PCを操作しながら目も合わせずに、休日出勤を命じた上司の言葉に、部下たちはどう反応したのか――?
人材育成歴30年の田中淳子さんが、人生の先輩たちから頂いた言葉の数々。時に励まし、時に慰め、時に彼女を勇気付けてきた言葉をエンジニアの皆さんにもお裾分けする本連載。前回は、会話を通して人間関係を構築したエンジニアの話を紹介した。今回は、淳子さんが体験した「忘れられない上司の言葉」を2つ紹介しよう
エンジニアはさまざまな人と関わって仕事をしている。社内なら、同じ部署の人、営業部門、管理部門、上司、先輩、後輩、同期……。社外に目を向ければ、顧客、協力会社、ベンダー、ユーザー、多種多様な人と関わる。
その中で1番影響があるのは上司ではないだろうか。上司の言葉は、部下に良くも悪くも影響する。私は、上司に言われた忘れられない言葉がある。良い意味ではなく悪い意味で、である。
その時の状況はこうだ。
土曜日(休業日)に社員全員が参加する終日ミーティングを開くことが決まった。その情報はマネジャークラスのみが知っており、各部でマネジャーが部下たちに伝えることとなった。休日出勤なので早めに伝えなければならないのに、われわれの上司は忘れていた。
そしてミーティング開催日直前の水曜日の午後、突然こう言ったのだ。「今週の土曜日、部門計画について議論する会議があるので全員出てね」。しかも、PCを操作しながら、私たちに一瞥(いちべつ)もくれずにだ!
3日後の休日出勤を突然命じられても、予定が入っている社員はたくさんいる。「子どもの運動会がある」「旅行に行く」「実家に帰ると親に伝えてある」……。
私も自分が幹事をする行事があったので、「既に予定があり、その日は参加できません。必要な資料などは作っておきます」と答えた。すると上司は、PCに向かったまま全く表情を変えずにこう言い放ったのだ。
「仕事より大事なものがあるの?」
私は「へ?」と間抜けな声を出してしまった。他のメンバーもあぜんとして押し黙った。人はとても驚くと、とっさに返事ができなくなるものだ。
ほとんどの人の調整がつかずミーティングが流れたか、上司だけが参加したか、詳細は忘れたが、とにかくメンバーは誰も参加しなかった。上司がもう少しうまく「伝え忘れていて申し訳ない。土曜日にミーティングを予定している。大事な会議なので、調整がつく人は調整してもらえないだろうか」などとアサーティブに言っていたら、メンバーの反応は違っていたのではないか、と今でも思う。
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