ITRの「IT投資動向調査2014」によると、「全社的なコンテンツ管理インフラの整備」「情報・ナレッジの共有/再利用環境の整備」といった、ECMに関連するトピックに高い関心を示す企業は多い。にもかかわらず実際の投資にまで至らないのはなぜだろうか。
企業内に存在する業務ドキュメントを全面的に電子化し、全社共通の文書管理プラットフォーム上で一括管理することで、情報共有の促進や業務ワークフローの自動化を実現し、ひいてはビジネス全体の効率性アップやガバナンス強化を図る「ECM(Enterprise Contents Management)」の取り組み。「ペーパーレス」や「文書管理」といったキーワードは相変わらず頻繁に耳にする一方で、このECMについては2005年に施行された「e-文書法」で一時期話題になったものの、最近ではあまり聞かなくなってきた。
しかし、ITR リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト 生熊清司氏によれば、ECMが持つ価値やその導入メリットは、これまで企業の間で常に一定の関心を集めてきたという。
「弊社が2013年10月に実施した『IT投資動向調査2014』によれば、企業は『全社的なコンテンツ管理インフラの整備』『情報・ナレッジの共有/再利用環境の整備』といった、ECMに関連するIT動向に対してかなり高い関心を示している。しかもこの傾向は、ここ10年ほどの間ずっと続いている」
しかし、と同氏は続ける。
「ECMに対する関心は常に高いものの、実際のシステム投資にまでは至らないという傾向がずっと続いている。企業のIT投資はどうしても、法令対応のように期限が設けられたものや、費用対効果が見えやすい分野が優先されがちで、ECMのように期限が特に設けられておらず、しかもシステム投資の効果が定量化しづらいものはどうしても後回しにされがち。結果、重要性は認識されているものの、実際の投資にまではなかなか至らないという状態が長く続いている」
一方欧米においては、多くの企業が既にECMを導入して積極的に活用している。生熊氏は、こうした日本と欧米の“温度差”が生じる理由について、日本独自の企業文化やビジネス習慣を挙げる。
「欧米の企業では、社員の職掌範囲が明確に定義されており、それを基に業務プロセスがシステマチックに定められている。一方、日本企業では社員1人1人がカバーする業務範囲が広く、かつ職掌範囲も厳密に定められているわけではない。あいまいな部分をあえて残し、互いに補完し合うことによって、少ない人数で柔軟に業務プロセスを回すのが日本流だ。逆にいえば、ITではカバーできない、昔ながらの“人間系”の業務プロセスが多く残っているのが特徴だといえる」
そうした人間系のプロセスにおいては、昔ながらの「紙とハンコ」が主流なので、自ずとECMのような大掛かりな仕組みを使った「プロセス全体のシステム化」はなかなか進まない。中には、せっかくECMを導入しても、電子化してシステムに取り込んだ文書ファイルをわざわざプリントアウトして、人間系の業務プロセスに載せているケースも少なくないという。
ただし、必ずしも旧態依然とした「紙の文化」が相も変わらず大手を振るっているというわけではない。ITRの調査によれば、むしろほとんどの日本企業は紙の書類を使い続けることで生じるさまざまな弊害を十分に理解しており、ドキュメントの電子化に積極的に取り組んでいるという。
「紙の資料は電子媒体とは異なり、アクセス履歴を残すのが難しいため、電子媒体よりむしろセキュリティ上の課題は多い。また、災害時の事業継続のためにオフィス以外の場所から社内情報にアクセスできるようにしたり、あるいは事業のグローバル化に伴い海外拠点との間で情報を共有しようとした場合、紙の資料では自ずと限界があるため、ドキュメントの電子化はほぼ必須になる。事実、弊社が行ったアンケート調査では、調査対象企業の85%が、何らかの形でドキュメントの電子化を推進していると回答している」
問題はむしろ、ドキュメントを電子化した“後”の扱い方にあるという。
「日本ではファイルサーバーは広く普及していて、各部門やグループごとにサーバーを立てて共有フォルダに文書ファイルを保管するような使い方は、極めて一般的に行われている。しかし、ソフトウェアによるドキュメント管理の仕組みはほとんどないため、言い方は悪いが『ゴミ箱』のようにファイルをやみくもに放り込むだけの運用になってしまっているケースが多い。こうした状況を改善したいというニーズは多く、それに応えるためのソリューションも数々提供されている」
例えば、ファイルサーバー上の各ファイルのアクセス頻度を監視して、利用頻度が低下したファイルや、あらかじめ設定した保管期限を過ぎたファイルを自動的に削除したり、バックアップメディアに移行させるようなツールが提供されている。中小規模のシステムを対象にした、いわゆる「文書管理システム」の多くも、こうした機能を備えている。
こうした製品は、大規模システム向けのECMシステムと比べれば、明らかに限られた機能や性能しか提供できないが、多くの日本企業にとって直近の課題を解決するには十分なことが多いという。
「日本のECM市場では、『Microsoft SharePoint Server』が高いシェアを持っている。高価で高機能なECM製品とは異なり、Office文書の基本的な管理だけに機能が抑えられている点が、逆に日本企業にとってはファイルサーバーの延長線上で使える手軽さとして高く評価されているのだと思う。唯一、ワークフロー機能が弱い点が不評だったが、この点も最新バージョンでは改善されつつある」(生熊氏)
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