IBM研究所、動的なパターンを学習できる人工ニューラルネットワークモデルを開発――自動車事故の予測や、作曲、文章校正にも応用できる可能性より生物に近い機械学習の実現を目指し

IBM東京基礎研究所は2015年9月16日、従来の人工ニューラルネットワークをさらに発展させ、より生物に近い学習を実現するためのモデル「動的ボルツマンマシン(DyBM)」を開発したと発表した。

» 2015年09月17日 18時22分 公開
[@IT]

 IBM東京基礎研究所 恐神貴行氏らのチームは2015年9月16日、生物の脳における学習の仕組みを摸した人工ニューラルネットワークをさらに発展させ、より生物に近い学習を実現するためのモデル「動的ボルツマンマシン(DyBM)」を開発したと発表した。

 従来の人工ニューラルネットワーク研究では、1949年にカナダの心理学者ドナルド・ヘッブ氏が提唱したニューロン同士の結合メカニズムに関する「ヘブ則」と呼ばれる法則と、それを基にジェフリー・ヒントン氏らが1985年に開発した「ボルツマンマシン」などの人工ニューラルネットワークモデルが基礎となってきた。

 しかし、ヘブ則は静的な状態でのニューロン結合を想定しているため、ボルツマンマシンにおいても、動的に変化するパターンの学習には対応することができなかった。

 近年では、実際の生物の学習においてはニューロンの活動のタイミングなど、時間的な要素が影響を及ぼすという見方が強くなっており、ヘブ則に時間的な要素を付加してより精緻化した「スパイク時間依存シナプス可塑性(SPTD:Spike-Timing-Dependent synaptic Plasticity)」と呼ばれる理論が提唱されていた。

 DyBMは、このSPTDの応用を目的として開発された人工ニューラルネットワークモデルであり、コンピューター上で、SPTDに基づいた機械学習を再現することができる。

 恐神氏らは、DyBMの複数のニューロンに、ビットの行列で構成された文字列などのパターンをシーケンシャルに学習させ、その後、イメージ全体の再現や補完などを行わせる検証を実施した。例えば、「SCIENCE」という文字列パターンの学習では、縦7ビット×横35ビットからなるパターンの各行に対応する7個のニューロンに、1列ずつビットパターンを繰り返し学習させたところ、13万回の訓練で文字列全体が再現されたという。

図1 DyBMによる学習の例。13万回の訓練を行った結果、「SCIENCE」という文字列が正しく再現された

 また、「SCIENCE」の学習後に、あえて誤りを含む文字列を与えたところ、つづりの間違いを検知する結果も得られた。

図2 パターンの誤りを検知するDyBM。上部の棒グラフは、例外スコアが高いことを示す

 さらに同チームでは、複数のパターンを同時に記憶させたり、音楽を学習させたりすることにも成功しており、将来的にDyBMは、自動車事故の予測や、作曲、文章校正などにも応用できる可能性があるとしている。本研究に関する論文はNatureが発行するオンライン誌「Scientific Reports」にも掲載されている(詳細は関連リンクを参照)。

動画が取得できませんでした
DyBMが学習した「山の音楽家」。90万回の訓練の結果、譜面の再現に成功した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。