エンジニアが市場価値を上げるには、営業力が必要だ。元SEで営業経験もある著者が、「エンジニアが身に付けておきたい営業力」を語る。
「君は技術があるけど、話が下手だねえ」
ITエンジニア時代、顧客からこう言われて落ち込んだことが何度もありました。
そこで、予行演習(よく“ロープレ”といわれるやつです)などをして次回の訪問に臨むのですが、やっぱり同じことを言われる。「結論から言え」と言われたら、次からそれを心掛けるなど、努力はしました。でも、なかなか褒められない。
話をしていて、途中から顧客の反応が悪くなっていくのが、自分でも分かるのです。仕方なく、適当なところで切り上げて終わる。こんなことを何回繰り返したか分かりません。
それでもITエンジニアのときは、まだ良かった。私はその後、転職して営業を担当しましたが、営業に対する顧客の反応はもっと冷たいものでした。
いったい何が悪いのか? 「君は話がうまいねえ」「コミュニケーション上手だねえ」と顧客をうならせ、褒めさせるためにはどうすればいいのか?
それは、ユーザー企業に常駐するコンサルタントをしていたときに分かりました。顧客側の立場で、昔の私のようなITエンジニアと対話するうちに、「なるほどこれは褒められないな」ということが理解できたのです。
今回は、円滑なコミュニケーションのため、テクニック以前に必要なことについてお話しします。
前回「『話し上手なエンジニア』といわれるための8つのコツ」で、「一般にITエンジニアは説明がうまい」と書きました。
これは本当だと思います。システム設計などの経験から、論理的に話を組み立てることに長けていますし、図解などもうまい。
それなのに顧客の評判は芳しくない。その理由として以下の2つを挙げました。
その対策として、以下の2つがあると書きました。
しかしながら、これだけを知っていても、顧客が「コミュニケーション上手だねえ」とうなることはないでしょう。
というのは、昔の私と同じで、根本のところが分かっていないからです。
「相手の聞きたいことだけを簡潔に話す」というのはスキルです。また、「最初に、『相手の聞きたいことについて話す意思がある』ことを伝える」というのはテクニックです。
テクニックとスキルの違いについて、ネットでもいろいろと書かれていますが、きちっと説明されているものは見当たりませんでした。
カタカナ語の違いがよく分からないとき、私は(英語は苦手なのですが)英英辞典を引くようにしています(漢字の熟語なら漢和辞典です)。
オンラインのLongman英英辞典(Longman English Dictionary Online)では、それぞれ次のように定義されていました。
technique
a special way of doing something
skill
an ability to do something well, especially because you have learned and practised it
テクニックは、「何かをする際の特別な方法」です。特別な修練が必要な場合もあれば、そうでない場合もあります。どちらかといえば知っているか知っていないかが重要なのがテクニックです。従って、「最初に、『相手の聞きたいことについて話す意思がある』ことを伝える」はテクニックといえます。
スキルは、「何かを上手にやるための能力であり、特に学んだり練習したりして得るもの」です。知って、実際にやってみて、身に付けるものです。その意味で、「相手の聞きたいことだけを簡潔に話す」はスキルといえます。必要だと知っているだけでは駄目で、実地で練習して身に付ける必要があるからです。
スキルやテクニックだけあっても、根本の大事なことが欠けていると相手の心を打ちません。その大事なこととは、マインドです。
スキルやテクニックがアプリケーションだとすれば、マインドはOSに該当します(図1)。いくらアプリケーションが優れていても、OSが不安定ならば、まともに動作しません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.