ブリヂストンは、タイヤの製造、販売からソリューションの提供へとビジネスの“かじ”を切り替えている。同社はソリューション事業を進めるために、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んだ。どのような取り組みを進めたのかを紹介する。
IoT、FinTechトレンドが本格化する中、製造、金融に限らず各業種でITサービス開発競争が進んでいる。テクノロジーの力で各業種におけるビジネスのルールが大きく塗り替えられ、新しいプレイヤーが既存のプレイヤーを脅かすデジタルディスラプションも起こりつつある。ではこうした中で、企業が勝ち残るために持つべき要件とは何なのか?
特集第1回では、こうした「業種×Tech」の潮流が各業種における既存のビジネスの常識、ルールを覆しつつあることを紹介した。では、具体的に新しい価値を提供できるサービスとはどのように発想、実現すればよいのだろうか。
今回は、タイヤの製造販売からソリューションの提供へとビジネスの“かじ”切り替えているブリヂストンにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを取り上げる。
2017年5月23日開催の「SAS FORUM JAPAN2017」でブリヂストンが行った特別講演「ソリューションビジネスを加速する、ブリヂストンのデジタルトランスフォーメーション〜AIとIoTで推進する、新しい時代のモノづくりとICT」からDX実践のヒントを探る。
1931年創業のブリヂストンはタイヤビジネスを主力事業としており、乗用車やトラック、鉱山用車両などのタイヤを製造/販売している。その他にも免震ゴムや自転車、スポーツ用品などに関わる事業を展開している。そんなブリヂストンがDXに取り組み始めたきっかけは「タイヤのソリューション事業だった」と話すのはブリヂストン 執行役員 CDO(Chief Digital Officer) デジタルソリューションセンター担当の三枝幸夫氏だ。
【おわびと訂正:2017年6月22日11時 ブリヂストンの指摘で三枝氏の氏名が誤っておりました。「三枝幸男」から「三枝幸夫」と訂正しました。関係者と読者の皆さまにおわびいたします。】
車は「ハイブリッド」「燃料電池自動車(FCV)」「電気自動車(EV)」「自動運転」など新しい技術を取り込むのが早く、最新技術の塊だ。一方、タイヤは見栄えがほとんど変わっていないものの、素材や機能、性能などで大きな進化を遂げている。タイヤがパンクしても一定の距離を走り続けられる「RFT(Run-Flat Technology)」は、その1つだろう。このようにタイヤメーカー各社が、さまざまな新機能や付加価値を付け、製品を差別化するために日々、研究開発を続けているにもかかわらず、既存のメーカーはシェアを落としている。ブリヂストンは、この状況に危機感を持っていたという。
「2005年と2015年のタイヤ業界のポジションを見てみると、ビッグスリー(ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー)の順位は変わっていない。しかし、新興メーカーの勢いが強く、ビッグスリーや既存の中堅メーカーは軒並みシェアを落としている」
「このままでは限界がある」と感じたブリヂストンは、顧客が持つタイヤに関する「困り事」を解決するソリューション事業を始めたという。
ブリヂストンが始めたタイヤソリューション事業は、同社のスペシャリストがタイヤの空気圧の管理やスノータイヤの入れ替えなどを行い、顧客がタイヤを使った分、お金を支払うというもの。このときに出てくるすり減ったタイヤは、「リトレッド」(付け替え)で再利用する。しかし、この仕組みを従来の製造/販売というビジネスモデルの中で行うのには、大きな問題があった。
「ブリヂストンは、人、組織、システム全てがバリューチェーン1つ1つのブロックで分断されていた。バリューチェーン間で連絡を取るときはFAXや電話が中心。Excelファイルをメールで送っていたときもあったが、それでもスピードが遅く、脆弱(ぜいじゃく)な連携であるなど、綱渡りの運営が続いていた」
またソリューションを素早く顧客に提供するためには、顧客の情報や課題などを素早く把握する必要があった。「このままでは顧客に対して、最適なソリューションを素早く提供できないどころか、コストばかりかかってしまう。この問題を解決するために、バリューチェーン全体をDXしようと考えた」
そこでブリヂストンがロードマップとして設定したDXは、社内向けの「Digital for Bridgestone」、顧客へ提供する価値を高める「Digital for Customer」、顧客や企業間と連携したエコシステムの構築を目指す「Industry level Ecosystem play」の3つ。以降、順に紹介しよう。
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