まだ一般的ではないデバイスを使ったり、素材や機具を自分で組み合わせて、自分で新しいデバイスを作った研究も発表されている。「ここでしか見られない」ものも多く、見ているこちらもテンションが上がる。
インタラクション2013のデモは3日間にわたって行われ、1日ごとにすべてのデモが入れ替えになる。その日のデモの中で優れているものを参加者が投票し、インタラクティブ発表賞が決まる。3日目のインタラクティブ発表賞に輝いたのが、「LightCloth: 光入出力可能な布状インターフェイスの提案」JST ERATO 五十嵐デザインインターフェイスプロジェクトだ。
この布は中に発光物があるのではなく、布全体が光り輝いているように見える。しかも、赤外線ペンで触れると反応し、色が変わる。ステージ衣装などですぐにでも使えそうなデバイスだ。
通常の光ファイバは光が直進し、横から漏れないため、末端の切り口しか光らない。今回使われた「拡散性光ファイバ」は、ファイバ全体がすりガラスのように光を拡散するため、ケーブル全体が光って見える。今回のデモでは拡散性光ファイバを使って織り上げた布で作成されたプロトタイプが展示された。
布の端に発光/受光部分を付けることで、布の部分にはまったく機械類が見えず、布そのものが光っているように見える。LEDライトペンで撫でると、センサのようなものは何も意識されないのに布の色が変わる。
構造としては縦糸と横糸で織りなす布そのものなので、織り方を工夫してパターンを表現することや、ジャガード織りをすることで発光する絵を描くこともできる。さまざまな応用が期待できそうな技術である。
別な日のインタラクティブ発表賞に輝いたのが名古屋工業大学、星 貴之特任助教の「フレズニオス」。
今回のデモでは、画面上に認識されたものをタッチパネルで押すことで、実際にモノに力が加わり、押される。試しに手をデモ機材の前に置いてみると、タッチパネルで押された場所に、まるでくすぐられるような感触が。何もないところに力が加わる体験は普段ないものなので、より一層奇妙に感じる。
深度カメラ(写真のような2次元情報だけでなく、距離のデータが取れるカメラ)と超音波フェイズドアレイ(1個1個の時間差を自由に変えられるスピーカ群)を組み合わせ、深度カメラが捉えた対象に、超音波を集中させたのが今回のデモ。
一見、パラメトリックスピーカー(通常のスピーカーのように音が広がらず、音がレーザーのように直進する)と似ているが、この装置は超音波を直進させるのではなく集中させる点が異なる。1個の超音波スピーカでは何も感じないが、数百個の超音波スピーカを用いて1カ所で強め合うよう時間差を調整すると、風船程度のものなら動かせるような力を発生させる。
実際にスピーカーの前に手を出して、手に超音波を当ててみると、撫でられるようなくすぐられるような、何とも奇妙な感触を感じる。
熱くなる、冷たくなるなどの温度感覚を使って、コンピュータからの情報を提示することで、もっと便利になるかもしれない。温度を使ったインターフェイスも多く展示されている。
慶應大学ヒューマンシステムデザイン研究室が出展していたのは、電気を流すことで熱が移動する(熱くなったり冷たくなったりする)ペルチェ素子をヘッドフォンに仕込み、曲調によって耳元が熱くなったり冷たくなったりするヘッドフォン。
曲によって「アツい曲」「クールな曲」が決まっているわけではなく、1曲の中でゆったりした部分だと耳元が冷たくなり、サビで一気にアツくなる(展示されていたデモは、どこで熱くするか冷たくするかは、あらかじめ設定しておいたとのこと)。
デモ展示を試してみたところ、ヘッドフォン内が暑くなることは「よくある」体験なのだが、冷たくなる経験は初めてで、新鮮な感覚がある。ヘッドフォンはいろいろな製品が出て、まだ激しい技術革新や変わった製品が出やすい分野だと思っているので、一度長時間試してみたいと思った。
首都大学東京IDEEA Labも温度を使ったインターフェイスを出展。ゲームコントローラの両脇にペルチェ素子を仕込み、タイミングを見てソレノイドで飛び出させることで、コントローラを持っている手がアツくなったり冷たくなったりする。
ゲームの「振動パック」に近い考え方で、対応するコンテンツをどのように作るかで効果が変わってくるものの、よりゲームが楽しくなるかもしれない。
「未来には当たり前になりそうな」デバイスの1つに、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)がある。ニコニコ学会βでも発表した寺田先生の神戸大学塚本・寺田研究室は、HMDが当たり前になる時代の使い方について、ずっと研究している。今回発表したのはプライミング効果を利用したシステム。
例えば、サッカーを見てから街を歩くと、市内にあるサッカーに関係するもの(ユニフォームを着ている人とか、スタジアムへの案内とか)に、やけに気付きやすくなることがある。こうして「先行してある事柄を見聞きしておくことにより、後続する事柄の処理が無意識的に促進される効果」をプライミング効果と呼ぶ。
デモではHMDを付けた状態の映像として、右下に常にサッカーボールを表示した状態で、気付くものが変わるかを試したムービーを流していたが、この研究ではHMDを用いて、視界の隅に映像を出したり、音声を聞かせたりすることで、どういう形でプライミング効果が起こるのか、うまい使い方ができないかを研究している。
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