さらに、SPARC M10にはデータベース系の処理を高速化するための仕掛けが用意されている。SPARC64チップそのものがベクトル演算を得意とすることは多くの読者が知っていることだろう。スーパーコンピュータ「京」に代表されるように物理シミュレーションなど「類似の計算を大量に実行」する際に高いパフォーマンスを出す。この並列演算処理性能を、ビジネスデータの処理に活用しようというのが、SPARC M10およびSPARC 64 Xの興味深いところだ。
また、計算処理以外でも大量データ処理では頻繁に行われるメモリコピーやメモリコンペアでもハードウェアによる並列処理が自動的に活用される。この場合、プログラムがOSのシステムコールを使っていれば、OSが自動でハードウェアの並列処理エンジンに処理を渡す仕掛けなので、ユーザープログラムやミドルウェア側は新サーバに移行するだけでも性能が向上する。さらに、ソフトウェア側がこのプロセッサに最適化されていれば、パフォーマンス向上を狙える。既に富士通のデータベース製品であるSymfowareとOracle DatabaseでSPARC64 Xの機能への対応を予定している。
ここまでで、SPARC M10の技術的なトピックを見てきた。さて、これが本稿冒頭で示した企業システムにおいてどのようなインパクトを持つのかを、あらためて整理してみよう。
富士通がSPARC M10を発表した際に示したこの絵を見てほしい。
いかにもSPARC M10は「UNIXサーバ」としてリリースされたものだが、既存のUNIXサーバをただ速くする、というためだけのものではない。SPARC64 Xという、高い性能を持つCPUを得たことで、業務系システムの集約だけでなく、高速な処理性能を生かした情報系システムの集約までをも狙っている製品であることが分かる。
つまり、既存の基幹系業務システムをSPARC M10上に効率的に集約し、集約した既存資産の中に含まれるデータを、新規に、高い並列処理能力をもったこのサーバ機の中でリアルタイム分析処理に役立てていこうとしているのだ。この仕掛けを詳細に図示するとしたら下図のようになるだろう。
既存資産が持つ実績データの分析では、大量データに対する繰り返しの処理など、負荷が高いものが多い。高い負荷の処理を、高速なインプット/アウトプットが可能なメモリ上に置くことは、システム設計上、非常にリスクが高いといわれてきた。
SPARC M10がこの無謀に見える取り組みを進める理由には、常識を覆す仕掛けがある。それこそが「Software On Chip」である。本稿で一部並列処理高速化の取り組みについて言及してきたが、次回、より詳細な技術情報に触れていこう。次回は、富士通におけるSPARC64チップ開発の歴史から、京で培ったノウハウの具現化、Software on Chipを中心により深い技術背景を追っていく。
「京(けい)」:「京」は理化学研究所の登録商標です。京は日本のスーパーコンピュータの中核システムとして、理化学研究所と富士通が共同開発した、世界最高レベルの性能を有するスーパーコンピュータです。
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