旭硝子は、2015年以降に構築する全ての基幹システムについて、AWSを構築先の第一候補として考えるという。他の業務システムについても、更改のタイミングで、AWSへの移行を進めていく。同社が2015年4月7日に実施した説明に基づき、これを紹介する。
旭硝子は、基幹システムを、順次Amazon Web Services(以下、AWS)に移行する考えだ。同社が2015年4月7日に実施した説明によると、2015年以降に構築する全ての基幹システムについて、AWSを構築先の第一候補として考えることに決めたという。他の業務システムも、更改のタイミングで、AWSへの移行を進めていく。
今回の決定をしたのはAGC旭硝子グループの日本とアジアにおけるIT全体を統括している、旭硝子 情報システムセンター(以下、旭硝子)。ガラス、化学、電子といったカンパニーの情報システムを横断的にカバーしている。北米と欧州には別のIT担当組織がある。
AWSの利用を考えるきっかけとなったのは2014年3月。同社は以前から、メインフレーム上で動かしてきた複数の基幹システムを、オープンシステムに移行するプロジェクトを進めてきたが、最後に残った1システムの移行を開始するときだった。SAPを導入することは決まっていたが、3月の時点では、オンプレミスで運用することしか考えていなかったという。
だが、オンプレミスで運用すると、通常は5年単位でハードウエア更改をしなければならず、その費用や手間が大きな負担であることは認識していた。また、BCP(事業継続)対策を講じなければならないものの、コストが大きすぎて、実現できないという問題もあった。
そうしたときにSAPをAWSに移行した国内ユーザー企業の話を聞き、クラウドサービスという選択肢を真剣に検討するようになったという。SAPでクラウドを採用するなら、オープン化のための開発を進めつつあるこのタイミングを逃すわけにもいかなかった。
そこで急きょ、クラウドサービスの情報収集を開始したが、「従来型の静的な業務システムが中心であり、システム構築は外注に依存している自社にとって、クラウドは本当に向いているのか」と考えたという。
「当社はクラウドを自分たちで使いこなせる、『クール』な企業ではない」(旭硝子 情報システムセンター グローバルIT企画グループ主席 浅沼勉氏)。だが、検討の結果、コストが削減できることを前提として、次の3つの点で大きなメリットがあるという結論に達した。
「テープによるバックアップだと、災害が起こったときにはテープ装置も壊れているはず。新たに装置を調達してテープからデータを戻すには、1カ月ぐらいかかるのではないか。これで災害対策として有効なのだろうか」(浅沼氏)。かといって、本格的なDR対策は莫大な費用が掛かるためコストを正当化できない。一方でAWSのようなクラウドサービスでは、事実上複数カ所のデータセンターを即座に立ち上げることが可能であり、これに掛かる費用は非常に低い。
「ハードウエアのバージョンアップに果たして意味があるのか。例えば、ほぼ1年を費やして社内の電子メールシステムをバージョンアップしたが、社内ユーザーは誰もうれしいと思わない」(浅沼氏)。情報システム担当部署がハードウエアのバージョンアップに追われることに、疑問を感じるようになったという。
企業グループ全体としてのIT統制は、旭硝子にとっても重要なテーマだが、グループ企業にポリシーを押し付けても、実効性のある統制ができない。プロセスを伴う取り組みが必要だ。そのためには、クラウドサービスを基盤として採用することが有効だと考えたという。
では、クラウドサービスの中でもなぜAWSを選択したのか。情報システムセンター グローバルIT企画グループ プロフェッショナルの三堀眞美氏は、「グローバルなクラウドサービスはまずコスト面で有利だった」と話す。コンプライアンス面から、国内データセンターは必須だと考えていたが、検討当時に国内データセンターがあり、実績を積んでいたIaaSはAWSのみだった。
他の要素も決め手になった。まず、ユーザー会が充実しており、情報交換が活発に行われている。ノウハウや課題が共有されていて、ユーザーの声も大きいため、採用リスクも軽減できる。「万が一(AWSが)潰れたとしても、これだけのユーザーがいれば何とかなるという安心感がある」(三堀氏)。
また、継続的に技術革新を進めている事業者であり、SAPの稼働実績も豊富で、セキュリティに関する対応も充実しているという点を、旭硝子は評価した。
そうはいっても、セキュリティやコンプライアンスを中心に、「法律上の問題はないのか」「セキュリティリスクはどうなのか」「既存の社内内部統制との整合性はとれるのか」「その他の社内統制との整合性はどうなのか」といったネガティブな側面を潰す必要があったという。
法律上の問題については、自社の視点から細かく検討した。
まずデータを人事・製造・会計といったカテゴリに分け、それぞれに関わる問題を検討。その結果、データの管理が問題であり、場所については日本であれば、問題とはならないと判断した。SOX法への対応では、AWSからの監査レポートを監査法人に提示できることは、旭硝子としても重要だったという。
セキュリティコントロールマトリックスについては、「従来のオンプレミスと同じコントロール」「従来と同じだがコントロールはアマゾンに移る」「従来と同じコントロールはできない」の3つに分類。「従来と同じコントロールができない項目はない」ということを確認した。
AWSの利用で、大幅にコストが下がったと話すユーザー企業は多い。だが、旭硝子では、確実にコストが下がるものだけを考えて、オンプレミスとの比較を行ったという。その結果、ソフトウエアの開発や年間運用費では実質的に違いがなく、開発コスト関連の削減効果も数字では出せなかったため、純粋にハードウエアコストの差異ということになった。結論は5年で考えると、ハードウエアコストの20%を削減できるということになり、コスト削減という観点からは、あまり大きなものとはいえないことが分かったという。
だが、BCPを別の方法で行ったと仮定した場合の機材や管理維持費、将来的に社内データセンターを縮退、あるいは商用データセンターに移行した場合の費用、5年単位で発生するハードウエアの更改作業コストは、大きく減らせる可能性があるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.