2013年7月17日、日本オラクルはデータベース製品の最新版となるOracle Database 12cの国内提供開始を発表しました。
「実に感慨深い」と同社 専務執行役員 テクノロジー製品事業統括本部長 三澤智光氏。
これまでを振り返ると、その時代背景に合わせてOracle Databaseは進化してきました。バージョン番号に添えられるアルファベットが時代を象徴しています。
「8i」はクライアントサーバモデル時代でインターネットの「i」、「10g」ではグリッドコンピューティングの「g」。「g」の世代でOracle Databaseは単なるSQLのエンジンではなくグリッド環境のプラットフォームへと進みました。そしてExadataも登場します。今回の「12c」はクラウドの「c」が添えられることになり、三澤氏は「大きなアーキテクチャのチェンジ」と話していました。
クラウド時代に求められるデータベースを追求し、オラクルが出した最初の答えが「12c」と言えるのかもしれません。
象徴的なキーワードとなるのが「マルチテナント」です。データベース層で多数のデータベースを統合的に管理するための仕組みと考えてもいいでしょう。マルチテナントをアパートに例えるならば、大家さんにあたるのが「コンテナデータベース」で、それぞれの住人となるのが「プラガブルデータベース」です。
マルチテナントになると何がいいのか。1つはハードウェアリソースの効率化です。コンテナデータベースでハードウェアリソースを共有できるため、無駄が少なくなります。従来型のデータベースと比べると必要なメモリサイズが5分の1になるケースも。これまで50GBのメモリを必要としていたものが、10GBで済むことになります。効率的であり、低コスト化にもつながります。
運用も、よりシンプルを目指し、運用者の負荷が下がるようになっています。これまではシステムごとにパッチ適用やアップグレードをしていましたが、コンテナデータベースに対して一度行えばその配下にあるプラガブルデータベースに反映されます。バックアップも同様にコンテナ単位で操作できます。一方で、データベース単位で操作が必要な作業については個別に操作できます。
マルチテナントアーキテクチャではコンテナデータベースで「まとめて」管理する効率性と、プラガブルデータベースで「個別に」操作する独立性や柔軟性がうまく共存できるようになっています。
12cの特徴はまだ他にもあります。12cでは情報ライフサイクル管理の自動化が進んでいます。一般に、データベース内には頻繁に更新される「ホットな」データと、アクセス頻度が低い「コールドな」データが混在しています。12cでは更新頻度を「ヒートマップ」で管理し、ポリシーに合わせて更新頻度が低いものは自動的に圧縮したり、低速ストレージに移動できます。この機能は、ストレージの効率的な運用につながります。
セキュリティ面ではデータのマスキングがデータベースレベルの設定でダイナミックに実行できるようになりました。これまでアクセス制御や機密データのマスキングはアプリケーションレベルで緻密に作り込んでいたところ、12cではデータベースにアクセスするユーザーごとに適切な結果を返すようにポリシーで設定することができます。ただしこの機能はオプションです。
災害対策につながる高可用性も強化されました。日本では東日本大震災がきっかけとなったように、アメリカでは昨年(2012年)東海岸をハリケーン「サンディ」がおそったことが災害対策への意識向上のきっかけとなりました。実はアメリカでは多くのデータセンターやサーバーが東海岸に集中しているのだそうです。ハリケーンを機会に西海岸やより離れた地域にデータを同期しようという動きにつながりました。
しかし遠隔地とのデータ同期はネットワークで遅延が発生するため、性能に悪影響を及ぼす懸念がありました。そこで12cでは「Active Data Guard」として、遅延の生じない近距離にログを同期転送するためのインスタンスを設置し、そこからスタンバイサイトへ非同期にデータ転送します。なおこのログだけ同期するインスタンスにはOracle Databaseのラインセンスは生じないそうです。もちろんサーバーは購入する必要がありますが。大陸間のデータ同期もできそうです。
さて今回の出荷開始ではあらゆるサービスも12cに合わせてそろっています。これまで新しいOracle Databaseが出荷されると対応するプラットフォームはLinuxで「Windowsは順次」でしたが、今回は違います。今回はWindows版もほぼ同じタイミングでリリースされました。またEnterprise Managerは12.1.0.3にて、WebLogic Serverは12.1.2にて、ExadataはX3シリーズにて、それぞれ出荷済みの製品がすでに12cに対応しています。
Oracle Databaseにほかの製品が「ついて行く」のではなく、周囲の製品が準備を整えてからOracle Database最新が「お出ましになる」かのようです。これから12cはどのような時代を切り開いていくのでしょうか。
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