HTML5に本腰を入れ始めた任天堂―GDCで見えてきたゲームビジネスのゆくえUXClip(25)(2/2 ページ)

» 2013年04月05日 17時00分 公開
[清水亮,ユビキタスエンターテインメント]
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5. インディゲーム・デベロッパを振り向かせるには?

 PSMはVisualStudioでC#を用いて開発する。

 そのためハードルは高いが、その分、使いこなせばハードウェアの機能を引き出すことができる。一方、NWFはHTML5をベースとしている。ハードルが低いができることに制約がありそうだ。例えば、3Dグラフィックスなどは当初サポートはされない。

 UnityやiOSも含めた開発難易度をまとめると以下のようになる。

プラットフォーム別の開発難易度
プラットフォーム 使用言語 ハードル敷居の高さ 3D機能 対象開発者
PlayStation Mobile C# 高い 使いこなせば高い セミプロ/プロ
Nintendo Web Framework HTML5 / JavaScript 低い なし アマチュア
Unity C# / JavaScript 中間 簡単に扱える セミプロ/プロ
iOS Objective-C / HTML5 高い 使いこなせば高い アマチュア/プロ
Android Java / HTML5 中間 使いこなせば高い アマチュア/プロ

 ただ、PS VITAもHTML5をサポートしていることから、PS4でも当然HTML5はサポートすることになる。HTML5に対応したプラットフォームのうち最も有名なのはiOSとAndroidだ。また、今年のMobile World Congressで登場し話題をさらったTIZENとFirefoxOSも共にHTML5をベースとしたプラットフォームである。

 つまり、HTML5の開発者はすでに世界中に存在していて、多くのアマチュア開発者と、セミプロ、プロの開発者予備軍を持っていることになる。

 Unityも、すでに長い歴史があるので開発者はセミプロを中心に多い。

 そしてPSMは、使用言語こそC#とUnityやXbox360と同じだが、ハードウェア寄りの実装をするためにはPSMの専門知識が必要となる。

 インディゲームのデベロッパが開発プラットフォームを選ぶ基準は、だいたい以下のようなものだ。

1.独自性

そのプラットフォームでなければ作れないゲームがある

またはそのプラットフォームではイメージするゲームが作りやすい

2.波及性

そのプラットフォームで作れば、多くの人に遊んでもらえる可能性がある

3.将来性

そのプラットフォームでの開発経験が次世代に生かせる

 特に将来性は大切だ。人間の時間は有限であり、なにかを学ぶということはその間はほかのことは学べないことを意味する。あまりにも特殊なプラットフォーム固有の事柄だけを学ぶと、いつのまにか時代に取り残されていた、ということは良くある。

日本のインディゲーム開発者を中心にあつめた「GDC日本人飲み会」の様子

 その意味ではJavaScriptやHTML5のようなすでに事実上の標準となった技術は、仮にある1つのプラットフォームが消滅してしまっても、次のプラットフォームでその開発経験が生かせる可能性が高い。従ってその技術には将来性があることになる。

 以上の観点から各プラットフォームをまとめると下表のようになる。

プラットフォーム別の将来性
プラットフォーム 独自性 波及性 将来性
PlayStation Mobile
Nintendo Web Framework
Unity
iOS
Android

 デベロッパがプラットフォームを選択する場合は一般的に将来性が重視されるが、ビジネスとして考えると波及性が高いプラットフォームを選択せざるを得ない。この2つの要素のバランスの中で開発が行われているといって良いだろう。プラットフォームの独自性は、個性的なアイデアとセットでなければ生かされないため、ゲームタイトル数そのものの数よりは、「そのプラットフォームでなければ作れない作品」の数に大きく影響するはずだ。

6. Unreal Engineがわずか1週間でHTML5に移植完了!? 

 GDCで行われたセッションのうち、注目を集めていたセッションの1つがFirefoxOSを擁するMozilla Foundationによる「Fast and Awesome HTML5 Games」で、この中ではなんとC++言語で書かれたUnreal Engine3を、半自動的にHTML5/JavaScriptに変換することでわずか1週間での移植に成功したという驚愕の事実が語られていた。

 しかも動作するゲームはおよそ30〜90fpsで、普通に遊ぶ分にはまったく問題ないスピードで動作するのだという。これにはHTML5に加えてWebGLという機能のサポートが必要だが、WebGLはOpenGLのサブセットとなっており、GPUをブラウザ上で直接扱うことができる。これを活用することでネイティブアプリと遜色ない描画を実現しているのである。

