香港で開催されたOpenStack Summitでは、中国語圏の巨大サービスでの採用事例が登場。過去最大規模の参加者を集めたOpenStack Summitの勢いの背景とは?
2013年11月5日に開幕したOpenStack Summitは、約50カ国から3000人以上を集めている。これは過去の同サミットを大幅に上回る規模だという。OpenStack Foundationが米国外で初のOpenStack Summitを香港で開催したのは、このコミュニティの勢いをアピールするという意味で最適な選択だったのかもしれない。
ジェネラルセッションでは中国のオンラインサービス企業3社がOpenStackの導入について語った。
バイドゥの子会社で、月間36億PVを誇るのオンライン動画サイト「iQIYI」を運営するiQIYI.COM、モバイル版だけでも1日平均20億PVというセキュリティやストレージなどの個人向けオンラインITサービス「Qihoo 360」を提供するQihoo 360 Technologyは、いずれも事業を支えるインフラをOpenStack上に構築している。
また、中国のオンライン旅行予約におけるシェア40%で、1日3100万PVがあるという「Ctrip」を運営するCtrip.comは、1日平均20万件の問い合わせをさばくコールセンターの約1万3000シートを、2014年中にはOpenStack上ですべて仮想環境上に置く予定だ。同社ではこの他に、アプリケーションインフラもOpenStackに移行中だという。
Ctrip.comのテクノロジ担当副社長 エリック・イー(Eric Ye)氏は、利用者数が毎年倍増し、サービスも次々に増えていくビジネスを支えるために、迅速なスケーリングが可能でコストの低いインフラを実現する目的で、OpenStackを選択したと話した。
OpenStack Foundationが2013年4月に公表したユーザー調査では、OpenStack導入理由の第1位はコスト削減、第2位は運用効率化、第3位はオープンなプラットフォームとなっている。導入組織を産業別に見ると、IT関連、教育・研究、映画・メディア・エンターテイメント、政府・防衛、製造業、小売、ヘルスケア、金融、一般向け消費財、の順だ。
オープンなIaaS技術の開発を進めてきたOpenStackプロジェクトは、その活動の大規模化と多様化を支え、ガバナンスを導入するため、2012年9月にOpenStack Foundationという財団を設立した。現在では269の企業がメンバー、スポンサー、あるいはサポーターの立場で参加、個人メンバーは1万2300人以上に達している。プロジェクトの数も増え、月平均のコントリビュータ数は375に上る。ちなみに現在、コントリビューションが世界で一番多い都市は北京だという。
OpenStackは開発と導入の両面で、なぜ、上記のような「勢い」を持つに至ったのか。
当然ながら今回のサミットでも、オープンソースであるために、特に技術力の高いユーザーにとってはコスト効率が高く、コードの改変についても自ら行うことができるし、コミュニティに参加する多数のプログラマとともにコードを作り上げていけることが魅力だという指摘が相次いだ。
IaaS事業者を想定すれば分かりやすいが、自社のサービスを良くしていくために、世界中のOpenStackコミュニティメンバーが助けてくれるという感覚がある(もちろんユーザーは、恩恵を受けるだけでなく、自らも貢献する必要がある)。一方、商用IT製品を提供するベンダにとっては、この分野で自社に優る他社商用製品の付加価値を低めるために、オープンソース化を活用することもできる。
2つ目の成功要因は、OpenStackのプラグイン・アーキテクチャだ。
コンピュートプロジェクト(Nova)からネットワーク機能(Quantum)を切り出したことをはじめとして、OpenStackはモジュール化されており、各プロジェクト(コンポーネント)にはAPIが明確に規定されている。これによって、開発をスケールしやすくしている。ユーザーはOpenStackを使うからと言って、そのすべてのコンポーネントを採用する必要がなく、取捨選択できる(関連記事:OpenStackプロジェクトの歴史、いまさら聞けないOpenStackコンポーネント)。
既存IT製品を含めてOpenStackプロジェクト外の製品や技術が連携しつつあり、ユーザーにとって、実装の選択肢は広がっている。同じ理由で、OpenStackの周りにITベンダのエコシステムが生まれやすい構造になっている。
さらに、OpenStackは主要な複数のハイパーバイザに対応する。KVM、Xen、XenServer、ESXi、Hyper-Vなどから選択し、あるいは併用することができる。
今回のサミットで一部の人々が指摘した第3の成功要因は、主要IT企業の参加だ。背景にはさまざまな理由が考えられるが、OpenStackプロジェクトを有望なIaaSのオープンソースプロジェクトとして認識した時点で、商用IT製品ベンダが考慮すべき選択肢は少なくとも次の7つある。
OpenStackに参加している商用ITベンダは、「無視する」を除く上記のすべての点を、比重の違いはありながら考え続けているはずだ。
これが第4の成功要因につながる。OpenStack Foundationは、上記のような商用IT製品ベンダのさまざまな利害を超えて、コミュニティ全体の発展につなげるために、巧みな運営をしていると評価する声は多い。例えば、米ラックスペースのCTOであるジョン・エンゲーツ(John Engates)氏はパネル・ディスカッションで、「(この団体は)真にメリット(実利)に基づく運営がされている」と話している。
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