FinTechにおけるロボット/人工知能の活用事例――集客、接客、資産運用アドバイス、ファンドマネージャロボットをビジネスに生かすAI技術(6)(2/2 ページ)

» 2016年12月14日 05時00分 公開
[神崎洋治]
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三菱東京UFJ銀行が描く「Watsonとロボットによる未来の接客」

 人工知能に最も近い位置にありながら、自らはAIと呼ばずに「コグニティブコンピュータ」を自称するIBM Watson。その日本語版の記者発表会では、三菱東京UFJ銀行が思い描く、「IBM Watson+ロボットによる未来の接客」という短編映像が公開されました。それはこんな内容のものでした。

 銀行にひとりの顧客がやってきます。受付で待機していた小型のヒト型ロボット「Nao」(ナオ)が人感センサーで来店客を発見し、顔認識機能で個人認証を行い、顧客の名前とプロフィール、更には使用する言語の情報を取得します。

 「ナーム様、いらっしゃいませ」。顧客が使う言語は英語、Naoは顧客の名前とともに英語で挨拶をします。顧客がNaoに「税金がかからない投資が流行っていると聞いたんだけど?」とたずねると、NaoはWatsonに接続し、自然言語会話を解析し、顧客が欲しがっている情報はNISAについてであることを理解します。Naoは「それはNISAですね。あちらの窓口で対応します」とNISA窓口を担当しているロボットPepperの方向を案内して誘導します。顧客は待機しているPepperの前に移動し、「NISAってタイでの投資信託とどう違うのかな?」と質問します。PepperはNaoと同様に顧客の質問をWatsonに接続して打診し、「タイの投資信託は値上がり益は非課税ですが、普通分配金は金額に応じて課税されます」と答えます。顧客がNISAについて詳しいことがもっと知りたいものの時間がないことを告げると、Pepperは顧客がNISAを利用した場合の資産活用シミュレーションのグラフを、顧客のスマートフォンに転送します。

 これは将来を想定した動画で、実現にはもう少し時間がかかるでしょう。しかし、既に可能な技術で構成されているので絵空事ではなく、会話の精度や機械学習の精度向上によって近い将来に実現可能な内容です。大手銀行では、ロボットとAI関連技術によって、来店顧客のニーズに合わせた適切な情報提供の自動化を目指しています。

IBM Watson +ロボットによる未来の接客 銀行の窓口でNISAについて解説するロボットPepper(1)と、運用予測シミュレーションを顧客のスマートフォンに送信したところ(2)。
出典 記者発表会で上映された三菱東京UFJ銀行のプロモーション動画より

ファンドマネージャはコンピュータ

 株式や為替等の取引において、相場を読むのではなく、上下の変動だけを見て売買することで利益を出す「超高速取引」。それがAI関連技術を搭載したコンピュータによって運用されています。数秒間に1万回の取引注文が可能とされ、自動売買を行って瞬く間に利益を重ねていきます。1日、530万件の取引を行うという報道もあります。

 超高速取引では意図的に株価の変動を誘発することを問題視する声もあります。例えば、コンピュータはある株の売り注文を出します。市況を見て多くの投資家がそれに興味を持って買いに入ると、その瞬間の行動を察知して、それより早く意図的に売り注文のキャンセルを出します。買い注文に後押しされて株価がやや上昇したところで、コンピュータは再度前回とは少し高値で売り注文を出して利益を上げます。

 また、日本でも東証(東京証券取引所)と名証(名古屋)など複数の市場に上場している企業の場合、安い方の市場で買って、高い方の市場で売ると利益が出ます。たいていの場合は変動の動きは連動しているものですが、この誤差を利用して異なる市場で先回りの超高速売買を行って利益を出すシステムもあります。

 これらの例は、投資という観点からは賛否両論ありますが、一方でAI関連技術の分析能力を活用してファンドマネージャをコンピュータ化する、言わば正規のAI活用の動きも北米を中心に加速しています。

 年間の運用利回り30%という結果に注目を集めたKFLキャピタルの人工知能「クリスタル」は、株、金、原油、穀物など100種類の金融商品のデータを蓄積し、予測に活用しています。KFLキャピタルのCEOデイブ・サンダーソン氏はNHKの取材に対し、「株の取引きでは、まず過去3日間の動きとほかの商品の動きを比較して分析し、その特徴を過去20年間のデータと照合して、将来の値動きを予測する」と答えています。20年間のデータを解析することは人間にとって至難の業ですが、AI解析であれば可能であり、直近の動きに惑わされない分析ができるということです。

 「AIに奪われる仕事」や「奪われない仕事」が注目された時期があり、初期の報道では、AIとロボットによって単純作業の仕事は奪われ、高度な知見が必要される「ファンドマネージャ」や「弁護士」「医師」等はAIに奪われない仕事とされていました。

 しかし、この例でもわかるように、高度な分析と、そこから生み出される知見の提供はAI技術がもっとも得意とする分野であり、過去の膨大な情報の分析とそれによる診断や予測においては、人間がかなわない領域に来ています。

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神崎洋治著
秀和システム 1600円(税別)
2016年3月、Googleの開発した人工知能(AI)が、囲碁のトップ棋士を破ったというニュースが流れ注目を集めました。実はいま、囲碁に限らず、さまざまな分野で人工知能の技術が急速に導入されはじめています。本書は、人工知能の関連技術、特に機械学習やニュートラルネットワークの仕組みなどの基礎知識や最新情報をわかりやすく解説します。AIの主要プレイヤーであるIBMやMicrosoft、Googleなどのビジネスへの活用事例も紹介します。

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