日本国憲法第22条第1項に次のような一文がある。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転および職業選択の自由を有する
これが「職業選択の自由」と称される大原則。皆さんも習ったはずだ。
このルールに基づき、学生の就職は、希望する企業に自由に応募できる「自由応募」制度が基本となっている。採用する企業の側から見れば、応募者の中から方針に合った人材を自由に選考できるので、さまざまな選考手段を駆使して優秀な学生を選抜しようとする。「選考」については、また機会を変えて詳細に説明するが、今回は理系特有の「推薦制度」について簡単に触れておきたい。
学生を選考する際の基準は企業ごとに異なるが、ITエンジニアや研究開発者の募集では、「最先端の技術知識を持っていること」や、「技術開発に必要な実験や解析の経験値など、専門的側面の知識/経験レベル」を問われるのが普通である。これらを「履歴書」や「エントリーシート(※4)」などの書類、「面接」などを通じて確認していくのだが、これには膨大な時間と労力が必要となることは想像しやすいはずだ。
そこで、高度な専門性を持っていることがあらかじめ予見できる人材を採用するために企業が活用しているのが、「推薦」という制度である。つまり、「○○大学××学部の△△教授の研究室で学んだ学生なら、当社の技術領域とフィットし、保有していてほしい技術知識や経験値など必要なスペックを有しているはずなので、教授(形式的には学校)が推薦状を出してくれるなら採用しますよ」という制度である。
推薦制度は、理系就職ではかなり活用されている。就職環境が学生に有利な時期には、自由に応募した方が選択肢が多かったため、利用が激減したこともあったが、最近は理系新卒学生に求める採用基準が専門化・高度化する傾向にあるため、推薦制度を活用する企業が安定的に増加しているようだ。利用者数が公開されていないため、統計的な裏付けはないが、特に国公立大学理系、中でも大学院を中心に、活用されるケースが多い。
多くの大学では、3年から4年次にかけて、卒論・卒研の指導を受ける「研究室」を選択するタイミングがやってくる。このときに「あの研究室だと、○○社への推薦がもらえる」といった情報が学生間で数多く流通する。コレが結構、研究室を選択する際の決め手になったりするのだ。
推薦制度には、自由応募とは異なるルールがあるので注意が必要だ。
まず推薦をもらって応募する場合は、他社に応募できなくなる。取りあえず推薦をもらっておいて内々定を確保し、その後他の企業にもチャレンジしていく、といった自由応募的な就活はできない。推薦制度は大学や教員と企業間の信頼関係に基づいて成立している。推薦をもらったのに辞退する、といった行為はタブーなのだ。
また研究室内で希望者が複数出る場合も多々あり、この際には何らかの方法で選考となる。だから狙った研究室に入ったからといって、希望企業に必ず推薦をもらえるわけではない。また仮に希望が競合しなくても、成績や研究への取り組みが悪くて教員の信頼を損ねると、推薦をもらえなくなるので注意が必要だ。
所属の研究室が企業から「推薦枠」をもらえていない場合でも、教員から「推薦状」を出してもらえることがある。もちろんこれも企業にとっては有益な選考材料となる。しかしこの場合は、推薦状が出たからといって、自動的に内々定とはならない。
以上、今回は就活のスタート前に知っておきたいスケジュールや言葉のルーツについてまとめてみた。次回以降も随時、基礎知識を分かりやすく紹介していくので、楽しみにしてほしい。
人材採用情報誌の元編集長など採用支援を手掛け、その後大学でキャリア支援系の教員に。著書に「親子就活」(アスキー新書・単著)、「雇用崩壊」(アスキー新書・共著)など。もともと人間好きなはずだが、最近は海辺とか田んぼとかにいることが多い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.