ヤフーは、「リーン」にどう取り組んでいるか「爆速」というスローガンの裏の現場

「爆速」をスローガンにスピード感のある事業運営を目指すヤフー。同社のソフトウェア開発の現場ではどういう取り組みが進められているのか。これを同社CMO室の河合太郎氏が講演で話した。

» 2013年10月30日 09時00分 公開
[三木 泉,@IT]

 ヤフーでは、「爆速」を社内のスローガンとして、「リーン・スタートアップ」 を実践しているという。同社CMO(Chief Mobile Officer)室の河合太郎氏は10月28日に開催された「IBM Innovate 2013」で、これについて講演した。

 どんな企業でも、新規事業の企画書には必ずといっていいほど市場や売り上げ予測の数字が入れられる。「それは全部ウソです」と河合氏は話した。誰も将来の予測などできない、これを認めることが出発点だという。そしてリーン・スタートアップとは、あいまいなものを確かなものにする作業であり、これは組織の大小を問わず必要だと話した。

ヤフー CMO室の河合太郎氏

 製品やサービスを完成させてから世に問うこれまでのやり方では、確かさが向上しない。だからリーン・スタートアップでいう「MVP(Minimum Viable Product:機能する最小限のプロダクト)」を短期間で提供し、市場からのフィードバックを得て修正・改善するサイクルを高速に回していくべきだという。

 河合氏はヤフーの開発した「僕の来た道」というモバイルアプリを例に、これを説明した。

 このアプリの発端は、「GPSからの位置情報を記録し続けるアプリがあれば面白いのでは」というアイディアだった。さっそくつくって使ってみると、なかなかいいが携帯電話のバッテリが1日持たない。工夫してみるものの、大幅な改善が難しい。そこで改めて社内で広く使ってもらい、ヒヤリングをしてみると、マニアックな人はGPSによる正確な情報を記録し続けることに価値を求めるが、そうでない人はライフログとして、行った場所が大まかに把握できることを評価すると分かった。これがリーン・スタートアップでいう「ピボット(転換点)」だったと河合氏は話す。GPSではなく携帯基地局による大体の位置情報を自動的に記録するのに加え、TwitterやFacebookへの位置情報付きの投稿をインポートできるようにして、簡易日記のようなアプリに仕立てたのだという。

頻繁に製品をリリースしていくことで、積分の最大化を目指す

 こうして1つの製品がある程度「完成」したからといって、モバイルアプリでは利用者数や利用量が最初にピークを迎え、あとは減衰していくのがほとんど。だから事業全体としてはできるだけ頻繁に新製品を出し続け、ピークの大きさではなく、利用量の面積を「スループット」と考え、これを最大化することを目指さなければならない、そしてリーン・スタートアップに限らず、すべてのモダンなソフトウェア開発手法はこれを意図していると河合氏は話した。

 ヤフーの社内で、「爆速」の意味は必ずしも正確には定義されていないが、この言葉は「マントラとなっている」(河合氏)。2012年6月に社長兼CEOに就任した宮坂学氏は、「前社長より2倍速く失敗する」と社内で宣言し、事業承認プロセスの簡略化などを打ち出している。同社はトップダウンのビジョンとボトムアップのトレーニングで、社内に生まれがちな変化に対する抵抗感を打ち破っていこうとしているという。

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