Game Developers Conferenceで次世代ゲームのあるべき具体像が明確化した。HTML5の波が次世代ゲーム機に波及し、ゲームエンジンが無料化している状況をレポートする。
筆者は去る3月にサンフランシスコのモスコーニセンターで開催された世界最大のゲーム開発者会議、Game Developers Conferenceにブース出展した。
HTML5向けのゲームエンジンとして国内で知名度を上げて来たenchant.jsのブース出展としては今回が2回目。
残念ながらセッションを取材する時間は取れなかったが、その分、ブースに集まって来たさまざまな情報から、次世代ゲームのあるべき具体像が明確化してきた。
今回、PS4の発表に合わせてUnreal Engine 4(以下、UE4)やCryengineなどハイエンドゲーム向けのゲームエンジンのバージョンアップが多数発表された。
UE4はPS3、Xbox360世代でデファクトスタンダードの地位を確立したUnreal Engine3の正統的なバージョンアップで、新世代のハードウェアに対応した機能が多数搭載された。
CryengineはCrytechのゲームエンジンで、こちらもハイエンドゲーム向けだが、レベルエディタの機能が充実し、時間帯による太陽光の変化やAIの細かな設定、レンズフレアなどまでもリアルタイムで確認しながらのゲーム開発が可能になった。
この2つは現在AAAタイトルと呼ばれる開発費数億円に達するヒットタイトルを動かす原動力となっており、ゲームハードウェアの進化よりもゲームエンジンの進化の方がよりゲーム性全般に影響を与えるようになった昨今においては、単純な性能や機能の豊富さよりも作りやすさ、作り込みやすさ、といった点を重点的に強化されることになった。
しかも、この2つのハイエンドゲームエンジンは原則として無料で使用できる。商用利用の場合には、別途ロイヤリティ費用が掛かることになるが、ゲームエンジンというビジネスが成熟し、いまは普及期に差し掛かったといって良いだろう。
これまでライセンス料の安いUnityを中心に利用して来たインディゲームのデベロッパをより高機能なハイエンドゲームエンジンへと誘い込む戦略で、今後Unityの苦戦が予想されそうだ。
特にUE4に関してはiOS/Androidでの動作もサポートしているため、Unityを比較的ライトなゲーム開発に使用して来たデベロッパが移行しやすくなっている。
今後、AAAタイトル並みのグラフィックスのライトゲームというのが多数登場していくかもしれない。
今回、象徴的だったのはやはりPS4に関連した部分で、会場に訪れた開発者たちからは口々に「PCと同等の機能しか持っていないけれども、ハードウェアとして固定されたデザインになったことは開発の容易さにつながる」とPS4を評価する声が聞かれた。また、すでにPS4向けソフトウェアの開発に着手しているというあるプログラマーは「PS3時代には高性能なCPUを活用しようにもメモリが少なすぎたりして、かなりトリッキーな工夫が必要だったが、PS4は単純に同じことをしようとしたらもっとシンプルに、かつ高速なプログラムを書ける点は素晴らしい」と語った。
PS4向けの開発に関して、来場したゲーム開発者数人に聞くと、「Unityに対応するならビジネス的にPS4を視野に入れるのはアリ」としながらも「Unityで作るなら、PS4でもXbox360の次世代機でも内容にそう変化は付けられない」とも語る。互換性やタイトル数のことを考えるとUnityのサポートは必須ではあるが、Unityで果たしてPS4ならではのゲーム性を実現したソフトが現れるかどうかといったことは未知数の状態だ。
また、半導体事情に詳しいジャーナリストによると「今回のPS4は現時点でできる最高の設計」と評価する一方で、ゲーム系ライターは「各種アーキテクチャとの互換性が高いので独自性を出して行くのは難しいのではないか」と期待と不安の声が半々に分かれて聞こえた。
半導体技術や実際の製造プロセス、最終価格などを想定すると今回採用されたアーキテクチャはPCで培われた技術の水平利用ともいえる。ゲーム機向けのプロセッサが特別な性能を持っていた1つの時代が終わりに差し掛かっているのは紛れもない事実のようだ。
一方のライバル、任天堂はハイパフォーマンス指向のPS4とは対局に本格的なWii U対応ゲームソフトをHTML5だけで開発できるNintendo Web Framework(以下NWF)を発表し、大きな話題を集めていた。
現状のWii UにもすでにHTML5に対応したWebブラウザが搭載されているが、NWFはまったく新しくWebブラウザを構築し、GPUベースの描画など、パフォーマンスの最適化を行うと同時に、複数のディスプレイへの対応(テレビ画面とWiiU GamePadの二画面に別々の情報を表示できる)や、Wiiの多彩なゲームコントローラへの対応、Miiverseへの対応など、本格的なWii U対応ゲームを開発するのに必要なすべての機能が提供されたフルセットの環境が用意されることになる。
パフォーマンスも上々で、実際に任天堂ブースではNWFで作られたアクションゲームをWiiリモコンで操作するデモが展示されていたほか、今後も積極的な開発者の誘致を行って行くという。さらに課金プラットフォームまでをもHTML5アプリケーション向けに提供していくというから、これまでの任天堂の方針からは考えられないような自由度の高いマーケットプレイスを想定していることがうかがえる。
ゲーム関係のジャーナリストたちもNWFには非常に注目しており、今後ライトゲームを中心としたものが、HTML5に本格以降していく可能性について議論する姿が会場のあちこちで見られた。
今回のGDCでは、どうやらデベロッパをより多く取り込むために、ソニー・コンピュータエンタテインメント (以下SCE)、任天堂といったプラットフォーマがどのようなスタンスをとるか明確に浮き彫りにされた形だ。
これまで、SCEは初代プレイステーションのころには「ネットやろうぜ」として台数限定ながら一般ユーザーがPS用ソフトの開発ができるようにしたり、PS2ではLinuxを動作できるようにしたりと、ホビイストやギークたちの心をくすぐるような戦略を繰り返し行ってきた。
昨年からひっそりとスタートしたPlay Station Mobile(以下PSM)では、簡単な登録で誰でもPSM用のゲームを開発できるようにしたり、マーケットプレイスを設置したりしてインディゲームのデベロッパの取り込み施策を行ってきた。しかしながら、PSMはいまだにうまく離陸しているとはいえず、ラインアップも貧弱なままである。これがSCEの大きな頭痛のタネとなっていることは否めないが、一方で、インディゲームはオマケであり、SCEの主力はあくまでAAAタイトルであると割り切った姿勢とも見て取れる。
一方、これまでインディゲーム向けにはUnityのサポートくらいしかしてこなかった任天堂が、ここにきてNWFの投入を発表し、大きな話題を呼んでいる。
WiiUの販売不振はあるものの、他機種にはないユニークなコントローラやゲーム体験の特徴を生かしたゲーム開発のハードルを大幅に下げることによって、市場の活性化を模索しているようだ。
一見、SCEのPSM戦略と任天堂のNWFは似たものに見えるが、開発者目線でみた場合にはこの二者の狙いも目的も大きく異なる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.