アルバはHPEに買収されたが、逆に主導権を得てHPEのネットワーク事業を変える。日本ヒューレット・パッカードが2016年1月14日に開催した記者説明会で、米HPEのネットワーク事業責任者になったドミニク・オー氏が、これを説明した。
日本ヒューレット・パッカード(HPE)は2016年1月14日、2015年に米HPEが買収したWi-Fi製品ベンダー、アルバネットワークスの統合について説明した。米HPEは「普通でない」体制で、同社のネットワーク事業を根本的に変えようとしている。
二社の統合が普通でないことは、来日した米HPEシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのドミニク・オー(Dominic Orr)氏の役職名が象徴している。
アルバネットワークスの社長兼CEOを務めていたオー氏は、米HPEのネットワーク事業の総責任者になった。アジア太平洋地域のネットワーク事業責任者も、日本ヒューレット・パッカードのネットワーク事業統括本部長(田中泰光氏)も、アルバ側の人物だ。アルバ側が事実上、米HPEのネットワーク事業を「乗っ取った」形になる。
普通でない部分はここからだ。米アルバは米HPEのネットワーク事業部門に吸収されたわけではなく、HPE傘下の企業として存続する。同社のWebサイトも買収などなかったかのように更新が続けられている。企業としてのアルバへの投資も続けられる。そして、オー氏についての紹介は、米HPEのサイト上にはない。米アルバのサイトに、「SVP and GM at Aruba, a Hewlett Packard Enterprise company」という肩書を示したうえで、同氏が「データセンター、エンタープライズ、中堅・中小企業にまたがるHPネットワーキングとアルバネットワークスのビジネスを統合的に指揮する」と説明されている。この肩書は、「HPE傘下の企業であるアルバにいる、(HPの)シニアバイスプレジデント兼(ネットワーク事業)ゼネラルマネージャー」と読める。
すなわち、アルバ側が人事的な観点で米HPEのネットワーク事業の主導権をとっただけでなく、アルバが組織的に統合されることもなく独立性を維持して、二社の事業をけん引していくことになる。大きな組織に飲み込まれてエッジを失わないよう、二重、三重の保険を掛けているようだ。
オー氏は、今後のHPEにおけるネットワーク事業で、「モバイルファースト」と「クラウドファースト」を推進していくと説明したが、根幹になるのは「モバイルファースト」。特に「Generation Mobile(モバイル世代)」のニーズに全面的に応えることに力を入れると話した。
オー氏のいうGeneration Mobileとは、無線LAN通信を最大限に活用し、場所にこだわることなく、同じデバイスで臨機応変に頭の切り替えながら仕事とプライベートを両立させる世代・時代のこと。こうした時代には、あらゆる場所にWi-Fi環境が求められ、単一のネットワークでIoTを含む多様なトラフィックを収容できなければならず、一方で複雑化するセキュリティニーズにも応えられなければならないとする。
アルバはすでに、マイクロソフト、グーグルなどハイテク企業をはじめとしたキャンパスや、スタジアムや空港、ショッピングモールといった施設に、Wi-Fi製品を提供している。一方、Wi-Fiアクセスポイント/コントローラーにおける認証およびアプリケーション可視化と組み合わせた、通信品質/セキュリティのポリシー制御機能は、同社製品における重要な特徴となっている。
特にセキュリティについては、Generation Mobileではもはや境界セキュリティを当てにすることはできなくなるため、ユーザーおよび端末、アクセス日時、アクセス先などの情報を基に、ピンポイントで通信を許可できるようになる必要があるとし、これに取り組んでいくという。具体的な例としては、アルバのWi-Fi製品が持つポリシー制御機能をHPEのSoftware Defined Networking(SDN)製品と統合しようとしている。
Wi-FiとSDNは強力な組み合わせだ。筆者は以前、「企業の社内LANにSDNは浸透しない」はウソである理由」という記事で、「無線LANが社内LANにおけるSDN普及を加速する」と指摘したが、オー氏は社内LANにとどまらず、社会インフラとしてのWi-FiとSDNを結び付けることも視野に入れているようだ。
Wi-Fiでは、既述のように狭義の「エンタープライズ」の枠を超えた大きな事業機会がある。今後もHPEのネットワーク事業として、Wi-Fiにリソースを集中投下し、ビジネスを開拓していく。オー氏は「ガートナーによる無線LANのマジッククアドラントで、ビジョンはトップだが、遂行能力ではシスコに負けている。双方ともトップになるようにしたい」という。
一方、クラウドファーストについては、データセンターにおけるアプリケーションの展開を高速化するような有線ネットワーク製品を展開する。あらゆるレベルでオープンであることを目指し、HPEがサーバーで推進している「コンポーザブルアーキテクチャ」(サーバー、ストレージ、ネットワークの各コンポーネントをリソースとして調達、必要に応じて伸縮させて使う仕組み)にも対応するという。
また、有線ネットワークハードウエアは、Open Compute Projectなどで見られるような汎用製品の積極的な活用をこれまで以上に進め、管理レイヤーで独自性を発揮していくという。有線ネットワーク製品とアルバWi-Fi製品のSDN(Software Defined Networking)連携については、間もなく統合管理製品を発表の予定と、オー氏は話した。
日本HPE代表取締役社長の吉田仁志氏はアルバ買収について、「分社後の米HPEは尖った投資を推進しており、その点で最も重要なカギとなるもの」だと説明。HPEはアルバと新ネットワーク事業を組織全体で支援しているという。
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