新型Nexus 7とAndroid 4.3は既定路線で、すでに予想されていたため、正直大きな驚きはなかったのですが、今回の発表のもう1つの目玉であるChromecastは、完全に新しいデバイスの登場となりました。
名前の通り、Chromeに関連する製品なのですが、見た目はUSBスティックのようなデバイス。通常のUSBスティックのUSB端子部分がHDMI端子の変わったようなものと想像してみてください。
このスティック状の端末をテレビのHDMI端子に接続することで、既存のテレビをインターネット上のストリーミングを閲覧するためのデバイスに変えてしまおうというものです。
製品のカテゴリとしては、Apple TVや、これまでグーグルが推進してきたGoogle TVと同じジャンルの製品ですが、究極的にシンプル化されています。
製品のコンセプトは次のような感じです。
1)オンラインビデオの視聴数は年々倍増している
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2)米国のストリーミングトラフィックにおいて、全体の47%をNetflix+YouTubeが占めている
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3)本来、テレビは動画を楽しむのに最適なデバイス
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4)しかし、テレビでオンラインビデオを視聴するのはとても困難
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5)Chrome OSでこの問題を解決しよう!
この問題を解決するために、本来はHTML/Webブラウザのための技術/アプリケーションであるChromeを利用しようというのが、いかにもグーグルらしいというか、「コロンブスの卵」的発想というか、いわれてみれば目からうろこのソリューションでした。
スティック状の超小型端末にChrome OSを搭載し、本体にはボタンもリモートコントロールも一切排除しています。非常にシンプルなメディアプレーヤーであったApple TVでさえも複雑に思えるくらいシンプルなデバイスです。
(注):グーグルによる発表時の情報によると、ChromecastはChrome OSで稼働しているといわれていましたが、すでに実機を入手したデベロッパが解析したところ、実際にはGoogle TVをベースにカスタマイズされたAndroidが使われているというレポートがあり、技術的な詳細は要確認な状況です。
テレビ側がHDMIコントロール機能に対応していれば、電源のオン/オフすら操作する必要はありません。全ての操作はAndroidやiOS端末、PC上のChromeから行えます。
Apple TVに慣れている人は、Apple TVからAirPlay機能だけ取り出してシンプル化したデバイスと想像してみてください。ただし、使い勝手はAirPlayと似てますが、実現方法はちょっと異なります。
アップルが開発するAirPlay技術は基本的にローカル機器間でデータをストリーミングする技術です。送信側が動画や音声データを受信側に直接送り込んで実現します。なので送信側にデータさえあれば受信側で再生できますが、送信側の負荷が高く、送信中に操作が制限されるなど制約もありました。
今回、グーグルでは、ローカル機器間でデータをストリーミングするのではなく、実際に再生するデータは全てクラウドから受信する仕組みを採用しました。
Chromecastは、H.264やWebMなど一般的なストリーミング用ビデオフォーマットをサポートしているため、操作側の機器は自分が見たいメディアのコンテンツURLをChromecastに送り込むだけです。URLを受信したChromecastは、自らでそのメディアのURLを再生します。
この仕組みなら送信側の機器はほとんど負荷が無くなりますし、URL送信後に送信側の機器をスリープしても問題ありません。また、送信側ももともとマルチプラットフォームで開発されているChromeさえ動いていれば良いので、AndroidだけでなくiOSやWindowsでも問題なく操作できます。
アイデア自体はシンプルなので、なぜ今まで誰も実現しなかったのかと思いがちですが、実際には単にURLを飛ばすだけでなく、再生状態の管理やコントロールのための情報を常にクラウド経由で同期する必要があります。そのため、実現するには信頼性が高く、パフォーマンスの良いクラウドインフラが必要になります。
そう考えると、現実的にはグーグルにしか実現できなかったデバイスであるともいえます。
個人的に「グーグルってすごいな」と改めて思ったのは、シンプルさ・使いやすさに対する彼らの定義です。
彼らはChromecastについて、新たなことを何も学ばなくても使える、最もシンプルで使いやすいデバイスであると主張しています。
ただし、ここでいう「使いやすさ」は、すでにPCやスマートフォンでChromeや同社サービスを使いこなしているのを前提に成り立っています。
ユーザーエクスペリエンスや使いやすさの定義は本当に難しく、前提があれば成り立つ定義も、それが無ければ成り立たないことが多く、既存のコンシューマ製品では基本的にこの手の前提をなくし、予備知識がなくても誰でも使える製品を目指すのが常識となってます。
しかしその結果、過剰な作り込みとなり、使い勝手が難解で複雑になってしまうことが多々あります。
既存製品における常識や非常識を捨て去り、同社サービスの既存ユーザーを前提とした上でベストな解答を考えると、リモコンどころか、本体側の操作が全く必要なくなったというのがグーグルの主張です。
その実現方法として、本来WebブラウザであったChromeをベースにデバイスを作ってしまうのもグーグルらしいアプローチです。
さらには、Google TVやNexus Qなど、これまでにも同様の機能を実現するために開発してきた機器を、まるで何事もなかったかのように、過去のものにしてしまう割り切りも、良くも悪くもグーグルらしいなと思いました。
ちなみに、Chromecastは基本的にはストリーミングメディアプレーヤーという位置付けで、YouTubeやNetflixなどのサービスをAndroidやiOSから操作してテレビで再生させるというデバイスですが、発表ではベータ機能として手元のChromeで見ているWebページをChromecastに転送する機能も提供すると発表されました。
その際は、クライアント側でWebページを動画ストリームに変換して送信するようで、アップルのAirPlayと同じような仕組みで動くようです。
実のところ、AirPlayも動画は直接受信側でストリーミングを受信するケースもあるようで、コアの技術自体にはそれほど大きな機能差はない気もします。
しかし、オープンな仕様や、コア技術の上に組み合わされたクラウドとの連携や、35ドルという格安な価格設定はさすがグーグルという感じです。
Netflixの3カ月無料キャンペーンクーポンが付属していたこともあり(無料分を換算すると、本体価格は実質11ドルとなります)、Chromecastの売れ行きは発売直後からものすごい勢いでした。クーポンが付属した在庫は1日ではけてしまったようです。
筆者自身も、発表直後にオンラインで注文したものの、すぐに欲しいと思い、翌朝にBest Buy(米国の大手家電量販店)に行ったのですが、どこの店舗も完売状態。一瞬で売り切れてしまったようです。
ちなみに、グーグルの発表では、Chromecastのスティック状デバイスをテレビの裏のHDMI端子に差し込むだけで動作していましたが、これにはHDMI1.4に対応したテレビが必要です。今普及しているテレビはHDMI1.4以前のテレビが多いので、実際にはHDMI端子と反対側にあるUSB端子から電源を供給する必要があります。最近のテレビであればUSB端子も搭載していることも多いので、スマートに電源供給できる気もしますが、ちょっと紛らわしかったので補足まで。
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