では、内面から「私にとって仕事とは○○です」「働くとは○○です」という答えを導くためには、どうすれば良いのでしょうか?
ここで、自分なりの「働く意味」を導く便利な問いを紹介しましょう。それば、「それによって、どうなるのか?」です。
例えば、現在の働く意味が「お金を得る」ならば、「お金を得ることによって、どうなるのか?」と考えてみます。「安心した生活ができる」などの答えになるでしょう。
続けて、「安心した生活ができることによって、どうなるのか?」と考えてみます。すると、「家族と幸せな暮らしができる」「本当にやりたいことができる」など、さまざまな答えが出てくるでしょう。
このように、「それ(手段)によって、どうなる(目的)のか?」という問いは、手段と目的を自然な形でひも付けてくれるため、手段に対する目的が見いだしやすくなります。また、「それ(原因)によって、どうなる(結果)のか?」のように、原因に対する結果を連想させます。
つまり、「それによって、どうなる?」「それによって、どうなる?」のように繰り返し考えていくと、「その先にある未来像」をロジカルに、ステップバイステップで見いだせるのです。
出てきた答えに対して、具体的に考えてみてもいいでしょう。「家族との幸せな暮らしって、どんな状態だろう?」「本当にやりたいことって何だろう?」のように。
さらに、具体的にした状況をイメージしながら、「家族との幸せな暮らしができたら、どうなる?」「本当にやりたいことができたら、どうなる?」のように続けると、「毎日が充実できる」のような言葉が出てくるでしょう。最終的には、「幸せ」「豊かさ」「愛情」「充実」「存在」「あるがまま」など、自分自身を示すような、比較的大きなキーワードにたどり着くはずです。
働く意味が、「お金を得るため」と、「毎日が充実し、家族を守り、本当にやりたいことをするため」では、心のありようが少し変わってきませんか? これはあくまでも一例です。自分なりの「働く意味」を見いだしてみてください。
エンジニアとしての「働く意味」を見いだすと、エンジニアとしてのプライドやセルフイメージを高めることにも役立ちます。なぜなら、自分のことを「私は○○のエンジニアだ」と自己認識できることで、エンジニアとしての自信へとつながっていくからです。
例えば、あなたはプログラマーだとしましょう。そこで、先ほどと同様、「それによって、どうなるのか?」を繰り返し考え、「働く意味」を見いだしてみましょう。
「プログラマーの仕事をすることによって、どうなるのか?」と考えてみると、「好きな仕事ができる」のようになるでしょう。続けて「好きな仕事をすることによって、どうなるのか?」を考えてみると、「お客さまが望んでいるソフトウェアを開発できる」のようになるかもしれません。続けて「お客さまが望んでいるソフトウェアを開発できたら、どうなるのか?」を考えてみると、「お客さまが満足する」「お客さまが笑顔になる」「お客さまがハッピーになる」……のようになるでしょう。
そうです。あなたは「単なるプログラマー」ではなく、「ソフトウェアの開発を通じて、お客さまが望んでいるサービスを提供し、お客さまを笑顔にするプログラマー」なのです。
「SEよりもプログラマーの評価が低い」「コンサルタントよりもSEの方が下に見られる」などと言われることがあります。確かにそういう実情もあるのかもしれません。一生懸命仕事をしているのに、今まで、理不尽な扱いを受けて嫌な思いをしたこともあったでしょう。
これからは、「まわりの目」から少し離れて、自分の中の、エンジニアとしてのセルフイメージを高めましょう。「単なるコンサルタント」「単なるSE」「単なるプログラマー」から、「私は○○のコンサルタント」「私は○○のSE」「私は○○のプログラマー」のように、自分なりのエンジニア像を持つのです。そして、自信を持って言いましょう。
「ソフトウェアの開発を通じて、お客さまが望んでいるサービスを提供し、お客さまを笑顔にするプログラマー」はあくまでも一例ですが、少なくとも、自分のことを「SEより下のプログラマー」と思っている人と、「お客さまを笑顔にするプログラマー」と思っている人とでは、仕事の仕方や行動が変わってくるでしょうし、周りからの評価もおのずと変わってくるでしょう。なぜなら「お客さまを笑顔にする」のが仕事なのですから。
「そんなの、プログラマーの仕事じゃない」と思うかもしれません。大切なのは「プログラマーの仕事が何か」ということではありません。「私は何者か」という自己認識、捉え方です。なぜなら、自分の捉え方が思考や行動を生み出すからです。
自分の中にはっきりとした「私のエンジニア像はこうだ」というイメージがあれば、「○○が上で、○○が下」のような、周りが作るエンジニアのイメージはあまり気にならなくなります。自信にもつながるでしょう。
今回は、「働く意味」を見いだす思考プロセスを紹介しました。仕事に自信を持ち、楽しく働くためにも、自分なりの「仕事とは?」「働くとは?」を見いだしてみてはいかがでしょうか。答えは人それぞれ、何度作り直してもOKです。
大切なのは、「なるほどね」で終わらせないことです。静かな場所に行って、コーヒーでも飲みながら、紙とペンを取り出して考えてみてください。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行うほか、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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