2015年3月9〜10日、ガートナーが主催した「エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャサミット 2015」にNTTコミュニケーションズが登壇し、WebRTC(Web Real Time Communication)が企業や社会に与えるインパクトについて解説した。
クラウドやソーシャル、モバイルなどの技術がコミュニケーションの在り方を大きく変えている。いつどこにいてもリアルタイム性が高いコミュニケーションが可能になり、ワークスタイルが大きく変わってきた。こうした変化は、テレビ会議システムやVoIPといった、いわゆる“リアルタイムコミュニケーション”の世界でも起こっている。そうした進化がエンゲージメントや収益向上にもたらす影響は大きい――
2015年3月9〜10日にガートナーが主催した「エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャサミット 2015」に、NTTコミュニケーションズ 技術開発部 Webコアテクニカルユニット 担当課長/Webアプリケーション エバンジェリストの小松健作氏が登壇。「WebRTC 〜キャリアビジネスへのインパクトを探る〜」と題する講演を行った。小松氏によると、コミュニケーションやワークスタイルの変化を象徴する技術が「WebRTC」だという。
周知の通り、WebRTCは「Web Real Time Communication」のこと。Webでリアルタイム通信を行うための技術であり、簡単に言えば「ブラウザーでテレビ会議サービスを簡単に作れるようになる」(小松氏)というものだ。
映像配信のためのサーバーや、テレビ電話を行うためのアドオン/プラグインなどのインストールは不要だ。APIやオープンソースとして提供されているライブラリを用いれば、無料でこうした電話サービスを開発することができる。Webの技術であるためサービスの拡張や展開も容易で、メンテナンスコストを抑えることもできる。
小松氏はこうしたWebRTCについて、「最も大きいビジネスインパクトはコストです。テレビ会議サービスが安価に作れるようになるため、さまざまな分野への応用が期待されています」と強調する。
適用シーンとしては、例えばコンタクトセンターでのカスタマーサービスがある。WebRTCは、機能として、音声通話、テキストでのチャット、ビデオ通話を提供できる。つまりWebRTCを活用すれば、コンタクトセンター業務で頻繁に用いられるこうした機能が無料で利用できるため、複雑なシステムを導入は必要なくなる。
また、WebRTCはリモートワークへの適用も容易だ。コミュニケーション&コラボレーションの基盤構築に向けて、モバイルデバイスの管理や、BYODへの対応、VPNの整備といった取り組みは不要となる。
この他にも、教育機関や社内教育向けのフェーストゥフェースでのオンライン教育プログラム、医療機関での遠隔医療サポート、ワントゥワンのビデオ会議を使ったコンシェルジュシステムなどへの適用が期待されている。
WebRTCの事例もすでに登場している。小松氏は、アマゾンとクレジットカードのアメリカン・エキスプレス(AMEX)のユースケースを紹介した。まずアマゾンでは、「Kindle Fire HD」などのスマートデバイスを使ってAmazon.com上で買い物をしようする顧客向けに、ビデオ通話を使ったサポートサービス「Amazon Mayday」を展開している。サイトに設置されたMaydayボタンをクリックすると、顧客はアマゾンの担当者の顔を見ながら、操作方法や買い物のサポートを受けることができる。
一方のアマゾン側からは顧客の顔は見えず、画面だけが見える仕組みになっており、プライバシーを配慮しつつ、ユーザー体験を向上させている。また、AMEXでも、サイトを訪れるユーザー向けに同様の取り組みを行っている。こちらは限定されたエグゼクティブ会員向けサービスとして提供するなど付加価値を付けているのが特徴だという。
メリットは「サービスを安く作れる」というコスト面ばかりではない。小松氏は、「WebRTCを考える上で大きなポイントになるのは、新たなサービスの構築につながる点にある」と強調する。
「Webの進化とは“既存サービスの再構築”です。例えば、Ajax技術を使ってそれまでの地図アプリを進化させたGoogle Maps、ソーシャルによるチャットアプリを進化させたFacebookが挙げられます。WebRTCを考えるときも同様です。これを構成する技術自体はこれまでもあったものですが、個別の技術をうまく組み合わせることで進化してきました。WebRTCは、Google MapsやFacebookと同じようなインパクトをもたらすものです」(小松氏)
小松氏によると、WebRTCの登場は、テレビ会議サービスの価格破壊へとつながっていく。そうなると、今度はさまざまな機能やサービスが登場し、新しいサービスの創造や社会問題の解決に向けた取り組みに発展していくという。
例えばコンタクトセンターのケースでは、顧客自身がサポートセンターのスタッフを指名したり、故障箇所や不明箇所を顧客側からビデオで送信したりといった“コミュニケーションの発展”が、より低コストで手軽に実現可能となる。問い合わせ時のユーザー体験は向上し、サボート時間の短縮といった効果も得られる。
また、テレプレゼンスのケースでは、社会問題の解決につなげようとする取り組みがある。これは、実際に米国ミズーリ州カンザス市の幼稚園で、病気などで登校できない幼児に対する教育支援として行われているものだ。幼児は移動式のロボットと据え付けられたタブレットを使って、友達や先生と話したり、教育を受けたりすることができるようになっている。小松氏は、講演で実際にロボットを操作するデモを披露し、こうしたロボットとタブレットを使ったシステムを簡単に作れ、誰でも利用できることを紹介した。
このようにリアルタイムコミュニケーションが低価格化し、それを活用したサービス開発の競争が激化する中、NTTコミュニケーションズはWebRTCに積極的に関わっている。「SkyWay」と呼ばれる開発フレームワークを提供する他、各種ユースケースの提案、WebRTC技術やビジネスの啓蒙などといった取り組みを積極的に行っているという。小松氏は「WebRTCによる新しいサービスの開発、提供を支援していきたい」と重ねて強調した。
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