システムとビジネスの確立をリード。世界に向けて“日本取引所グループの差別化”を図ったエンジニアITでビジネスを変革。デジタル時代のテクノロジリーダーたち(1)(1/3 ページ)

IT活用の在り方が企業の収益・ブランドに直結するデジタル時代、エンジニアの役割はどのように変わっていくのだろうか? 本連載では、ITでビジネスをけん引する各業種のテクノロジリーダーたちを取材。デジタル時代のエンジニア像を追う。

» 2015年02月23日 19時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]

「経営に寄与するIT」を実現しているテクノロジリーダーたちの姿とは?

 テクノロジの進展により、ITとビジネスの距離が年々縮小し、IT活用の在り方がビジネスのパフォーマンスに直結する“デジタル時代”が本格化しつつある。こうした中、従来のIT活用はコスト削減をはじめ、省力化や守りの施策が中心であったが、収益に寄与する“攻めの活用”が今あらためて問われている。

 これに伴い、ITエンジニアの役割も変わりつつある。「ビジネスサイドが決めたものを求められたように作る」のではなく、「ビジネスに役立つもの、収益に寄与するもの」を進んで提案する、まさしくビジネスをけん引する役割が求められている。無論、そうした「あるべき論」はこれまでも語られてきたが、ここにきて、Webサービス系企業に限らず、製造、金融、流通などあらゆる業種で、そうした人材が実際に活躍する姿が目立ち始めているのだ。

 本連載では、テクノロジでビジネスを変える「デジタル時代のテクノロジリーダー」にインタビュー。各業種における企業の現状と課題に対し、エンジニアの立場からどのような提案を行い、どのようにプロジェクト、ひいてはビジネスをリードしているのか、その具体像を追う。これを通じて、長らく掛け声に終始してきた「ITで経営に寄与する」という言葉の意味を具体的に伝えていくことが狙いだ。

 第1回となる今回は、日本取引所グループ(JPX) 株式会社東京証券取引所 IT開発部 課長 箕輪郁雄氏にインタビュー。箕輪氏は、JPXのグループ企業である日本証券クリアリング機構が2011年から稼働させている「OTCデリバティブ清算システム」の開発プロジェクトをリード(開発当時は、東証システムサービスに所属)。日本経済の一端を担いながらも世界の取引所を競合とするシビアな環境の中で、JPXのリスク管理分野での差別化をけん引した人物だ。箕輪氏は、このプロジェクトをどう率いたのか、詳しく聞いた。

新しいビジネスモデルを作る

編集部 まず「OTCデリバティブ清算システム」とはどのようなシステムなのか、教えていただけますでしょうか。

ALT OTC清算システムプロジェクトマネージャー 箕輪郁雄氏

箕輪氏 OTCとは「Over The Counter」――「取引所を通さず、証券会社の店頭でデリバティブ商品を相対取引する」ことを指します。このOTCデリバティブ取引は銀行、証券会社などの金融機関が、トレーディングやリスクヘッジの一環として一般的に行っているものです。しかし取引所を通さず当事者同士だけで決済するOTCデリバティブ取引の場合、その取引額が大きいだけに、例えば相手側が破綻すると、その影響を受けて取引相手も破綻するといった連鎖破綻のリスクを内包しています。2008年のリーマンショックでもこれが大きな問題となりました。

 そこで取引の当事者らの間に中央清算機関(Central Counterparty、以下CCP)が入り、債務を引き受けたり、そのリスク額を計算したり、担保を積んでおくよう調整したりと、いわば当事者間のクッションとなることで、連鎖破綻を防止するのが「清算集中」という業務です。OTCデリバティブ清算システムとは、こうした清算業務を管理するためのシステムです。

編集部 取引所は日本経済の一つの軸となる存在です。こうしたシステムを構築することには、国策の一環という背景もあったのでしょうか?

箕輪氏 リーマンショックに端を発した世界金融危機を受けて、2009年9月に開催されたピッツバーグサミットで、金融危機で顕在化したリスクを回避するための制度改革が検討されました。これを受けて、「遅くとも2012年末までに、標準化された全てのOTCデリバティブ契約は、中央清算機関を通じて決済されるべきである」といった首脳声明が発表されました。

 日本国内でも2009年から議論が進められてきたことを受けて、2010年7月、JPXのグループ企業の中でCCP機能を担う日本証券クリアリング機構が、OTCデリバティブ清算システムの構築プロジェクトに着手し、2011年7月にローンチ、清算業務をスタートしたのです。2012年11月には、金商法により清算集中が義務付けられました。

編集部 リーマンショックでの連鎖破綻――いわば新しいリスク要因を回避するための、新しい制度、新しいシステムを、国内で初めて構築するプロジェクトを、箕輪さんはリードされたわけですね。

箕輪氏 はい。というのも、これはJPXにとって大きなビジネスチャンスでもあったのです。JPXには大きく4つの収入源があります。上場する際の手数料である「上場関係収入」、取引の参加者から得る「取引参加料金」、情報配信の手数料である「情報関係収入」、清算や決済の手数料である「証券決済関係収入」です。このうち前者二つは、上場企業数や取引数が経済の状況に大きく依存してしまうため、収入源の多様化を図るためにも清算分野にビジネスチャンスを見いだし「これまでなかった取り組みにチャレンジしよう」という流れが加速したわけです。

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