テクノロジの力を使った新しいプレーヤーが既存のプレーヤーを脅かす、デジタルディスラプションが各業種で起こりつつある。こうした中で、企業が勝ち残るために持つべき要件とは何か? ITでビジネスを推進するデジタル時代の差別化の源泉を、複数の「業種×Tech」事例に探る。
およそ全てのビジネスをITが支えている今、システム開発・運用の在り方が収益・ブランドを左右する状況になっている。特に社外向けのITサービスは、開発のスピードと企画力が勝負。IoT、FInTechトレンドに顕著なように、APIを利用して自社サービスと他社サービスを組み合わせるなど、「いかに新たなサービス価値を作るか」「他社に先駆けてスピーディにローンチ・改善するか」が、差別化の一大要件となっている。
何より重要なのは、製造、金融に限らず各業種でこうした動きが活発化しつつあることだろう。流通・小売り、不動産、医療、アパレルなど、「顧客」が存在するあらゆる業種でITサービス開発競争が始まっている。
例えば小売りなら「ECにおいて、商品データや過去の購買履歴などさまざまなデータをAIで分析、その顧客に最適な関連商品を自動的にリコメンドする」サービス、不動産なら「地図上で任意の地点の不動産相場情報が瞬時に分かる、販売中の物件が探せる」サービス、アパレルなら「さまざまなブランドのファッションアイテムをレンタルできる」サービスなど、各業種で“新たな価値”が次々と創出されては、受け入れられている。
無論、こうしたサービスの全てが当てはまるわけではないが、中にはUberのように、既存の商流を変え、業界構造そのものを破壊してしまうサービスも表れ始めている。ビジネスの既存の常識、ルールを変えてしまうデジタルディスラプションの波が、着実に高まりつつあることは間違いないといえるだろう。
こうした中、今、企業には3つの課題が突きつけられている。1つはアプリケーションの開発・運用スタイルの問題。前述の通り、ITサービス開発競争はスピードが勝負。ニーズの変化が速く、競合がひしめく中では、企画の着想からリリースまでのリードタイムが伸びるほど企画の価値は低下してしまう。実際に、「いち早くローンチしたサービスが勝つ」ともいわれている。加えて、サービスを使い続けてもらうためには、ニーズの変化に合わせて改善を続けなければならない。すなわち、ITサービス競争で成果を上げるためには、サービスを迅速に開発・リリースするDevOpsのアプローチが必然的に不可欠となる。
2つ目は組織体制の問題。DevOpsを実践する上で前提となることでもあるが、サービス企画を早く形にするためには、ビジネスサイドとIT部門の協働が大きなポイントになる。リリース後の改善にしても、細かな設定変更などまで逐一外注しているようでは時間もコストも掛かり過ぎてしまう。実際、ITサービスを提供している企業では、ビジネス部門の中にIT部門のスタッフが入って、共にサービスの企画・開発に取り組んでいる例も多い。
この点で、内製化が見直されているが、エンジニアを雇用できる知見やノウハウ、予算のない企業にとっては、「自社のビジネス目的を理解した上で、共に開発・改善に当たってくれる」外部パートナーとの協働体制をいかに築くかが大きなポイントになるといえるだろう。
そして3つ目は、IT部門と経営層の「IT活用に対する考え方」の変革だ。前述のようにITサービスは何が当たるか分からない。こうした中では、サービスが確実に収益を上げられるようにと、「最初に要件を煮詰めてから時間をかけて着実に開発を進める」ウオーターフォールのアプローチや、「リリース後は品質や安定運用を最重視する」といった考え方では通用しない。
そもそも先が見えない中では「絶対に失敗しない」ことなどあり得ない。そして勝負のポイントがスピードにある以上、「速く失敗して、その経験を基に、速く改善する」――すなわち経営層と現場層、共に「失敗を許容する」「トライ&エラーを繰り返して成果の獲得を狙う」という、従来とは大きく異なる考え方に変えることが不可欠となるのだ。
もちろん、ITサービス競争に参加する上では、クラウドやAI、各種分析ツールをはじめ、CI/CDツール、コンテナ技術など、さまざまなテクノロジを使いこなす必要がある。だが何より重要なのは、「いかに優れたテクノロジを使うか」ではなく、「どのようなサービスを作るか、どのように提供するか」であることは言うまでもない。
換言すれば、技術起点で「何ができるか」と考えるのではなく、顧客起点で「何が求められているか」を考え、数ある選択肢の中から最適な技術を選んで正しく適用する、SIerやベンダーに丸投げするのではなく、自らリード/コントロールしてビジネス目的の実現を狙う「主体性」を持てるか否かが、ITサービスで成功する前提条件になる。いわば、IT活用の本来あるべき姿が、あらためて強く求められているのだ。
ただ日本では、一部のWebサービス系企業を除き、「要件を決めた上で着実に開発を進める」「一度作ったシステムを長期間使い続ける」「何よりも安定性を重視する」といった従来型の考え方を持つ企業が多い。その背景には、IT部門に対する減点法の評価制度や、それを受けた「言われたことだけを確実にこなす」「何も起こさない、起こらないことが最上」といった受け身型の考え方や文化が横たわっている。
だが前述のように、デジタルディスラプションの波が日本を飲み込むのは時間の問題である以上、従来型のスタンスを変革しなければ、いよいよ企業として発展することが難しい状況になりつつある。長年の間、スローガンに終始してきた“ビジネスとITの融合”を実現し、主体的にITを使いこなせなければ、本当に生き残れない時代になりつつあるのだ。
では現在、ITサービス競争で実績を上げている日本企業では、いったいどのようにサービスを企画・開発・運用しているのだろうか? 現場層、経営層ともに、どのような考え方や組織、プラクティスで、サービス競争に参加しているのだろうか?――
特集「“業種×Tech”で勝つ企業、負ける企業」では、金融、小売り・流通、不動産、アパレルなど、Webサービス系ではない、従来型企業の取り組み事例を取材。IT活用に対する認識、文化、慣習など、日本企業が持つ数々のハードルをどのように乗り越え、プロジェクトを推進しているのか、日本におけるデジタルビジネス推進の現実解を探る。
IoT、FinTechトレンドが本格化する中、製造、金融に限らず各業種でITサービス開発競争が進んでいる。テクノロジの力で各業種におけるビジネスのルールが大きく塗り替えられ、新しいプレーヤーが既存のプレーヤーを脅かすデジタルディスラプションも起こりつつある。ではこうした中で、企業が勝ち残るために持つべき要件とは何なのか? ITでビジネスを推進するデジタル時代の差別化の源泉を、複数の「業種×Tech」事例に探る。
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