NTT Comとミランティスは2016年10月、OpenStackマネージドプライベートクラウドサービスを2017年3月までに提供開始すると発表した。その背景を、ミランティス共同創立者のBoris Renski氏と、NTT Comクラウドサービス部ホスティングサービス部門長の栗原秀樹氏に聞いた。
フォルクスワーゲングループがNTTコミュニケーションズ(NTT Com)と米ミランティスの共同発表したマネージドプライベートクラウドサービスの顧客になるとは、ミランティスの共同創立者でCMOのBoris Renski(ボリス・レンスキ)氏、NTT Comクラウドサービス部ホスティングサービス部門長である栗原秀樹氏のどちらも言っていない。だが、2社が共同で展開する新サービスにとって、理想的なタイプの顧客であることは間違いない。
NTT Comとミランティスが2017年3月までに本格展開を始める予定のOpenStackマネージドプライベートクラウドサービスについては、「NTT Com、ミランティスと全世界でOpenStackのホステッドプライベートクラウドを展開へ」という記事で紹介した。
今回のサービスで2社が強調するのは、NTT Comのグローバルなカバレージと、ミランティスのプライベートクラウド運用ノウハウ。新サービスでは、NTT Comが世界14拠点で展開しているクラウドサービスのEnterprise Cloud、および世界で140拠点を展開しているデータセンターを活用できる。一方、ミランティスはOpenStackプライベートクラウドの運用代行に力を入れてきており、パッチやリリースアップデートについても、顧客に代わって作業を行っている。
今回のサービスを提供するに至った背景について、Renski氏は次のように話した。
「ミランティスの競合相手は当初、他のOpenStackスタートアップ企業だったが、最近ではパブリッククラウドと比較されることが増えている。パブリッククラウドが優れている点は、第1にインフラソフトウェアの運用を高度に自動化し、少ない人数で多くの一般企業に比べ、優れた運用管理を実現していることだ。第2に、効率的で確実なデータセンター・オペレーションを行っていることがある」
「ミランティスは特に過去1年、運用に焦点を当て、これを効率化する機能やツールセットを強化してきた。一方で、パッチやバージョンアップの作業を含む運用サービスに力を入れてきた。だが、データセンター・オペレーションについては、当社では何もできない。そこで、NTT Comと組むことで、パズルを完成させることができた。NTT Comのような規模で世界的に展開しているデータセンター事業者は非常に少数だ。OpenStackに関する経験も深い。当社としては、地域ごとに小規模なデータセンター事業者と提携するといったことをやっている余裕はない。世界的に活動している1社と組むことを考えたとき、選択肢は他になかった」
商用データセンターで、プライベートクラウドとしてのOpenStackを稼働したいという欧州企業は多く、2社は、これまでもRFP(提案依頼)などで一緒になることがあったという。
一方、NTT Comは前述の通り、世界中にデータセンターを持ち、特に欧州では現地企業を積極的に買収したため、おそらく最大のデータセンター事業者になっているという。一方、Enterprise Cloudではサービスの一部としてOpenStackベースのパブリッククラウドを提供しており、その世界展開を進めている。であれば、NTT Comは自社のみで上述のニーズに応えられるのではないのか。
栗原氏はこれを否定し、ミランティスとの提携は必要不可欠だったと答えた。
「マルチテナントクラウドとプライベートクラウドの要件は異なる。マルチテナントクラウドでは、均質なプラットフォームの上に多様なサービスを構築しなければならない。また、NTT Comではネットワークのプロビジョニング、ファイアウォールやロードバランサ―の配備を含め、インフラ運用を自動化するためにOpenStackを活用してきた。だが、こうした活動は、必ずしもそれぞれの顧客のためのプライベートクラウド構築には結び付かない。技術は同一だが、運用のやり方もSLAも異なる」
「ミランティスは、私たちよりも豊富なプライベートクラウド運用の経験を持っている。OpenStack関連ベンダーは多数存在するが、運用に注力し、実績を積んでいる企業は非常に少ない。さらに尊敬できるのは、顧客のリクエストに応じ、運用ノウハウを移転することも厭わないという点だ。だから、ミランティスと組めてラッキーだったと思っている」
「当社が自動化されたデータセンターとネットワークを提供し、ミランティスはソフトウェアやツールセット、そして個々の顧客の求めるSLAを達成する運用プロセスを持ち込み、必要に応じてノウハウ移転もする。非常にいい組み合わせだと思う」
「だからといって、私たちがOpenStack関連の活動を縮小するわけではない。自分たちが得意なことを、これからもやっていく」
では、2社はどのような企業のニーズに応えていくのか。Renski氏は次のように答える。
「多くの顧客が、オープンなクラウドを、自らコントロールしたいと考えている。だが、データセンターからOpenStackに至るまで、運用に関してはノータッチで、パブリッククラウドのような使い勝手を手に入れたいと望んでいる」
「利用規模の点では、どんな大企業でも、スモールスタートしたいと言っている。また、ハードウェアの調達からクラウド立ち上げまでにかかる時間を短縮し、まずはOpenStackのAPIを使ってクラウドインフラを利用し始めたいと考えているところが多い。こうした企業のニーズに応えていく」
Renski氏は、ミランティスの既存顧客の間でも、今回のサービスのようなものを求める声が強いと話す。
「私たちには、プライベートクラウドを稼働し、これを世界的に展開しようとしていて、私たちの支援を期待している既存の顧客がいる。(世界展開では)データセンター、OpenStackの運用を誰かに任せたいと考えている。従って、当初の売り上げの多くは、新規顧客ではなく既存顧客が占めることになるだろう」(Renski氏)
新サービスは、NTT Comとミランティスの双方が販売を行う。欧州ではミランティスが前面に立つことが多いだろうという。一方、日本企業に関しては、NTT Comが顧客とのやり取りを全て担当する。いずれの場合も、顧客は世界中のEnterprise Cloud拠点あるいはNTT Comのデータセンター拠点から選択して、自社のためのクラウド環境を利用できるようになる。
Enterprise Cloudのベアメタルサーバを使って今回のサービスを利用する場合、既に用意されているサーバにOpenStackをインストールするため、立ち上げにかかる時間は短いという。一方、データセンターにサーバをコロケーションする形態を選択する場合は、用途別にサーバの推奨構成を示し、顧客の選択に基づいてハードウェアを調達し、設置してOpenStackを導入するため、1カ月程度のリードタイムを考えているという。
VMware vSphereについては、データセンター事業者が自社の施設で、各ユーザー組織の専用環境を構築し、運用を代行するパターンがよく見られる。今後パブリッククラウドがさらに急速に伸びたとしても、こうした「マネージドプライベートクラウド」のユースケースが消え去るとは考えにくい。
一方、OpenStackというプラットフォーム自体の今後を考えた場合、「運用やアップデートが難しい」と言われているままでは、そのユーザー層は広がりにくい。大企業の、「自社によるコントロールが効くクラウド」を使いたいというニーズを満たすことが、OpenStackの重要な存在価値の1つだとすれば、「運用負荷」という、クラウド的でない要素が立ちはだかってはならない。こうした意味で、2社によるマネージドプライベートクラウドサービスが成功するかどうかは、OpenStackというプラットフォーム全体の、今後の動向に影響を与えざるを得ないと考えられる。
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