顧客に認められないITエンジニアは、マインドに問題があるのです。
ただし、マインドと人間性は同じものではありません。人はいいのだけれど、コミュニケーションはイマイチだなあというITエンジニアはたくさんいます。
また、私は精神論がしたいわけでもありません。
マインドをOSに例えていることからも分かるように、精神論ではなく方法論の一環として語っています。あくまで「スキルやテクニックを有効に活用するためには、適切なマインドが必要」と言っているにすぎません。いってみれば、用途に応じてWindowsなのかLinuxなのかを選ぶような話に近いものです。
マインドを変えても、結果が出なければ意味はありません。その点では精神論よりシビアな話かもしれません。精神論は、結果が出なくても満足してしまうことが多いからです。
では、顧客が認めてくれるマインドとはどういうものでしょうか?
私がユーザー企業に常駐でコンサルタントをしていたとき、「褒められないな」と思ったITエンジニアに共通するマインドがありました。それは以下のようなものでした。
目が自分にばかり向いていて、顧客のことをなおざりにしているのです。これで喜ぶ顧客はいません。ただ、本人はまったく気付いていないのです。顧客と目を合わせることさえしない人が多いので、気付くはずもありません。
顧客に認められるには、この逆をすればいいのです。
これを心掛ければ、顧客の評判が芳しくない2つの理由「聞いていないことも長々と説明してしまう」「説明の順番が良くない(最初に前提条件や制約条件を長々と説明してしまう)」は自然と解消されてしまいます。
残念ながら、「自分を守ることを考えない」「自分の評価を気にしない」の2つは否定形です。人間の脳は、否定形のことはできないといわれています。
例えば、「黒い馬のことは考えないでください」と言われたら、真っ先に「黒い馬」のことを考えてしまうはずです。
肯定形に直して、積極的に実践できるようにする必要があります。どう直したらいいでしょうか。
日ごろ、私は下記の3つを心掛けることを提唱しています。
この3つを常に心掛ければ、自分を守ろうとしたり、自分の評価を気にしたりする気持ちは自然となくなります。
相手の役に立つこと、知らないこと、好奇心を満たすことを言おうとすると、常に相手に気持ちを向けなければならず、自分のことを気にするどころではなくなるからです。
それでは、実際に顧客と話していて、反応が芳しくないと気付いたとき、どうすればいいのでしょう?
適切な質問をしましょう。適切な質問が、顧客の役に立つことや知らないことは何かを知り、顧客の好奇心がどこにあるかを探るための手段になります。
適切な質問とはどういうものでしょうか。齋藤孝氏の『質問力』(筑摩書房、2006年)という本によれば、適切な質問とは次の3つだということです。
ただし、「自分は聞きたくないが相手は話したい」ことなどを聞くのも、大人の作法として時には必要です。「自分も聞きたくなく、相手も話したくない」「抽象的かつ非本質的」など、適切な質問と正反対のものはダメです。
適切な質問を意識してできるようになると、顧客は「このITエンジニアはすごい!」とうなるわけです。質問力の高いITエンジニアはほとんどいないので、それだけで差別化できるからです(ビジネスパーソンとしても希少かもしれません)。
顧客と話すときには、常に相手に気持ちを向け、適切な質問によって相手の知りたいことを探る。結局、回り回って、前回紹介した「話し上手は聞き上手」というところに着地したようです。ただし、本当の意味でこうなるには、今回説明したマインドが最重要なのです。
少し話がややこしくなったかもしれません。今回の話全体を図解しておきます(図2)。
図2の「新修正目標」である3つの項目、
これを心掛けるだけで変わってきます。
いろいろ覚えて実践するのは難しいという方は、この3つだけを覚えて、試してみてください。
ITブレークスルー代表
森川滋之
1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。同社に17年半勤務した後、システム営業を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモーションのための文章を執筆するかたわら、自分の価値を高める「自分軸」の発見支援にも従事している。
著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。
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