初対面の顧客に、名刺交換の後にいきなり商品やサービス(以下、サービスも含めて商品といいます)の説明を始めてしまう営業マンがいます。商品やサービスが顧客の欲しくて欲しくてたまらないものだったらそれでも良いのですが、そんな幸運はほとんどありません。
営業に必要なのは、まずは顧客の課題を聞き出すことです。その上で、話を続けていいものかを判断します。そうしないと、仮にとんとん拍子に成約したとしても、後々のトラブルの種をまくことになってしまいます。また顧客自身も自社の課題を明確に意識していない場合があります。方法やツールありきになっていることも多いのです。
この段階では質問が大切です。他の顧客の事例をベースに質問していくと良いでしょう。思わぬ課題が浮き彫りになると、顧客のあなたに対する信頼が一気に高まり、その後の主導権を握れるようになります。
明らかになった課題が自分の取り扱い商品で解決できないのであれば、他部門や他社を紹介し、次の商談先に向かいましょう。その方が、双方ハッピーになるうえ、将来別の商談につながる可能性を残せます。
課題が明確に言語化されたら、次はその課題を具体的に掘り下げていきます。
ここでも、質問が重要な役割を果たします。事前に質問のチェックシートを作っておくと良いでしょう。そのチェックシートは商談を重ねるたびに充実させていきましょう。
課題の具体化が完了したら、次はその課題が全て解決した状況のイメージを共有します。利用者の喜びの声や、経営者の評価や、顧客自身の顧客の感謝など、できるだけ具体的にイメージします。担当者がどのように自己実現できるかも重要です。
そのイメージがゴールです。そのゴールを目指して一緒に頑張りましょうという雰囲気ができれば、ほぼ契約できたと思って良いでしょう。そのイメージが作れないのであれば、この後厳しい価格交渉などが待っていることでしょう。
ここまで来てようやく、持参した商品が解決策になることを説明します。
課題とゴールイメージが共有されているので、商品説明もフォーカスがはっきりしたものになります。言い換えると、商品説明が提案そのものになっているということです。
顧客としては、自分も共有している課題やイメージなので、提案内容そのものに不満はありません。ただ、価格が適正か、上司への説明が可能か、導入時に困難が多いのではないか、利用部門や経営者の反対を受けないか、効果は測定できるものなのかなど、不安はたくさん残っています。その不安を洗い出し、一つ一つ解消していきます。
不安についても、課題の質問と同様にチェックリストを作成し、商談の都度バージョンアップしていくと良いでしょう。
提案に対する不安が解消されれば、後は契約するだけです。
ここまでに出てきた課題や提案内容、解消した不安をまとめて顧客と再確認し、最後に明確に契約をお願いします。
以上、営業の起承転結を少し詳しく見てきました。扱い商品にもよりますが、起承転結が1回の訪問で終わることはまれで、それぞれ数回ずつ掛かることも大きな取引ではよくあります。トータルで1年や2年掛かるケースも珍しくありません。
“転”まできたはずなのに、状況が変わってまた“起”に戻ることもあります。ただ、この構造を踏まえておくと、商談の主導権を握りやすくなりますし、進捗状況も明確に把握できるようになります。
最後に、起承転結を踏まえることをお勧めする理由を書きましょう。それは「ロジカルに見られる」からです。
ITエンジニアの評価軸は幾つもあります。
例えば、技術力が高い、マネジメント能力がある、人間として信頼できるなどです。これらの全てに突出している必要はなく、それぞれのウリとして、どれを伸ばすかを考えていけば良いと思います。しかしITエンジニアという職種において、絶対外せない資質が1つあります。
それは、ロジカルかどうかです。
皆さんはロジカルに思考することには慣れているはずです。そうでないと要件定義も設計もプログラミングもできません。テストだってロジカルシンキングを応用してMECE(漏れダブりなく)でテストケースを作成する必要があります。
ロジカルに思考するのは得意なのに、ロジカルに表現するのは苦手な人がいます。せっかく思考レベルではロジカルなのに、あいつはロジカルでないというレッテルを貼られている人の多くはこのパターンではないでしょうか。
ITエンジニアにとってこれほど損なことはありません。それだけで市場価値が下がります。逆にロジカルに表現できる人は、市場価値が高くなります。
起承転結というフレームワークは、あなたがロジカルであることを証明する魔法の杖(つえ)だと言っていいでしょう。しかも今回ご紹介したように決して難しい話ではないのです。
ぜひ試してみてください。
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