IT業界の技術者不足の問題を背景に、子ども向けプログラミング教育への関心が高まっている。大手企業、民間団体、教育機関などを中心に、この分野への参入が続いているが、現在、プログラミング教室に通う子どもたちは、何を学んでいるのだろうか? ICT/プログラミングスクール「TENTO」の作品発表会を通して、その様子をレポートする。
大学の広い講義室で、およそ100人の観客を前に自分でプログラミングしたゲームや作品を披露する子どもたち。「背景を自分で手描きしました」「カメの配置を乱数で表示させるように工夫しました」「飛ばした玉が遠くに行くにつれて、どんどん小さく見えるように大きさを変化させました」など、目の前にいる大人たちを物ともせず、堂々としたプレゼンテーションをしてみせる。
これは、2013年10月20日、筑波大学文京校舎で開かれたICT/プログラミンスクール「TENTO」の『第2回プレゼン大会』の様子。この大会には、同スクールに通う小学1年生〜中学2年生までの計23名が参加し、約2カ月かけて制作した作品が発表された。
「TENTO」は、2011年にさいたま市でスタートしたICT/プログラミングスクール。「どんな子どもでも、『環境』と『機会』を与えてあげれば、プログラミングの能力は身に付く」という視点に立って、ピアノやスイミングといった習いごとと同じような感覚で、定期的に通いながらプログラミングを学ぶことができる。
「子ども向けのプログラミングっていうと、一部の特別な子どもたちが、大人顔負けのすごい作品を作り上げるような、そんなイメージが先行してしまいがちですが、そうではなく、どんな子どもたちでも学べるような“場”が必要だと思い、スタートしました」とは、TENTO共同代表の竹林暁氏。
また、ワークショップのような一過性のイベントで終わらすのではなく、「プログラミングは継続して学ばないと技術として定着しない」と考えているため、“定期的に通って学べる場”であることにもこだわったという。
現在TENTOは、新宿区とさいたま市の2校で展開しており、小学1年生から中学2年まで、約40名の子どもたちが通っている。
通常の講座は一斉授業ではなく、異年齢の子どもたちを1つの教室に集めた寺子屋式スタイルで個別学習をメインに進めている。教え合ったり、友達の作品を見て評価し合ったりしながら自然に学び合える環境を大切にし、プログラミング教育を通して「デザイン型人材」の育成を目指している。
TENTOで学ぶ子どもたちは、最初はプログラミング未経験者がほとんどだという。なかには、マウスを上手に触れない子どももいるなど、各自のITバックグラウンドは大きく違っている。
そのため、最初は「Scratch」「VISCUIT(びすけっと)」「プログラミン」などのビジュアルプログラミングを通して、プログラミングの思考やPCの操作を学んでいく。それと並行してタイピングの練習が行われ、やがてタイピングが上達すれば、HTML、JavaScript、PHP、Rubyなどの本格的なコーディングへ進んでいくという。
「他の団体では、言語や開発環境を1つに絞って教えている場合が多いですが、TENTOでは、さまざまなものを使っています。これは、子どもたちが大人になった時、どのような言語に触れるか予想できないからです。また、どんどん新しい言語に触れて新しいものに対する対応力も付けてもらいたいですね」(竹林氏)
またTENTOでは、プログラミングだけを教えるのではなく、毎回の講座の中にプレゼンテーションの時間を設けて、作った作品を発表したり、途中経過を見せ合ったりして、子どもたちが互いに交流できる時間を大切にしている。
「プログラミングを学ぶ過程において、『機械と自分』の枠に、こもらないでほしいですね。1人で黙々と作業をする時間も大切ですが、教育的な視点から見ると、それだけでは不十分です。作った作品を誰かに見てもらい『人に喜んでもらうためには、どんなものを作るべきか』『どんなふうに話せば、分かってくれるか』『人を笑顔にするにはどんな作品が良いか』などを知ってほしい。自分の作品を客観視するとともに、制作の動機を得たり、他人に認めてもらうことで、プログラミングの楽しさが増していけばよいのではないでしょうか」(竹林氏)
学校も住んでいる地域も異なる子どもたちが講座に来て、自分のスクリーンばかりを見ていたのでは、1人の世界にハマりかねない。子どもたちが定期的に通っていることを生かし、プレゼンテーションなどを通して仲間からフィードバックをもらうことは、まだプログラミングを学ぶ子どもが少ない現状では、彼らのモチベーション維持においても大切なことだといえる。
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