日本の風土にマッチしたECMとは?投資の優先順位が高いのに、実際には手が付けられない理由(2/2 ページ)

» 2014年03月27日 18時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]
前のページへ 1|2       

日本企業に特有の文化や習慣にマッチしたECM製品が好まれている

 ちなみにITRが行った調査によると、日本におけるECM市場で最も高いシェアを持っているのが前述のMicrosoft SharePoint Serverで、次点として「IBM FileNet」をはじめとするIBMのECM製品群が続く。この2社だけで約6割ものシェアを占めているが、ECM製品の草分けともいえるEMCの「Documentum」や、日本オラクルの「Oracle WebCenter」なども一定のシェアを持つ他、現在グローバル市場で急速に注目が高まりつつある「OpenText」も、徐々に日本における存在感を高めつつある。

 一方、国産ベンダーの手によるECM製品としては、日立製作所の「uCosminexus DocumentBroker」や、パナソニックの「CrossLead」、日立ソリューションズの「ラビニティ One」などが代表選手だ。こうした国産製品は海外製品にはない、日本企業特有の企業文化にきめ細かく対応した機能が特徴だ。

 「外資系ベンダーのECM製品は、個人を基点に機能が構成されている。まずは、ドキュメントのオーナーとなる個人をシステムに登録し、次に各個人が所属する組織を設定するという順番になる。しかし日本企業では個人の前にまずは組織が先に立つので、システムでも個人の前にまず組織の情報を設定できなくてはいけない。こうした点においては、やはり国産製品の方がきめ細かく対応している」

 ちなみにIBMのECM製品は、トップシェアのMicrosoft SharePoint Serverとは好対照といっていい特徴を持つ。SharePoint Serverが前述のように、あえて機能を基本的なものだけに絞ったことで好評を博したのに対して、IBMの製品は逆に特定の業界や業種に特化した豊富な機能をアプリケーションとして実装することで、ユーザーのニーズにきめ細かく対応している。

 「オラクルのECMソリューションも同様だが、ECMをベースとしつつ、その上に業界・業種に特化した機能を実装して、『ECM+アプリケーション』としてソリューションを提供することで、多くの企業に受け入れられている。逆に、ECMの機能のみを素で提供するような製品は、日本ではあまり受け入れられていない」(生熊氏)

 そのため、多くの外資系ベンダーが現在、自社のECM製品をECMとしてではなく、別の観点から訴求することに腐心しているという。

 「ECMは業務アプリケーションというよりは、業務のインフラを提供するミドルウェア製品。そのため、ドキュメントの管理や共有、検索といった、ECMの“素の機能”を訴求しても、ユーザーにはなかなか響かない。むしろ『エンドユーザーの業務において、具体的にどんな導入メリットがあるのか』という観点で訴求しないと、ECMはなかなか日本では根付かないと思う」(生熊氏)

ユーザーの具体的なニーズに即した製品が求められる

 そもそも、ECMが提唱する「全社レベルでのドキュメント共有」というお題目自体に、多くの日本企業が懐疑的になっているのではないかと生熊氏は指摘する。

 「管理会計のように、全社の経営状況を経営層が正確かつ迅速に把握するためには、確かに全社レベルで情報を集めてまとめ上げる必要がある。しかし現場が使う業務ドキュメントは、必ずしも全社で共有する価値があるとは限らない。むしろ、部門内で共有すれば十分事足りるケースが大部分なのではないか」

 そのため同氏は、ECMや文書管理のようなソリューションの導入を検討する際には、自社の具体的な課題やニーズに即したものを選ぶことが重要だと説く。

 「『とにかくドキュメントを電子化して一括管理すれば、何かいいことがあるのではないか?』といった漠然とした目標を置くだけでは、導入プロジェクトは大抵の場合失敗する。そうではなく、例えば『BCPを見直したい』『セキュリティを強化したい』『グローバル拠点との間で情報共有を促進したい』といったように、まずは導入目的をはっきりさせた後に、それを具現化するための手段として、ECMなり何なりのソリューションに落とし込むという順番を踏むべき。『まずECMのお題目ありき』では、恐らくこの先もECMが広く普及することはないだろう」

 このような現状を踏まえ、今後ECM市場が日本において拡大するとしたら、既存の業務アプリケーションを補完するような活用法があり得るだろうと同氏は予想する。

 「既にワークフローをある程度システム化しているものの、一部に人手と紙によるプロセスが残っているような場合、その部分をECMでシステム化することで得られる効果は十分期待できると思う。それによって業務プロセスの遂行にかかる時間を短縮できれば、浮いた時間をより戦略的な業務やサービス品質向上の取り組みに当てることができる。こうしたソリューションを裏で支えるインフラとして、今後ECMは重要性を増してくるのではないだろうか」

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。