ブロケード コミュニケーションズ システムズは2014年6月26日、ソフトウェアルーター「Vyatta」に関する説明会を開催した。スケールアウト可能な形にVyattaを進化させていくという。
サーバーやストレージは仮想化技術などの活用によって、物理的に異なる場所に分散配置されていても、論理的に1つのリソースとして活用できるようになった。ならば同じように、異なる場所に分散したデータプレーンを論理的に1つのルーターとして扱えるのではないか――そんな構想を、ブロケード コミュニケーションズ システムズが進めている。
同社は2014年6月26日、ソフトウェアルーター「Vyatta」に関する説明会を開催し、スケールアウト可能な、つまり多数の仮想マシンが稼働するデータセンターに適した形にVyattaを進化させていく方針を明らかにした。
Vyattaは、元々は米Vyattaがオープンソースとして提供してきたソフトウェアルーターだ。2012年11月のVyatta買収に伴いブロケードの傘下に入り、「Brocade Vyatta vRouter」として提供されてきた。
2013年10月にリリースされた最新版の「Brocade Vyatta 5600 vRouter(Vyatta 5600)」では、より高速なパフォーマンスを実現するため、BGPなどのルーティング処理を行うコントロールプレーンと、パケットフォワーディング処理を行うデータプレーンを分離する新しいアーキテクチャを採用した。これにより、コア数の追加に比例して高いパフォーマンスを実現できるようになったという。
同社はさらに、このVyatta 5600をベースに、複数のデータプレーンを分散配置できる「Vyatta Distributed Router(VDR)」を2014年末から2015年をめどにリリースする計画で、鋭意開発を進めているという。「VDRによって、データセンターの中に1つの大きな仮想ルーターを作ることができる」と、米ブロケード コミュニケーションズ システムズ ソフトウェア・ネットワーキング開発担当CTO兼ソフトウェア・エンジニアリング担当シニアディレクター ロバート・ベイズ氏は述べた。
VDRのデータプレーンは、KVMなどのハイパーバイザー上、あるいはベアメタルのx86サーバー上で動作する。つまり、従来型のシャーシ型ルーターのラインカードが、データセンター内にある多数の仮想マシンやサーバーと同居するようなイメージだ。データプレーン間のトラフィックは、VXLANによってトンネリングされる(将来的にはMPLSもサポート予定だ)。
分散型アーキテクチャを採用する利点は主に2つある。1つは、仮想サーバーの追加、変更に応じて柔軟にネットワークを展開できることだ。仮想サーバー間の通信で起こりがちな「ヘアピン効果」を抑えることもできる。
Vyattaはもともと、OpenStackといったクラウド基盤構築ソフトウェアや、OpenDalightのようなSDNコントローラーとの連携を視野に入れている。「こうしたクラウドオーケストレーションソフトウェアでは、仮想マシンの起動や停止に伴うIPアドレスやVLANの割り当てといった基本的なネットワーク設定は行える。しかし、BGP/OSPFによるルーティング構成やファイアウォールのポリシーといった複雑なネットワーク設定まではできない」(米ブロケード コミュニケーションズ システムズ ソフトウェア・ネットワーキング・マーケティング担当ディレクター ジェームズ・クウォン氏)。VDRはこうした部分を、Rest APIやNETConfといったインターフェースを介してクラウドオーケストレーターと連携しながら実現するという。
もう1つは、ハードウェアの追加に応じて、高いパフォーマンスをマルチ10Gbpsクラスまでスケールアウトできることだ。Intel Data Plane Development Kit(DPDK)を活用して、コア数を追加すればするほど高い処理能力を実現する。逆にネットワーク負荷が低くなったときには、それまでVDRのデータプレーンに割り当てていたコアを、仮想サーバーなど別の処理に戻すといったことも可能だ。
「Intel CPUの性能はどんどん向上しており、それに応じてVDRの性能も向上していくだろう。おそらくいずれはPCI Expressバスがパフォーマンス上の天井になるのではないか」(ベイズ氏)。なお、VDRのコントロールプレーン1台でサポートできるデータプレーンは、開発中の現時点では数十台程度。これを500台規模にまで拡張していきたいという。
もちろん、VDRにも弱点はある。x86ベースのサーバーに数十、数百といったポートを集約させるのは非現実的だ。「従来のシャーシ型ルーターのメリットは、ポート密度や高いパフォーマンスだ。一方VDRは、柔軟でスケーラビリティがあり、しかも低コストといったメリットがある。これらをうまく組み合わせていくことが重要だ」(クウォン氏)。
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