一つはオープン性だという。
「富士通独自ではなく、オープンソースベースでクラウドをつくる必要がある。オープンソースのクラウド基盤を検討し、オートスケール、ディザスタリカバリ(Disaster Recovery)などの機能をプラットフォームレベルで提供していくことを踏まえて、OpenStackを選択した。また、OpenStackにはまだ大規模に使われている実績がないため、あえてチャレンジした」と杜若氏は説明する。
もう一つは富士通の経験やリソースを生かせることにあるという。
「富士通は、OpenStackに関しては後発だが、オープンソースという観点では、Linux上で数々の大規模システムを開発してきた経験がある、また、オープンソースコミュニティ全般や、オープンソースをベースにした製品を提供するレッドハットなどのベンダーとの関係を築いてきた。だからこそできる」(杜若氏)
では、富士通は「家畜かペットか」の問題についてどう考えているのだろうか。OpenStackを推進する人々の、ほぼ一致した考え方は、「例えばVMware vSphereがインフラ側の機能により、アプリケーションをペットのように手厚く保護するのに対し、OpenStackでは(農場で家畜を育てるように)拡張性の高い、柔軟なインフラの提供を目指しており、可用性などはアプリケーション側に任せるのが原点だ」というものだ。
これについて聞くと、杜若氏は次のように答えた。
「(家畜かペットかという観点での、)OpenStackの原点は変わるわけではない。そのことを理解した上で、富士通は、OpenStackを基幹系の業務も載せられるようなプラットフォームにしていくことに挑戦する。可用性については、さまざまな方法論が出てきている。OpenStackの中にも、こうした要素の一部を入れて、可用性を担保していかなければならない」
もし、それが本当に実現できるなら、OpenStackのユースケースが大きく広がることになるのではないか。
「そう考えている。現在のところ、OpenStackは、まだ学術系などが利用の中心で、商用段階に達したとは言い切れない。商用にしていくためにも、われわれが一番先に風呂に入り、やけどなどいろいろなことを経験しながら、OpenStackの上でどういう風に業務システムを組むとよいかをはっきりさせていく。足りない機能はわれわれが追加する。使い方や移行のノウハウも提供できるようになる。これが、2月の発表の意味だ」(杜若氏)
このOpenStackベースの次世代クラウド環境開発には現在、富士通のさまざまな事業部、そしてIT戦略本部出身の約100人のエンジニアが、直接携わっているという。纐纈氏によると、これまではIaaSレベルのエンジニアが中心だったが、今後はPaaS関連の開発者も増員する。最終的に、このプロジェクトにコアデベロッパーとして関与するのは数百人になるという。富士通のサーバー、ストレージ、ネットワークといったITインフラ製品の開発者の一部も、当然ながらこのプロジェクトに加わっていくことになる。
加えて、各種アプリケーションを、このプラットフォームに載せるための開発作業がある。
「富士通が提供してきた汎用パッケージアプリケーションの他、業種パッケージ、金融プラットフォームなども、次世代クラウド環境で動くようにしていかなければならない。これに関わる人は少なくとも数千人であり、1万人規模に近付く」(纐纈氏)
さらに、次世代クラウド基盤は、ビッグデータ、モバイル、IoTなどの基盤になっていき、全社的な広がりを見せることになる。「全社のリソースが集まって、顧客のさまざまなニーズに応えられるソリューションを開発していきたい」と纐纈氏は話す。
富士通が2015年度中に提供開始するのは、IaaS機能に、PaaS的な機能を一部付加したパブリッククラウドサービス。ハイパーバイザーにXenを使い、富士通が独自開発したコントローラーで制御するパブリッククラウドサービス「FUJITSU Cloud IaaS Trusted Public S5」と、基本的な機能は同じだ。
だが、「S5がなくなるわけではない」と杜若氏は説明する。インターネットサービスのための、3階層モデルのアプリケーションには便利だからだという。一方、OpenStackベースの新サービスは、業務システムのための、各種のミドルウエアや運用機能を備えたサービスという位置付けになる。
富士通は加えて、Microsoft Azureをベースとした「FUJITSU Cloud A5 for Microsoft Azure」、プライベートクラウド・ソリューション、さらにはAmazon Web Servicesを含めたインテグレーションを提供していくという。
「顧客は、どれでも使えるようになるし、相互接続やプライベートクラウドとのハイブリッド構成もできるようになっていく。米アマゾンは、自社が活用している技術を、単一のクラウドサービスとして提供しているが、当社の場合はいろいろな選択肢を、全てにおいて使い込んだうえで、提供していく」と杜若氏は述べている。
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