは「アイデア」の域を出ないか、あるいは「ありふれた表現」が共通するにすぎないと思われるからです。
なお、今回の事件では、「ゲームの画面」の類似性が問題となりましたが、IT分野の著作権紛争といえば、「プログラム」の著作権侵害訴訟も少なくありません。
ただ、この場合、「……の処理を行う」「……という構造にして実装する」というのは、あくまでアイデアにすぎません。ポイントは、具体的な「表現」として落としこまれたソースコードの共通性がどこまで認められるかという点です。
従って、プログラムの著作権侵害は、いわゆるデッドコピー以外にはなかなか認められにくいといえます※。
この種の問題は、本件に限らず、一審と控訴審で判断が変わるケースも珍しくありません。事前に予測することが困難なので、ビジネス展開が萎縮される懸念もあります。
ただ、今回の判断が確定すれば、ゲーム画面の著作権侵害の1つの判断指標になるでしょう。なお、ビジネスソフトの画面に関しては、いわゆるサイボウズ事件判決があります(東京地裁2002年9月5日判決)。
2001年、ネオジャパンが開発・販売をしていた「ioffice2000 バージョン2.43」が、サイボウズの「サイボウズoffice2.0」のプログラムや表示画面を複製・改変した結果作成された商品であるとして、サイボウズが著作権侵害でネオジャパンを提訴。2002年9月、東京地裁は著作権侵害を認めなかった。その後、東京高裁で和解が成立している。
なお、現時点で、グリーは最高裁に上告していますが、最高裁は原則として法律上の争点しか判断しないため、本件事案の性質上、判断が覆る可能性は低いと思われます。
伊藤雅浩
弁護士。内田・鮫島法律事務所に所属。前職では、ITコンサルタントとして、ERPパッケージソフト、サプライチェーンマネジメントシステムの導入企画、設計その他、開発業務に従事。前職でのコンサルティング、システム構築経験を生かし、システム開発に関する一連のリーガル業務、ITベンチャー企業に関するリーガル業務を中心に担当している。
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