SDNではOpenDaylightが今後も欠かせないINTEROP TOKYO 2014直前取材 「導入検討が進むSDN」

ネットワークを職人芸的な世界から、ユーザー中心の利用の世界に変える――SDNの導入が現実的な段階に入っている。SDNのオープンソースプロジェクト、「OpenDaylight」のメインプレーヤー、IBMはSDNの今をどのように捉えているのか、INTEROP 2014に先立ち、アイティメディア エグゼクティブエディター 三木泉が話を聞いた。

» 2014年06月05日 15時30分 公開
[三木泉@IT]

ネットワーク機能をサービスとして抽象化し、オンデマンドで提供

 「SDN(Software-Defined Network)のオープンソースプロジェクト、『OpenDaylight』はIBMのSDNに関する取り組みの主柱であり、その成果を積極的に使う製品やサービスを提供していくべきだ」と、日本アイ・ビー・エム システム製品事業部 x/Pureセールス事業部 ビジネス開発の牛尾愛誠氏は話す。

 その理由は、IBMが考えるSDNの意義にあるとする。SDNはネットワークを職人芸的な構築の世界から、ユーザー中心の利用の世界に変えるものだという。このため、コントローラーが重要な役割を果たすと考え、IBMはOpenDaylightプロジェクトを主導したのだという。

ALT 日本アイ・ビー・エム システム製品事業部 x/Pureセールス事業部 ビジネス開発の牛尾愛誠氏

 ネットワーク機能をサービスとして抽象化し、オンデマンドでユーザーに提供できなければならないならば、次のような仕組みの実現が不可欠だ。

 ネットワークの構成・設定を一括して把握し、これを論理的な資源として利用できなければならない。一方で、ユーザーニーズをIT的に反映するのはアプリケーション、あるいは「ワークロード」と呼ばれるもの。それぞれのワークロードに指定された要求を、自動的かつ瞬時にネットワークが受け止め、これを実現できなければならない。これには既存のワークロードの要求との調停が必要になる場合もある。また、いったんデプロイしたワークロードの要求が、いつ変化するかは予測できない。変化した場合でも、これにネットワークサービスが自動的に追随できなければならない。

 以上を実現するには、一方で、ネットワーク機能を果たす個々の機器あるいはソフトウェアとオープンあるいは標準化されたインターフェースで柔軟な連係が可能であり、他方で、それらから独立し、「与えられたネットワーク資源の最適な運用を追求しつつ、使用されている技術の詳細を抽象化してネットワークをサービスとして実現するための管理・制御ポイント」として、SDNコントローラーという存在が必須になる。

 現在SDNの主要技術とされるのはOpenFlowネットワークとオーバーレイネットワークだ。最近ではどちらかと言えばオーバーレイネットワークが注目されている。しかし、「オーバーレイネットワークは特に、ベンダーにより機能の実装レベルが異なったり、サーバー仮想化やクラウド運用プラットフォームとの連携で違いが出たりと、SDN製品間の分断が起きやすい状況にあり、ユーザー組織はどれを選べばいいか迷うとともに、いったん使い始めると後で他の製品に移行しにくい状況が生まれつつある」と牛尾氏は話す。

 今後は「OpenFlowネットワークとオーバーレイネットワークを併用するケースも増えてくるだろう」という。さらにSDNでは今後、上記の2つ以外の新たな技術が登場し、支持を広げる可能性もある。OpenDaylightのように、各SDN製品ベンダーの利害から独立し、広範なSDN関連技術をオープンな機能モジュールとして整備し、それらを要素技術として活用するコントローラーが求められるのは、ここに理由があると牛尾氏はいう。

「OpenFlowネットワークとオーバーレイネットワークは、どちらも導入され始めている」

 日本IBMは、OpenDaylightをベースとした「IBM Software Defined Network for Virtual Environments(SDN VE)」という製品を販売している。OpenFlowに対応した「OpenFlow Edition」と、オーバーレイネットワークに対応した「KVM Edition」「VMware Edition」がある。VMware EditionではVMware vCenterと統合でき、KVM EditionではNeutron API経由でOpenStackとの連携が可能。

 SDN VEは単純にオープンソースのソフトウェアを商用版としたものではない。外部とインターフェースするプロトコル処理の部分はOpenDaylightを全面採用している。例えば、OpenFlowをはじめとしたSouthboundプロトコルへの対応、Neutron APIを通じたOpenStack連携の部分などだ。一方で経路計算やパケットモニタリングなどのコア機能は、IBMが訴求する資源の最適化やネットワークのサービス化を実現するために独自に作り込んでいるという。

 KVM、VMwareが混在している環境で、この2種のハイパーバイザーにまたがるオーバーレイネットワークを実現でき、OpenFlowとも垂直、水平に統合可能という点が、SDN VEの大きな特徴だと牛尾氏は話す。

 日本IBMはSDN VEのVMware Editionをこれまで提供してきたが、2014年2月にOpenFlow EditionとKVM Editionを販売開始した。これまでのところ、オーバーレイネットワークで使いたいという引き合いが多いという。

 サービスプロバイダーは当たり前かのようにオーバーレイネットワークを検討するが、このところ目立つのは、「大規模企業グループのIT子会社がマルチテナントクラウドを構築し、グループ全体としてのIT運用コストを下げたい」という要望だという。日本アイ・ビー・エム x/Pureセールス事業部 ビジネス開発 システム・ネットワーキング製品担当 グループリーダーの星雅貴氏は、「2014年度末で検証を終え、本格導入に移る例が増えるだろう」と、話す。

 一方で、OpenFlowは一般企業において「セキュリティと絡めて使いたい」という具体的な話が増えてきたという。これまでアプリケーション単位で個々に行ってきたセキュリティ対策では不十分だとの認識から、ネットワークレベルできめ細かなセキュリティ対策を進めたいという声をよく聞くようになったという。

 いかに自社の目的、環境に最適な形でSDNを実現するか、2014年6月11日〜13日に開催されるINTEROP TOKYO 2014でも、日本IBMをはじめ多くの出展社からさまざまな回答が得られるのではないだろうか。

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