レッドハットが発表したOpenShift Enterprise 3は「Dockerを知らなくても使える」基盤PaaS最新事情

レッドハットが2015年7月22日に国内発表したPaaS製品「OpenShift Enterprise 3」の最大の狙いは、Dockerを知らなくてもアプリケーションの開発・運用ができるようにすることだという。ここでは、レッドハットの日本法人の説明に基づき、OpenShift Enterprise 3を紹介する。

» 2015年08月18日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 レッドハットは2015年7月22日に、同社のPaaS製品「OpenShift Enterprise 3」の国内提供開始を発表した。OpenShift 3/OpenShift Enterprise 3は、Dockerをネイティブでサポートし、さらにコンテナー・オーケストレーションのためにKubernetesを採用している。以下では、レッドハットの日本法人の説明に基づき、OpenShift Enterprise 3を紹介する。

 レッドハットはPaaS基盤開発のオープンソースプロジェクトOpenShift Originを運営しているが、OpenShift Enterpriseは、このプロジェクトで開発されるOpenShiftの商用版という位置付けになっている。また、レッドハットはOpenShift Commonsという、顧客や関連製品/サービスベンダーを対象としたコミュニティを運営している。OpenShift Commonsでは、参加者が製品に関する意見を述べ、情報交換が行えるという。

「Dockerのことを考えなくても使える」

 OpenShift Enterprise 3は、「Dockerを詳しく学ばなくてもDockerを使える」プラットフォームだというのが売りになっている。まず、Dockerをネイティブにサポートしている。つまり、Dockerイメージをそのままの形で取り込み、可搬性を維持した形で扱える。その上で、「Docker利用に関わる各種の設定やDocker環境自体の運用管理に労力を割くことなく、アプリケーションの開発や運用ができる」と、レッドハットは強調している。

OpenShiftは、DockerとKubernetesに基づくPaaS基盤

 OpenShift Enterprise 3では、開発、本番、運用、更新という、アプリケーションライフサイクルの四つの段階全てで、Dockerが使いやすくなっている。つまり、Dockerを活用した開発の仕方、本番に持って行くための手法、トラブルが起こったときの対処、アプリケーションのバージョンを上げていく手順などの習得に時間を割かなくて済むという。具体的には次のようなことを意味している。

開発

 開発に関わる部分では、「Dockerを知らなくても、Dockerアプリケーションを開発できる」という。

 まず、典型的なアプリケーションの構成に基づいて、57種類のテンプレートを提供している。開発者はセルフサービスで、OpenShift EnterpriseのWebコンソールから、Python+MySQLなどの構成のテンプレートを選択して利用することで、アプリケーションを迅速に構築できるという。テンプレートとしては、例えばPHP、Ruby、Node.js、Pythonといった開発言語とMySQL、PostgreSQL、MongoDBといったデータベースの組み合わせ、JBoss Application Serverとこれらデータベースの組み合わせ、Tomcatとこれらデータベースの組み合わせがある。

 また、「Source to Image」という機能では、アプリケーションのソースコードからDockerイメージを作成するプロセスを自動化できる。さらに、統合開発環境(IDE)連携、継続的インテグレーション/継続的デリバリ(CI/CD)とも連携する。

本番移行

 OpenShift Enterprise 3では、開発からテスト、ステージング、本番に至る環境の切り替えに、「Blue-Green Deployment」の手法を容易に取り入れられるという。つまり、ルーターやロードバランサーを用い、2つの環境の間での切り替えを行うというやり方だ。デプロイしたシステムを戻すには、コマンド1つでロールバックができる。

 このプロセス全体を通じ、ネットワークの設定についても、意識する必要はない。

運用

 運用では、Kubernetesのスケジューラーにより、Dockerアプリケーションの起動・停止ができる。障害発生時には、複製を用い、ルーティングによって自動復旧ができる。ただし、オートスケール機能については、年内にリリースする3.1で提供するという。

 OpenShift Enterprise 3は、基本的なモニタリング機能も備えている。高度な監視機能は、レッドハットの運用管理ツール「Red Hat Cloud Forms」で提供する予定だ。

更新

 更新に関しては、Dockerイメージのリポジトリを提供。これによってバージョン管理もできる。このリポジトリではタグ付けができ、本番に使ったイメージを識別するなどが可能になる。

 このリポジトリで管理しているDockerイメージについては、これに含まれるOSコンポーネントやミドルウエアへのパッチ当てと再ビルドもでき、1コマンドでの差し替えができるという。

企業のクラウドネイティブアプリケーション開発を支援

 レッドハットによると、OpenShift Enterprise 3のテーマは、「Dockerをどう企業に浸透させるか」だ。

 IT関連企業および一般企業の間で、PaaSを活用する開発体制の構築を検討する動きが見られるようになってきた。レッドハット プロダクト・ソリューション事業統括本部 ミドルウェア事業部 事業部長の岡下浩明氏によると、「まだ、お勉強モードのところがほとんど」。だが、例えばIoT(Internet of Things)関連では、柔軟性、迅速性、拡張性を備えたアプリケーションの開発・運用基盤が必要という認識は広まりつつある。

 一方で「Docker」というキーワードが広まってきた。レッドハットの考えは、これが多くの企業において、「新しいアプリケーション開発・運用手法」を促進する役割を果たすということだ。とはいえ、Dockerを使い始めた人は、逆に「どうやってこの環境を運用すべきか」と悩むことになる。こうした悩みを軽くするのが、OpenShift Enterprise 3だ。

他社を巻き込んでコンテナアプリエコシステムを提供

 レッドハットは一方で、企業が新しいアプリケーションを構築するためのミドルウエアを、この基盤で使えるように提供していく。

 OpenShift Enterprise 3では永続ストレージに対応していて、Red Hat Gluster Storageなどが使えることになる。また、アプリケーションではJBoss Application Serverで、Java EEを使った企業アプリケーションに対応する。

 狭義のミドルウエアに関していえば、IoTでJBoss A-MQが注目されるようになるだろうとのこと。レッドハットは他にも多数のミドルウエアを提供しているが、これらを順次コンテナー化あるいはコンテナー対応することで、利用を促進したい考えだ。

 またモバイルアプリの開発では、FeedHenryのモバイルアプリ開発ツールと、OpenShift Enterprise 3などを組み合わせた、「Red Hat Mobile Application Platform」を米国で発表済みだ。日本国内では、年内に提供開始する予定。

 さらにレッドハットは、他社を巻き込んで、Dockerアプリケーションのエコシステムを確立しようとしている。Docker Hub的な機能を果たすもう一つの選択肢として、レッドハット認定のDockerアプリケーションをリストしたApple Store的なサービスを展開。こうした仕組みを通じて、特にパッケージソフトウエアのクラウド化の手段として、Dockerの利用を推進することを狙っている。

 OpenShift Enterprise 3は企業の社内に導入するソフトウエアだが、同製品を運用するのはいやだという人々に向け、レッドハットは「OpenShift Dedicated」を発表している。これは、ユーザー企業でOpenShift Enterprise 3を導入するものの、運用はレッドハット側が代行するというもの。数カ月後にグローバルで提供を開始し、日本国内でも提供する(時期は未定)予定だ。

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