下の図は、DSMの現行版「DSM−IV−TR」の「大うつ病エピソードの診断基準」です。「下記の9つの症状のうち5つ以上に当てはまり、それが2週間継続している状態」かつ、「1か2のうち、少なくともどちらかが2週間以上続いている」と、うつ病と診断されます。
「DSM-III」は、米国の医学教育での使用を義務付けられ、教科書にも記載されました。また、米国の権威ある医学雑誌がDSMを使用する論文の投稿を求めるようになり、医学研究の世界基準となりました。
DSMは1994年に第4版「DSMーIV」が発表され、非定型うつ病がうつ病の下位分類として導入されました。非定型うつ病とは、「楽しいことがあると気分が良くなる」「拒絶や批判に過剰に反応する」などの特徴を持つ、いわゆる「新型うつ」や「ディスチミア型うつ病」などと呼ばれているものです。非定型うつ病がうつ病の中に含まれることにより、うつ病の対象範囲が広がりました。なお、DSMは第5版が2013年5月に出版され、日本語版は2014年6月に出版されています。
日本の臨床現場に実際にDSMの影響が出たのは、保険病名をICD-10でコード化して出すようになった1990年代からです。世界保健機関WHOの診断基準「ICD(疾病および関連保険問題の国際統計分類)」は、1990年に発表された「ICD-10」から「DSM-III」スタイルを採用しています。
それまで日本では、ヨーロッパ流の「症状が発生した原因や経緯に着目する」方式を採っていましたが、このときに米国流の「現れている症状に着目する」方式に転換したのです。
簡単に言えば、うつ病と診断される範囲が広がり、軽症うつや、かつてはうつ病と診断されなかった人もうつ病(もしくはうつ状態)と診断され、医療機関を受診するようになったのです。
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