 オープンソースをベースに改善が進んだHTML5の機能がここまで強化された現在、むしろあえてプロプライエタリな言語環境であるC#やObjective-Cを使ってプログラミングを続ける意味は薄くなってきそうだ。

7. ゲーム開発体制がクラウドファンディング型へ変化

 また、今回会場では筆者の古くからの知人数名に会ったが、彼らが長年勤めたゲーム会社から独立し、小さな開発チームを作ってUnreal Engineを使った本格的なゲーム開発を始めたのだという話をいくつか聞いた。最近のトレンドのようだ。

 家庭用ゲームの開発はいつの間にか何十億というコストを費やすものになってしまった。

 それだけのコストを掛けて、売れなければ会社がつぶれてしまうことも珍しくない。特にここ数年、中堅デベロッパの台所事情は苦しかった。

 しかし昨今、KickstarterやIndiegogoといった、企画の段階で資金や注文を集めるクラウドファンディング環境が整備されてきたため、まず企画をそうしたクラウドファンディングプラットフォームで打ち上げて市場の反応を先に見てから資金を調達して実際の開発を行うというこれまでにない開発スタイルが実現しつつある。

 なにしろ企画の段階で「こんなゲーム欲しくない?」と先にユーザーに聞き、しかも開発資金までユーザーに供出してもらってから開発するわけだからデベロッパとしても無駄な博打を打たなくて済む。ユーザーはユーザーで多様なゲーム企画の中から自分が本当に遊びたいゲームを選択して応援することができるのでこれまでにない斬新な企画も実現性が高くなる。

 良いコト尽くめのようだが、当然、先払い故に開発がうまくいかなかった場合などにトラブルになる可能性も秘めている。

 いくつかの成功例が出てくれば、今後注目される開発スタイルとなるかもしれない。

8. 歴戦の戦士か、独創的なアマチュア、どちらにフォーカスを当てるか。

 また、インディゲームのデベロッパと一口にいっても、さまざまな属性があることを忘れてはならない。

 インディゲームのデベロッパは、大きく2種類いる。

 1つは、普段は仕事としてゲーム開発に携わっていたり、過去に仕事としてゲーム開発に携わった経験のある人たち。ゲーム開発を専門的に学ぶ学科の学生など。いわばプロやセミプロと呼ばれる人たちで、彼らはゲーム開発のワークフローやノウハウに精通しており、質の高い作品をコンスタントに生み出すことができる。

 また一方で、学生や一般企業のサラリーマンなど、「ゲーム開発を仕事としていない人たち」もまたインディゲームのデベロッパであり、彼らは質の高い作品をすぐに作ることはできないが、素人故の既成概念にとらわれない独創的なアイデアでキラリと光る作品を多数生み出すことができる。

 PSMやUnityはどちらかというとセミプロ向けであり、きちんとした作品に仕上げるには専門知識が必要である。

 一方、NWF(HTML5)やiOS、Androidはどちらかというとアマチュアにも広く門戸を開いている、専門知識がなくてもプログラミングができるようなハードル敷居の低さを売りにしている。

 この二者の違いは、結局、作品を生み出すクリエイターの分母として効いてくる。

 セミプロを1とすれば、アマチュアは最低でも100倍は存在するだろう。そこそこハイクオリティなゲームを創り出すセミプロがアマチュアでも扱える環境で本気を出すこともあり得る(iOSやAndroidはそうなっている)。

 絶対的な物量による多様性の確保が、アマチュアを対象に含めたNWFのようなプラットフォームの大きな戦略的意図であり、それに比較するとPSMのようにセミプロを前提としたプラットフォームの提供はそのままでは効果的とはいい難い。PSMよりはUnityの方が作りやすいし、配信先の自由度が高いからだ。

 NWFが今後どのように発展して行くかは未知数だが、今回のGDCの段階で大きな話題をさらったのはNWFであり、PSMは影が薄い状態だった。

 今後PS4でどう巻き返しを図るのか、注視していきたい。

著者プロフィール

清水 亮(ユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長)

新潟県長岡市生まれ。大学在学中に米マイクロソフト社の家庭用ゲーム機戦略に関わった後、5年間のサラリーマン生活を経て独立。現在ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長兼CEO。秋葉原リサーチセンター(ARC)を設立し、大学生を中心としたオープンソースゲームエンジン、enchant.jsプロジェクトを立ち上げる。enchant.Moonについては記事「なぜ「enchantMOON」を、どうやって作ったのか?」を参照。


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