OpenStackのコアコミッターが明かす、NTTでOSSコミュニティー活動を主業務にできたワケNTT Tech Conference(2/2 ページ)

» 2017年02月20日 05時00分 公開
[高橋睦美@IT]
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コミュニティーの視点で、責任を持って活動することが重要

 さて、OSSのコミッターは、普段どんな仕事をしているのだろうか。

 市原氏の場合、投稿されてきたパッチをgerritで確認して承認したり、LaunchPad上に寄せられるバグのトリアージを行ったりなどのタスクが多いという。同時に、IRCやメーリングリストで寄せられる質問に回答したり、週に1回程度のペースで行われるミーティングに参加し、大きなトピックを議論したりなどの活動も行っている。時には、プロジェクトのCI(継続的インテグレーション)環境の監視も行っており、要は「プロジェクトを成長させ、維持する仕事」ならば何でもやっている、というイメージだ。

 では、一体どうしたらコアレビューアになれるのだろうか。

 市原氏によると、「1年間で1087件のレビューを行うというレビュー漬けの生活を送った。修正パッチを56件投稿し、新機能の提案も4件行った。それでも、レビュー件数に関してはもっと上がいる。一体いつ寝ているんだろうかと思うほど(笑)」という。同時に、日本で行われるミートアップの幹事を務めたり、コミュニティーのメーリングリストやIRCで寄せられる質問に回答したりと、草の根的な活動も含めて貢献が認められた結果、「コアレビューアにならないか」と声をかけられたそうだ。

 ただ、何でもいいからとにかく多数のパッチを投げればいいのかというと、それは違う。「レビューを行うときは、自分がプロジェクトに対する責任を持っているという感覚を持ち、『もし自分が見逃したらバグが混入してしまうかもしれない』という意識でやっているし、その内容が他のプロジェクトに影響を与える恐れはないか、広い視点を持つようにしている。量より質で、コーナーケースや会社のユースケースではなく、そのプロジェクトやコミュニティーにとって重要な機能を提案したり、修正したりすることが大事だ」(市原氏)

コアレビューアと会社員の両立は可能?

 コミュニティーファーストという視点で活動している市原氏だが、普段の業務との両立はどのように実現しているのだろうか。業務としてコアレビューアという仕事を進めていく際の壁は何なのだろうか。

OpenStackのコアコミッター、市原裕史氏(NTT ソフトウェアイノベーションセンタ)

 市原氏は率直に、「一番大変なのは、会社や上司の説得。『あいつ、ずっとブラウザ見ているけれど、本当に貢献できているの?』という疑問に答え、説得するのはけっこう大変」と述べた。「OSS活動で成果を出せる優秀なエンジニアならば、なおさら内製プロジェクトの開発に回す方が、会社としての成果につながるのではないか」といった声もある中、市原氏が頑張ったのは、地道な「報告」だ。

 「自分はコードを書く方が好きだが、まず計画書を書き、事細かにアクションプランや方針を記し、コミュニティー活動の必要性を示した。それに進行度合いの報告も大事で、半期単位と週単位で『○件レビューを行った』という具合に事細かに報告を行っている。これらの報告のフォーマットはPowerPointやExcel。つまり僕はExcel表で管理されてます(笑)」(市原氏)。企業の事業計画同様、OSSのプロジェクトも、計画通りにいかないこともある。そんなときも「議論はされたものの今回はコミットされなかった」といった具合にきちんと報告しているそうだ。

 さて、コミュニティー活動はワールドワイドに行われており、特に北米とのやりとりが多いことから、ミーティングは深夜に行われることも少なくない。市原氏は裁量労働制が認められてはいるものの「日本の業務時間とOSSの活動時間はかぶらず、たいてい深夜。そこで、これは会社として必要な業務であると説明し、深夜勤務の申請を行った上で参加した」(市原氏)。ここを「なあなあ」にしたまま、こっそり参加しても、あまりいいことはないのではないかという。

 NTTには、パッチ投稿時の知的財産処理フローを整理するなど、先にコミュニティー活動に参加して道を整備してくれた先達がいたことも大きかった。市原氏は、さらにミーティング参加時の深夜勤務申請の道筋を整理したり、継続的な英語学習補助の必要性を訴えたりといった形で、エンジニアがコミュニティー活動に参加しやすいフローを追加しているという。

 現在、市原氏の業務の90%はOSSに関する活動だ。これは「苦労の末勝ち取った権利」であり、会社にもきちんと評価されているという。週に2日間は在宅勤務とし、自宅の作業環境も集中してコードレビューが行えるよう最適化しているそうだ。ちなみにポイントの1つは、ミーティングを最小化し、あるとしても特定の日に集約したことだ。失礼ながら、NTTの企業文化とは相反するように見えるが、「『こいつはミーティングに出てこないな』ということを周囲にご理解いただいている」(市原氏)という。

 時に、議論の中でネガティブな意見をぶつけられたり、数十件ものレビューを進めてさすがに疲労を覚えたりと、ふと「自分は一体何をやっているんだろう」と負の感情が涌いてくることも確かにあると市原氏。しかし「世界中に使ってくれている人がいるし、多くのフィードバックをいただける。それを糧にして頑張っている」そうだ。

 先日、Rubyのコアコミッターである笹田耕一氏が、その活動を評価されてクックパッドに入社するなど、OSSコミュニティーでの活動が社会的に認められつつある。市原氏をはじめNTT内のコミッターも、会社への貢献とコミュニティーへの貢献を両立させるべく、取り組みを進めていくという。

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