このように、子ども向けプログラミング教室に通う子どもたちは作品作りを通して技術だけではなく、さまざまなことを学んでいるが、最近はこの業界を取り巻く状況も変化しており、その動きも加速しつつある。
ネット業界の技術者不足がクローズアップされるようになってからというもの、子ども向けプログラミング教育への関心は、企業や民間団体、教育機関などを中心に高まっている。政府レベルにおいても、2013年6月に発表された成長戦略素案のなかで「プログラミングの義務教育化」を盛り込むなど、この分野が本格的に動き出す様子を見せている。
すでに大手企業の中では、グーグルが後援となり、NPO法人CANVASと運営しているコンピュータサイエンス教育を支援する「コンピュータに親しもう」プログラムを2013年10月にスタートし大きな話題を集めた。これはLinuxベースで動作する手のひらサイズの安価なコンピュータ「Raspberry Pi」(ラズベリーパイ)とScratchを使ってプログラミング教育を行うというものだ。初年度は5000台のマシン提供、2万5000人以上の参加者を目標にしているという。
また、サイバーエージェントのグループ子会社も、同じく2013年10月に小学生向けプログラミング教室「Tech Kids Camp」を開校、ベネッセコーポレーションは、Scratchを用いたワークショップやイベントを開催するなど企業の取り組みは広がりを見せている。
また、それとは別にTENTOのような民間スクールもその数を増やしており、中高生を対象とした「Life is Tech」や小学生〜中学生を対象にした「ビスケット塾」「OtOMO Scratch ワークショップ」など各地でプログラミングを教える団体が増えている。
それに加えて、最近は保護者自身の関心も高くなっているという。それについて竹林氏は次のように語る。
「保護者の方の関心が非常に高くなっているのを実感しています。TENTOでも、毎週、体験の希望者が来られるような状態で、最近は特に低年齢化しています。
また、以前はリテラシーに対する意識の高い保護者がお子さんを通わせているケースがほとんどでしたが、最近は、ITに関係ない仕事をしている方や自分はITのことがよく分からないという親御さんにもプログラミングの重要性が伝わっているようで、学ばせたいという方が増えています。中でも、『将来のために技術を身に付けさせたい』と話される親御さんが多いです」
このように、プログラミング教育への関心や動きが高まってきているが、今後の課題点は何か。竹林氏は次のように語る。
「TENTOが抱えている現状の課題としては、“教え方の確立”と“講師の不足”です。プログラミングを始める前の、子どもたちのITバックグラウンドはかなり異なり、またそれぞれの興味や関心も多様化しているため、講師1人で2〜3名の子どもしか対応できないような状況になっています。教材などをうまく使うことで、もう少し効率化できるのではないでしょうか」
また講師不足に対する課題に関しても、竹林氏は問題点を挙げる。
「プログラミング教育に関心が高まってきたのはいいですが、需要に対して、講師が圧倒的に不足しています。これはTENTOだけではなく、他のスクールでもそうではないでしょうか。今後、さらにプログラミング教育の必要性や需要が高まってくると、ビジュアルプログラミングから本格的なコーディングまで多様な言語を教えられる講師が求められるようになってくると考えています。この“教える人材”をどう増やしていくか、これが業界全体の課題です」
今後、さらに関心が高まり、その動きが本格化していくとみられる子ども向けプログラミング教育の世界。義務教育への導入がその動きを加速させると予測される中で、一早くこの分野に参入した大手企業の取り組み、すでに子どもたちとのかかわりの中で実例を多く持つ民間スクール、講師候補が多く存在するIT企業など、それぞれが担う役割が問われるであろう。
プログラミング教育の入り口となる教育的な視点から、またその出口となる人材育成の視点から、ますますこの分野への注目は高まる。
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