社会的なニーズや実現可能性が高い「アイデア」に対し事業化支援を行うためのコンテスト「MVP Award」。第2回は「社会の課題を解決する技術」いわば「CivicTech」をテーマ多くのサービスが集まった。本稿では、最終審査に残ったMVPは5つのプレゼンの模様と審査結果をお伝えする。
IoT、FinTechトレンドが本格化する中、製造、金融に限らず各業種でITサービス開発競争が進んでいる。テクノロジーの力で各業種におけるビジネスのルールが大きく塗り替えられ、新しいプレイヤーが既存のプレイヤーを脅かすデジタルディスラプションも起こりつつある。ではこうした中で、企業が勝ち残るために持つべき要件とは何なのか?
特集第1回では、こうした「業種×Tech」の潮流が各業種における既存のビジネスの常識、ルールを覆しつつあることを紹介した。では、具体的に新しい価値を提供できるサービスとはどのように発想、実現すればよいのだろうか。
昨今、社会問題をテクノロジーの力で解決する「CivicTech」(Civic(市民の・公民の)+Techの造語)が注目されている。今回はCivicTechのイベントを通じて、“サービス発想のヒント”を紹介する。
社会生活には、さまざまな「課題」が存在する。少子高齢化や地方創生といった国や自治体レベルで解決していくべき課題もあれば、より限られた領域における課題、さらには、個人個人が日々の生活の中で感じる、ちょっとした不便や不満なども広い意味での「課題」と言えるだろう。これらの課題を解決し、社会生活をより良いものにしていくためにITを活用していこうという試みが、多く行われている。しかし、課題解決のための「アイデア」があっても、資金や技術力などのリソースが不足していれば、ITによって、そのアイデアを形にすることは難しい。
社会的なニーズや実現可能性が高い「アイデア」に対し事業化支援を行うためのコンテストイベント「第2回MVP Award」の最終審査および表彰式が、2016年9月14日に開催された。同アワードの主催は、SBメディアホールディングスおよびギルドワークスで、2015年の第1回に続き、今回が2回目の開催となる。
アワードのタイトルになっている「MVP」とは「Minimum Viable Product」の略だ。事業やサービスを立ち上げる際には、「アイデア」を元に、そのニーズや課題について仮説検証を行うが、その検証を可能とするための最小限(minimum)の規模のプロダクトのことを意味している。「MVP Award」では、課題解決のための「アイデア」を仮説検証が可能なレベルで形にした「MVP」を募り、有望なものについて事業化に向けた支援を行っていくという。第1回の取り組みについては、下記記事を参照してほしい。
第2回は「社会の課題を解決する技術」いわば「CivicTech」をテーマに、2016年3月11日から5月末にかけて募集が行われた。2016年7月上旬の1次審査を経て、最終審査に残ったMVPは5つ。
本稿では、2016年9月14日に開催された最終審査での各作品のプレゼンテーションと、審査結果についてレポートする。
北海道函館市の地域課題をITによって解決することを目的に活動する団体「Code for Hakodate」が発表した作品は、交通データのプラットフォーム「Pecily」だ。アイデアの発端となった課題は、北海道において、特に冬期、重要な公共交通機関である「路線バス」の運行スケジュールが乱れがちなことだという。
多くの交通会社は、Web上で自社交通機関の遅延情報などを公開している。しかしながら、情報の発信方法は会社によってまちまちで、場合によっては参照しづらかったり、ネットを日常的に利用していない高齢者などにはアクセス自体が難しかったりといった問題がある。Code for Hakodateでは、スマホだけではなく、デジタルサイネージなども視野に入れ、ユーザーにとってより利用しやすい形の「遅延情報アプリ」を作ることで、こうした問題を解決したかったという。
アプリを開発するに当たっては、「交通事業者からのデータ収集」「アプリで利用できる形へのデータ整形」「アプリ開発」といった手順を踏むことになる。この手順のうち「データ収集」と「データ整形」については、事業者との事前調整や運用に、非常に手間と時間がかかる。
そこで「Pecily」では、Raspberry Pi 2やSORACOMのSIM、安価なGPSモジュールなどを組み合わせた「秘密のボックス」を、バス内などに設置。そこから取得したデータを整形してWeb上に蓄積し、APIを通じて外部から容易に利用できる仕組みを作ることを目指している。リアルタイムの交通機関の情報に対し、APIレベルでアクセスできる環境があることで、開発者は、さまざまなユースケースを想定したアプリケーションを独自に開発することが容易になるわけだ。
Code for Hakodateは、函館バスと協力して部分的に実証実験を行っており、GPSデータを取得するためのボックスも試作している。
試作時点で1つのボックスを作るのに掛かった費用は1万6000円ほどで「営業区域内を走行している全車両に搭載するボックスを作る場合でも400万円強で済む」という。函館バスが2007年に導入したバスロケーションシステムには当時で約2億4000万円のコストが掛かったそうで、「導入と運用維持のためのコストは格段に下げられるはずだ」という。
Code for Hakodateでは、引き続き実証実験を継続しており、電波が届かない場所からの回復や、ボックスを長時間稼働させた場合の負荷などについて検証を行っている。また、今後はバスだけではなく、鉄道も含めた、複数の交通機関、事業者からのデータ取得などへの対応も行っていきたいとしている。ビジネスモデルについては「Pecily」に参加する交通事業者からの収入を主と考えており、アプリ開発者に対しては「API負荷が高い場合の課金」なども検討している。
現在、外資系コンサルティング企業に勤めている竹内国貴氏による「Monovation」は、3Dプリンタなどのデジタル造形技術とネットを活用して「オーダーメイド商品をより手軽に受発注できる仕組み」を事業化したいというアイデアだ。
「イベントの記念品やプレゼント、企業のノベルティはもとより、日用品などでも、何らかのオリジナル要素が加わったものを手に入れたいニーズは高まっている」と竹内氏は言う。アイデア検証のために行ったアンケートでは、多くの消費者が、大量生産される既製品には「満足していない」とする一方で、オーダーメイドを行う際には「高価」「手間や時間がかかる」「欲しいものがどこで作れるのか分かりづらい」といった点に課題があると感じていたという。
こうした「オーダーメイド」の課題解決を目指し、Monovationが計画している事業は2つ。実店舗をイメージした「Mono Salon」と、オーダーメイドの発注者と制作者とをマッチングするプラットフォームの「Mono Connect」だ。
「Mono Salon」は、3Dプリンタなどの造形設備を備えた工房兼ショップ。「人物フィギュア」などのフルオーダーをはじめ、「名前入り照明」のようなセミオーダー品、斬新な形状のデザイナーズ商品などの設計、製造、販売を行う。受注販売についてはECからスタートし、段階的に店舗へと展開していく計画だという。
「Mono Connect」は「自分だけのモノ」が欲しいユーザーと、モノを作れるヒト(デザイナーや3Dプリンタ保有者)をマッチングするプラットフォームとなる。クラウドソーシングによる設計や製造を推進し、ユーザー層の拡大とデジタル造形産業の活性化を図るとする。
「例えば、既存の『カップへの名入れ』のようなカスタムメイドサービスの場合、『カップ』へのニーズがユーザーの利用が中心だった。Monovationでは『オーダーメイド』に対するニーズを起点にして、さまざまな商品を展開していける点が類似のサービスに対する差別化のポイントになる」(竹内氏)
サービスの価格については、先行メリットを生かしつつ既存のオーダーメイド、カスタムメイドサービスと同等に設定し、後発サービスの登場があった場合でも値下げ競争に巻き込まれない形を模索したいとした。
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