本イベントの基調講演、ユーザー事例講演では、二つの組織での、異なったフラッシュストレージ活用の実例を聞くことができた。話題は実データを使った評価の過程や今後の課題、システム全体の運用指針などにもおよび、実務の参考になる情報も得られた。
基調講演では、日本取引所グループ 東京証券取引所 IT開発部 OTC清算システム 課長 箕輪郁雄氏が登壇し、「OTCデリバティブ清算システムはいかにして高速化を実現したか」と題した講演を行った。
2008年に発生したいわゆる「リーマンショック」による世界的な金融不安の発生を機に、特定の金融機関の破たんが他に波及することを極力防ぐとともに、コンプライアンスをより効かせることを目的に、金融機関同士のデリバティブ取引の清算を集中化する方針がグローバルで確立された。これを担うのがOTCデリバティブ清算システムである。日本国内では、中立機関「日本証券クリアリング機構」がこれを一括して構築・運用している。箕輪氏はこの日本証券クリアリング機構が構築した「OTCデリバティブ清算システム」の立ち上げから運用に携わっている。
同システムは極めて大量のデータベーストランザクションを短時間で処理することが求められたが、レコード数増加に伴う性能劣化に悩まされていたという。そこで、データベース基盤を「IBM FlashSystem」にリプレースしたところ、I/O負荷の高いバッチ処理の性能は6〜10倍にまで向上し、将来予想されるレコード増やトランザクション増にも十分耐えられる見込みがついたという。
箕輪氏の活動および「OTCデリバティブ清算システム」の詳細は別稿でも紹介しているので、参照してほしい。
事例セッションでは、ヤフー システム統括本部 サイトオペレーション本部 インフラ技術1部の渡邉貴志氏と西園寺匠氏による「Yahoo! JAPANのDBを支えるインフラ技術」と題したプレゼンテーションが行われた。
ヤフーでは、社内で運用するサーバーを「標準機」と「非標準機」に分けて管理しており、前者は長らくHDDを搭載した構成を採っていた。
しかし、CPUの高速化に伴いディスクI/Oのボトルネックが目立ってきたため、数年前よりPCI-SSDを部分的に導入してきた。結果、極めて高いI/O性能を得ることができ、パフォーマンスは大幅に向上した。一方で、運用面ではドライバーのバージョン管理をはじめ、まだまだ課題を抱えているという。
同社では今後もさらにPCI-SSDの検証と導入を進めていくとしており、特に今後増えてくるであろうNVMe規格対応の製品に関しては、性能のみならず現在抱えている運用の課題も解決してくれる可能性があるものとして、大いに期待しているという。
本稿では、@IT編集部主催「第二回DB高速化道場」のセッションをダイジェストで紹介してきた。今回のイベントのポイントは二つある。一つは、基調講演の箕輪氏のセッションにあるように、ストレージを置き換えるだけでバッチ処理などの「重たい」処理の高速化が期待できること。もう一つは、現在主流であるリレーショナルデータベースマネジメントシステムの各機能と組み合わせた際の技術検証が、各ベンダー、ユーザー企業の中で着々と進んでいることだ。
各社製品と組み合わせた場合のDBパフォーマンス評価については、先行導入企業と共に各ストレージベンダーがナレッジを蓄積しつつある。このため、検討企業向けのデータシートやベストプラクティス資料も充実しつつあり、ユーザー企業がデータベースソフトウエアの更新と合わせてハードウエア刷新を検討する際の資料が出そろってきている印象だ。
本イベントでは、ストレージI/Oのボトルネックを改善したユーザー企業が、次のステップとしてCPU待ちによる遅延を解消しようと動き出しているという話も聞けた。プロセスの並列化などによるCPU効率向上が、次のDB高速化のカギを握っているようだ。
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