散らばったExcelデータを集めて解析することで製品不良を6分の1に削減――3つのデジタル変革で新たなビジネスを加速させるブリヂストン特集:“業種×Tech”で勝つ企業、負ける企業(4)(1/2 ページ)

ブリヂストンは、タイヤの製造、販売からソリューションの提供へとビジネスの“かじ”を切り替えている。同社はソリューション事業を進めるために、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んだ。どのような取り組みを進めたのかを紹介する。

» 2017年06月20日 05時00分 公開
[中尾太貴@IT]

特集:“業種×Tech”で勝つ企業、負ける企業〜ビジネスの常識が変化する中で、どう生き残るか〜

IoT、FinTechトレンドが本格化する中、製造、金融に限らず各業種でITサービス開発競争が進んでいる。テクノロジーの力で各業種におけるビジネスのルールが大きく塗り替えられ、新しいプレイヤーが既存のプレイヤーを脅かすデジタルディスラプションも起こりつつある。ではこうした中で、企業が勝ち残るために持つべき要件とは何なのか?

特集第1回では、こうした「業種×Tech」の潮流が各業種における既存のビジネスの常識、ルールを覆しつつあることを紹介した。では、具体的に新しい価値を提供できるサービスとはどのように発想、実現すればよいのだろうか。

今回は、タイヤの製造販売からソリューションの提供へとビジネスの“かじ”切り替えているブリヂストンにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを取り上げる。

2017年5月23日開催の「SAS FORUM JAPAN2017」でブリヂストンが行った特別講演「ソリューションビジネスを加速する、ブリヂストンのデジタルトランスフォーメーション〜AIとIoTで推進する、新しい時代のモノづくりとICT」からDX実践のヒントを探る。


タイヤ販売からソリューション事業へ

ブリヂストン 執行役員 CDO(Chief Digital Officer) デジタルソリューションセンター担当の三枝幸夫氏

 1931年創業のブリヂストンはタイヤビジネスを主力事業としており、乗用車やトラック、鉱山用車両などのタイヤを製造/販売している。その他にも免震ゴムや自転車、スポーツ用品などに関わる事業を展開している。そんなブリヂストンがDXに取り組み始めたきっかけは「タイヤのソリューション事業だった」と話すのはブリヂストン 執行役員 CDO(Chief Digital Officer) デジタルソリューションセンター担当の三枝幸夫氏だ。

【おわびと訂正:2017年6月22日11時 ブリヂストンの指摘で三枝氏の氏名が誤っておりました。「三枝幸男」から「三枝幸夫」と訂正しました。関係者と読者の皆さまにおわびいたします。】

 車は「ハイブリッド」「燃料電池自動車(FCV)」「電気自動車(EV)」「自動運転」など新しい技術を取り込むのが早く、最新技術の塊だ。一方、タイヤは見栄えがほとんど変わっていないものの、素材や機能、性能などで大きな進化を遂げている。タイヤがパンクしても一定の距離を走り続けられる「RFT(Run-Flat Technology)」は、その1つだろう。このようにタイヤメーカー各社が、さまざまな新機能や付加価値を付け、製品を差別化するために日々、研究開発を続けているにもかかわらず、既存のメーカーはシェアを落としている。ブリヂストンは、この状況に危機感を持っていたという。

 「2005年と2015年のタイヤ業界のポジションを見てみると、ビッグスリー(ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー)の順位は変わっていない。しかし、新興メーカーの勢いが強く、ビッグスリーや既存の中堅メーカーは軒並みシェアを落としている」

 「このままでは限界がある」と感じたブリヂストンは、顧客が持つタイヤに関する「困り事」を解決するソリューション事業を始めたという。

ソリューション事業とバリューチェーンの問題点

 ブリヂストンが始めたタイヤソリューション事業は、同社のスペシャリストがタイヤの空気圧の管理やスノータイヤの入れ替えなどを行い、顧客がタイヤを使った分、お金を支払うというもの。このときに出てくるすり減ったタイヤは、「リトレッド」(付け替え)で再利用する。しかし、この仕組みを従来の製造/販売というビジネスモデルの中で行うのには、大きな問題があった。

ブリヂストンのバリューチェーンとソリューション事業を具現化するデジタル基盤(出典:ブリヂストン)

 「ブリヂストンは、人、組織、システム全てがバリューチェーン1つ1つのブロックで分断されていた。バリューチェーン間で連絡を取るときはFAXや電話が中心。Excelファイルをメールで送っていたときもあったが、それでもスピードが遅く、脆弱(ぜいじゃく)な連携であるなど、綱渡りの運営が続いていた」

 またソリューションを素早く顧客に提供するためには、顧客の情報や課題などを素早く把握する必要があった。「このままでは顧客に対して、最適なソリューションを素早く提供できないどころか、コストばかりかかってしまう。この問題を解決するために、バリューチェーン全体をDXしようと考えた」

 そこでブリヂストンがロードマップとして設定したDXは、社内向けの「Digital for Bridgestone」、顧客へ提供する価値を高める「Digital for Customer」、顧客や企業間と連携したエコシステムの構築を目指す「Industry level Ecosystem play」の3つ。以降、順に紹介しよう。

ブリヂストンが設定したデジタルトランスフォーメーションのロードマップ(出典:ブリヂストン)
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