インターネット向けのコンテンツDNSサーバーの運用では、ゾーン転送や複数のサーバーの管理など面倒なことが多い。そこでクラウドベースのDNSサービス「Google Cloud DNS」に移行したら管理が楽になったという筆者の実体験を紹介する。
インターネットに公開しているWebサーバーやメールサーバーに割り当てられているホスト名(FQDN)は、インターネット向けの「コンテンツDNSサーバー(権威DNSサーバー)」によって名前解決が行われる。つまりインターネット上に何らかのサービスを提供しているなら、コンテンツDNSサーバーの管理も付いて回ってくる。その管理・運用担当者を対象に、クラウドベースのDNSサービスの一つ「Google Cloud DNS」*1を例に挙げて、従来と比べたメリット/デメリットを明らかにしたい。
*1 ちなみに、比較的よく知られている「Google Public DNS」は「キャッシュDNSサーバー」を提供する全く別のサービスである。
コンテンツDNSサーバーでは通常、複数のDNSサーバーを別々の拠点に配置する。その理由の一つは耐障害性を確保するためで、ある拠点のDNSサーバーが止まっても、別の拠点のDNSサーバーが引き続き名前解決サービスを提供できるからだ。またDNSサーバーの台数を増やすのは、DNSキャッシュポイズニング対策という狙いもある。
そのために、(データセンターを含む)自社管理下の設備に構築したDNSサーバー(以下「自社管理のDNSサーバー」)や、レンタルサーバー事業者あるいはISPが提供しているDNSサービス(以下「非クラウド系DNSサービス」)など、複数の種類のDNSサーバー/サービスを併用することが多い。
筆者も社外に公開しているWebサイトやメールサーバーのために、自社管理のISC BINDベースのDNSサーバーと非クラウド系DNSサービスを約7年間併用していた。そこで感じた問題点を簡単に記す。
非クラウド系DNSサービスは、事業者あるいはサービスが異なると管理UIも異なる。また自社管理のDNSサーバーも、ISC BINDやNSDといったソフトウエアによって設定方法は異なる。そのため、それぞれに設定ファイルあるいは設定手順書などを用意せねばならず、手間がかかり、効率的とは言えない。
自社管理のDNSサーバーの場合、DNSサーバーソフトウエアからOS、物理マシンあるいは仮想化基盤など、自社の都合に合わせて選択する自由がある。そのため、要件に合わせてきめ細かく対応しやすいというメリットがある。
その半面、DNSサーバーソフトウエアの更新から、OSのパッチ適用、マシンのハードウエアのメンテナンスなどなど、多くの保守作業を管理者自身が請け負わなければならない。
自社設備内にDNSサーバーを設置した場合、例えばその建物の電気設備の定期点検によって数十分〜数時間の停電が生じる。自家発電でも用意していない限り、いずれのサーバーも停止せねばならず、稼働率は下がってしまう。
非クラウド系DNSサービスの場合、保守は事業者が請け負うので管理者の手を煩わせることはない。稼働率も自社内設備よりは高いことが期待できる。
その一方で、レンタルサーバー事業者/ISPが提供するDNSサービスは自由度が低く、制限が付きまといがちだ。筆者が経験した制限を以下に記す。
筆者の場合、こうした制限から用途に応じて複数のDNSサーバーを使い分けざるを得ず、それがまた管理上の手間を増やす悪循環に陥っていた。
こうした状況を打開すべく、筆者は管理下の全DNSサーバー/サービスをクラウドベースのDNSサービスに移行した。ここでいう「クラウドベース」とは、クラウドプラットフォーム上にあらかじめ構築されたSaaS(もちろんマネージドサービス)という意味だ。具体例としては、次のサービスが挙げられる。
これらは総合的なクラウドサービスにおける多種多様なメニューの一つである。ただし、その汎用性は高く、ラインアップされた他のメニューを併用することなく単体で利用できるし、他社のリソースに対しても名前解決を提供できる。
筆者が主に使っているのはGoogle Cloud DNSで、一部でAWS Route 53も利用している。そこで本稿ではGoogle Cloud DNSを例として、クラウドベースだとオンプレミスのDNSサーバーやレンタルサーバー事業者/ISPのDNSサービスと何が違うのか、またメリット/デメリットは何か、といったことを紹介したい。
Google Cloud DNSを使い始めるには、次のような作業を実施する必要がある。
これらはいずれもWebブラウザーで管理画面を操作するだけでよい。またUIは日本語化されていて操作は難しくない。そのため、DNS管理者であれば1時間もかからずに準備は完了できるだろう。
Google Cloud DNSでは、Webベースの管理画面でゾーンの作成やレコードの追加といった作業が簡単にできる。WindowsのGUI操作に慣れたDNS管理者であれば、何ら難しいことはないだろう。
その一方で、RESTful APIやコマンドラインコマンドでゾーンやレコードを操作することも可能だ。これにより、大量のレコード操作を短時間で手間なく実行したり、一連の定型作業を自動化したりできる。
特にAPI/コマンドラインは非クラウド系DNSサービスでは利用できないことが多いので、Google Cloud Platformの大きなメリットといえる。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.