極端なことを言えば、技術的な観点からWebの未来図を予想するのは、それほど難しいことではありません。今、Webの国際標準化団体「W3C」で検討されていることは、(あくまで僕の経験則にのっとって言えば)3年ほどたってブラウザーでの実装が安定化すれば、広くサービスとして利用可能になるでしょう。最近のトピックで言えば、P2PやMIDIなどのデバイスとの連携がそれに該当します。さらに端的に言うと「リアルタイム性の進化」「Webとモノがひも付く」ことが予想されます。
しかし重要なのは、先にも述べたように、これらの技術がWebに取り込まれることというより、それによりどのような化学反応が生まれるかです。
「ヒト・情報・モノ」が複雑に絡み合いリアルタイムに連携する世界で一体何が具現化されるのか、それを今この時点で予測することは困難です。無理に予想するよりも、目まぐるしく変わっていく環境の変化に寄り添い臨機応変に順応していくこと、そして、相反するようではありますが、そんな中でも変わらない何か―― すなわち信念を持つことが重要であると僕は感じています。
あまりにも具体的で明確なゴールは、時に変化に脆いものです。適度に抽象度の高いゴールを設定することで、変化に追従する柔軟性を得られます。短期的には明確なマイルストーンを描きつつも、長期的には柔軟性を許容する抽象度を持つこと。それが僕の個人戦略の根幹です。
最後に具体的に行動を進めていくに当たり、日ごろ気を付けていることを2点紹介して本稿を締めたいと思います。
1点目は、マイルストーン設定に当たり、過度に恣意的(しいてき)にならないことです。
「このプランは計算づくで完璧、きっともうかる」「これをやったら好意的に評価される」と色気を持って臨んだプロジェクトは、大抵その通りにはいきません(恋愛に近いかもしれません(笑))。余計なことは考えず、わくわくすること、頑張りたいと思うことに真摯(しんし)な気持ちで取り組む方が成功が得られる確率は高い、というのが僕の考えです。
実は、冒頭で述べたゴールですが、普段の活動の中ではあまり考えないようにしています。過度にゴールを意識すると、柔軟性が損なわれがちです。信念として備わっていれば、深層心理の中で自然とそちらの方向に向かっているものです。
2点目は、できないことを会社や組織のせいにはしないということです。
自社他社問わず、よく「うちの会社では、こんなことはできない」「うちの組織で、これをやるのは到底無理」という声を耳にします。「できない。きっと無理。だからこのプランは諦める」。そういった選択を行うケースは少なくありません。
しかし、無理だと思ったことも、信念を持って上司や部下、関連の人々に相談すれば実は可能であることは少なくありません。時には、大きな組織変革が必要なケースもあり、一長一短では進まないこともあります。そういったケースでは、長期的・段階的に計画を進めたり、チャンスを粘り強く待つことも必要でしょう。
大切なのは、本当にやりたいことがあるのであれば、何かしらの形で行動に移すことです。まず自分が始めなければ何も始まりません。問題の多くは外ではなく、自分の中にあるものです。チャレンジングな姿勢を忘れないことが重要です。
「自分戦略」というテーマについて、Webの進化に携わる技術者として、自分の中のゴールと、そのゴールを設定した経緯、理由を述べました。適切な抽象度を持つことで、変化に対する柔軟性を持つことが、僕自身の「自分戦略」であると感じています。
また、日ごろのマイルストーンをクリアしていくに当たり、意識している点を2点紹介しました。1点目は過度に恣意的にならないこと。もう1点はできないことを外部のせいにしないことを述べました。
正直に言いまして、僕自身、今回の内容を常に守れているかというとそんなことはありません。時に自分の行動を振り返り再整理し、見つめ直すことが重要だと思います。そういった意味において、今回の企画を頂けたことは大変貴重な機会でした。このようなすてきな企画を与えてくれた@IT、そして最後までお読みいただいた読者の皆さまに感謝の意を表します。
小松健作(@komasshu)
CDNシステム開発などインフラエンジニアを経た後、HTML5に出会い、Webがプラットフォーム化することを確信する。2009年よりネットワークとの相互作用を中心に、HTML5の研究開発に従事。W3Cでの標準化推進や執筆活動、コミュニティ運営など、活動は多岐にわたる。
Google Developer Expert(HTML5)、Microsoft Valuable Professional(IE)
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