研修の事前アセスメントによれば、私は協調派だということでした。今も大きくは変わっていないと思います。そこで、協調派を例にして、どうやって相手とコミュニケーションを取るかを考えてみたいと思います。
結論をいうと、相手に歩み寄りながら、自分はニュートラルなポジションを目指すというのが最善のやり方です。
正反対の行動派は、協調派の気遣いをうっとうしく思うときがあるし、また優柔不断ぶりにイライラすることが多いと思われます。そこで、行動派と話をするときには、あまり気遣いをせず、また結論を早くいうように心掛けます。
感情表現は同じく多いが、協調派と違って考えをはっきりいう感覚派に対しては、もっと自分の考えをいうようにします。
考えをあまりいわないのは同じでも、感情も表さない思考派に対しては、感情を抑えるように努めます。
いずれの場合も、相手の領域にまで踏み込む必要はありません。相手との境界線に立つようなポジションを目指せばいいでしょう。
このとき役に立つのが、ペーシングやミラーリングのようなコミュニケーションのテクニックです。声のトーンや身振りの大きさを相手に合わせようとするだけで、このあたりのことも自然にできるようになるはずです。ペーシングとミラーリングについては、連載第5回「『話し上手なエンジニア』といわれるための8つのコツ」をご参照ください。
相手が自分と同じ協調派だと、お互い優柔不断で物事が決まらなくなると思います。そういうときには行動派に少し寄って、自分の意見をいうようにすると、相手はホッとすることでしょう。
ここで紹介した相手に合わせるテクニックは、普段の打ち合わせのときにも役に立ちますが、それ以上にトラブル対応に役立ちます。トラブルに対応する場合は、相手のソーシャルスタイルをよく見極めて、普段以上に相手のソーシャルスタイルに合わせるようにすることです。覚えておくといいでしょう。
相手のソーシャルスタイルは分かりました。では、興味・関心を聞くにはどうしたらいいでしょうか?
仕事以外でも応用が利くやり方ですが、仕事上の打ち合わせの場面を例に考えることにしましょう。
前回、相手の知識レベルを探るには、相手の過去を聞けばいいと書きました。
興味・関心を探るには、現在と未来を聞くのがいい方法です。
まず、現状について詳しく聞きます。できるだけ事実を話してもらうようにしましょう。考えと事実は区別してもらうようにします。
ある程度現状が把握できたら、次に未来について聞きます。その現状がどう変わればいいと思っているかを聞くのです。
あるべき未来と現状とのギャップに、相手の興味・関心が潜んでいます。
例えば、もっと効率的になればいいと考えているのであれば、相手は効率化する方法に興味や関心を持ちます。
中には現状維持がいいという人もいるかもしれません。そういう人には、現状を維持するためには何が必要だと思っているかを聞きます。その必要と思っていることに、相手は興味や関心があります。
相手のソーシャルスタイルが分かっていると、質問の仕方を工夫できます。以下、ソーシャルスタイル別に、上手な質問の仕方を考えてみましょう。
現状を聞く場面では、感覚派は事実だけでなく自分の感情も交えて話をしがちです。「事実」なのか「考え」なのかを要所要所で尋ねるだけでなく、感情表現をしている場合には、「なるほど、お気持ちは分かります」といったように共感を示すことも大切です。
未来を聞く場面では、どんどんビジョンを語ってくれるので、自由に話してもらいましょう。ただ、イメージだけでよく分からないこともあるので、「それって、こういうことですか?」と言語化の手助けをするとよりスムーズになります。
感覚派は、みんながやる気満々で協力し合っているような場を作ることに満足を覚えます。なかなか意見がまとまらないときは、まとまる方向に誘導するような質問をするのもいいかもしれません。
現状を聞く場面では、行動派は自分の考えを主張しがちなので、それは「事実」なのか「考え」なのかを要所要所で尋ねる必要があるでしょう。
未来を聞く場面では、積極的に考えを話してくれるのですが、言葉は短めです。それを補うような質問をするのがいいでしょう。
行動派は、自分がリーダーシップを取りながら、チームや仕組みで課題を解決することに満足を覚えます。そちらに誘導するような質問もいいかもしれません。
現状を聞く場面では、協調派は気を遣ってなかなかストレートに話をしてくれないので、資料を多用して説明してもらうようなやり方がいいでしょう。
未来を聞く場面でも、なかなか自分の意見がいえないことが多いので、ある程度先回りをして、Yes/Noで答えられるように誘導しましょう。ただ、あまり矢継ぎ早に質問すると尋問のようになってしまうので、間や相づちや励ましを入れ、笑顔を絶やさないで聞くようにしましょう。
協調派は、みんなが満足して楽しいという状況づくりをサポートすることに満足を覚えます。いいアイデアが出たと思ったら「それって、みんな喜びますよね!」といった類の言葉を掛けてみると、本音を漏らしてくれるかもしれません。
現状を聞く場面では、できるだけ事実を語ってもらうようにしようと書きました。相手が思考派なら、これは得意なことなので、できるだけさえぎらずにじっくりと語ってもらえばいいでしょう。
未来を聞く場面では、十分に考える時間を取ってもらうことが必要です。焦らず、場合によっては日を改めるぐらいの配慮が必要かもしれません。いったん休憩するというのもいいかもしれません。他の人が休憩している間にも、思考派は一生懸命考えてくれるかもしれません。
思考派は、自分で解決することに満足を覚えるので、「自己実現した自分」が未来像であることが多いようです。なかなか意見をいってもらえないときは、そちらに誘導するような質問もいいかもしれません。
今回紹介した、相手の興味・関心を知るための4つのプロセスを、図にまとめました(図4)。
かなり高度なコミュニケーションの話になりました。ただ、確立されたテクニックなので、よく理解して試していけば、スキルとして身に付けることはそれほど難しくありません。また、ソーシャルスタイルは、相手の興味・関心を聞くこと以外にも応用ができますので、覚えておいて損はない考え方です。
ぜひ試してみてください。
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