「Network is the computer」の男が思い描く、コンピュータの未来Go AbekawaのGo Global!〜Scott McNealy編(3/3 ページ)

» 2016年02月15日 05時00分 公開
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すぐに何とかしろ、そうでないときっと後悔する

阿部川 次の10年のために、エンジニアに必要なことは何でしょうか?

マクネリー氏 物事を考えたり、問題が起こったときに、それを全体から俯瞰したりすること、いわば360度ぐるっとさまざまな角度から見て考えることです。

 「使い勝手はどうか(usability)」「本当に実現可能か(doability)」「拡張できるアイデアか(scalability)」「すぐに実行できるか(affordable)」など、多角的な視点から物事を考えることが大切です。

 また、現在ある技術を結合させて、一つのシンプルな答えを導き出せるようになれば、他の誰よりも問題を解決できる方法に近づけると思います。

 例えば、Uberです。あのアプリケーションは、多くのエンジニアリング要素――クラウド、ロジスティクス、モバイル、GPS、GUIなどの技術が融合された結果です。一つ一つの技術そのものは取り立てて革新的ではありませんが、それらの要素を一つに集結させたことがとても革新的だと思います。

阿部川 いつも念頭に置いている言葉はありますか?

マクネリー氏 今まで、多くのスローガンやバズフレーズ(流行になった言葉)を用いて、自分の思いを伝えてきました。

 「Networking is computer.(ネットワークこそコンピュータだ)」「You have no privacy, get over it.(プライバシーなどないと覚悟しろ)」「Kick butts! have fun!(しっかりやれ! 仕事を楽しめ!)」「Right answer is the best answer, the wrong answer is the second best, (and) no answer is the worst.(正しい意見が一番の答えだが、間違った意見だって二番目に良い答えだ。最悪なのは何も言わないことだ)」「To ask is to seak the denial.(本当に人の意見を聞くとは、否定的な意見を求めることだ)」などなど。

 多くの人がこれらの言葉を記憶していますが、皆さんが同意してくれたかどうかは、正直分かりません。しかし、皆が同意するのを待つことは「死」を意味します。

 会議室の皆が同意するということは、その時点で既に多くの時間が費やされたということです。その決断では遅過ぎるのです。その事業の機会は失われているも同然で、うっかり飛び込むのは自殺行為です。

 「Go get it done, (or your) heart’s aching if you do some wrong.(すぐに何とかしろ、そうでないときっと後悔する)」です。会議室にいる2〜3人が同意したら、理論ではなく直感を信じ、その何人かと勇気を持って飛び込むのです。

 それはバカげている、そこに飛び込んでも何も得られるものはない、と多くの人が言っても、リーダーはそれを乗り越えて決断しなければなりません。この点スティーブ(ジョブズ)は優れたリーダーでした。「どうか自分を信じてほしい。いまは何があるか分からないが、一緒に飛び込んでほしい。そこにはきっと素晴らしい肥沃な大地が開けている」と、皆のモチベーションを高め実行することができました。

 日本ではコンセンサスという概念が大切であることは十分承知していますが、コンセンサスを待っていては遅過ぎることがあります。コンセンサスを待たず、あえてリスクを取ることが必要なときもあると思います。

真の「Network is the computer」の時代へ

阿部川 日本がグローバルな競争の中で勝ち続けるためには何が必要でしょうか?

マクネリー氏 早い時期から、子どもたちにプログラミングを学ばせることです。

 コンピュータプログラミングは、現在、大学や大学院などに入ってから教えられています。しかし子どもが言葉を学び始めるのは、ご承知のようにとても幼い時期からですし、早く始める方がより簡単に習得できます。

 子どもの能力は無限で素晴らしいものです。まだ頭が柔軟で吸収能力が高いうちに母国語以外の言語を教えるように、プログラミングの読み書き、つまりその基礎をしっかり教えてあげることが、将来の彼らの人生にもきっと素晴らしい機会を提供すると思います。それと数学も、ぜひ学んでほしいですね。

阿部川 最後の質問です。コンピュータは今後、どのようになっていくのでしょうか?

マクネリー氏 ネットワークはより強くなり、プライバシーの概念は多様になり、デバイスはより薄くなるでしょう。より多くのデータをクラウドなどに持てるようになり、デスクトップやラップトップ、デバイスで制御して、今よりももっと多くのことができるようになるでしょう。

 そして将来的には、マイクロプロセッサもない、ストレージもない、計算も必要ない、アプリケーションも必要ない、とても薄いデバイス一枚で全てのことできるようになるでしょう。それは多様なネットワークとつながり、いつでも、どこでも、そして誰でも、ネットワークとコンピュータの恩恵を受けられのです。

 ますます、本質的な意味での「Network is the computer」(ネットワークこそがコンピュータである)になっていくと思います。

阿部川 スコットさんが提唱続けてきた言葉の本当の意味に、ITが近づいていくのですね?

マクネリー氏 1980年代はあれで良かったと思いますが、今なら言葉を節約して「クラウド」でいいでしょう(笑)。

マクネリー氏が子どものころ なりたかった職業は? そして、もし10歳の自分に出会えたら。

Go's thinking aloud インタビューを終えて

 そこには確かに、あのスコット・マクネリーがいた。

 コンピュータ業界の巨人と言われ、サンを一流巨大IT企業に育て、歯に衣着せぬケンカっ早い物言いで知られたあのスコット・マクネリーは、もの静かに部屋に入り、人懐っこい笑顔を向けてくれた。

 現在の事業、数々の思い出、IT業界で働く矜持、子どもたちへの思い……いただいた時間はとっくに過ぎていたが、もっと話し続けたい誘惑に駆られた。

 インタビュー後、私的にサインを求めた。「Sure!」と二つ返事で書いてくれたメッセージの数々――「Kick your butt!(ガツンと行け!)」「Have fun!!(楽しめ!)」「Go Java!!(Java命!)」「Thanks for your support!!(ご協力に感謝します!)」――いったいどれほどの人が、スコットさんの勢いの溢れたメッセージで、勇気付けられてきただろうか。

 IT業界で起業し、多くの仲間と喜怒哀楽を共にし、時代の先頭を切って道なき道を切り開く。これ以外にどんなに楽しいことがあるだろう。筆者もIT業界25年、「この道を選んで良かったなあ」と心から思った。お会いできて本当に光栄だった。

阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、キャスター・リポーター
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語トレーナー、コミュニケーションに関する執筆、講座、講演も行っている。

編集部より

「Go Global!」では、インタビューを受けてくださる方を募集しています。海外に本社を持つ法人のCEOやCTOなどマネジメントの方が来日される際は、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。


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